政府が企業に対して女性役員の起用を要請したが、なぜか干渉を嫌うはずの財界から反対の声が上がらない。「働き方改革」成立の見返りになっているのだろうか。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。
企業介入がエスカレート。政府にとって「都合のいい」計画経済へ
おせっかいが過ぎる政府
政府は上場企業に女性取締役の起用を促す。今春に改定するコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)に方針を示し、取締役会に女性がいない企業は投資家に理由を説明するよう求める。上場企業の役員に占める女性の割合は、欧米は2~3割だが日本は4%弱にすぎない。国際標準に近づける仕組みづくりが急務だった。
何を寝ぼけたことを…。
総理による賃上げ要請といい、全くナンセンスなお話。民間の自由な発想に委ねた方が経済は効率化、発展するという考え方はどこに行ってしまったのか。
知らない間に日本は政府が「都合のいい時に、都合のいいところにだけ」企業の行動に介入する「都合のいい計画経済」に近付いている。嘆かわしいことだ。
政府がこんな不必要なおせっかいを焼けば、既に実力で役員になっている女性も、今後役員に登用されることになる女性も「特別枠」での登用だと色眼鏡で見られることになる。失礼な話だ。
まずは霞が関で試すべき
企業に「説明責任」を求めるとなっているが、総理自らが国会で国税庁長官の人事に関する質問に対して「適材適所」という模範解答を繰り返しているので、実質的に企業側には何の「説明責任」もないのと同じ。
官僚の世界は、「キャリア組」と「ノンキャリア組」に明確に分かれているが、「女性役員登用要請」は民間企業に「女性という“キャリア組”」を作ることを要請するに等しい。
上場企業にお願いするよりも前に、官邸が人事権を握っている霞が関で女性幹部を増やし、組織が効率的、効果的になるかの実験をしてみるべきだ。国税庁長官という絶好の実験材料があるのだから。
Next: なぜ政府の干渉を嫌う財界が反発しないのか?
「働き方改革」成立への見返りか
政府が示す女性登用を義務付けるかのような方針は、政権の人気取りにしか見えない。
本来、政府からの干渉に反対するはずの財界から反対の声が上がらないのは、「女性役員登用」が、財界が強く要望している「働き方改革」を今国会中に成立させる見返りになっているからのように思えてならない。
この仮説が正しいとすれば、それは財界にとって「働かせ方改革」の方が「女性役員登用」よりもずっとメリットが大きいということの証左だといえる。
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『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2018年2月28日号)より抜粋
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