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グローバル株主資本主義が進むとその国は退化する?

日本株が好調に推移し、2000年のITバブルの天井を超えました。この株高には外国人投資家が大きく影響していると言われています。この状況が続くことに警鐘を鳴らすのが、中小企業診断士であり作家の三橋貴明さん。グローバル株主資本主義が進むことで、その国は退化していく恐れがあると伝えています。それはなぜなんでしょうか?

グローバル株主資本主義と人類の退化

グローバル株主資本主義、すなわち国境を越えて投資する株主の意見を重視する資本主義は、人類を退化させることになる。

ここで言う「退化」とは、国民が豊かに、安全に暮らせる社会が遠のくという話である。すなわち「逆・経世済民」の進行だ。

具体的に発生する現象は、主に二つ。

一つ目は、もちろん道路やトンネル、橋梁、港湾、上下水道、送電網、空港、鉄道、ガス・パイプラインといった基礎的なインフラストラクチャーが老朽化し、利用不可能になっていく問題である。

分かりやすい例を挙げておくと、大東亜戦争敗北後の日本だ。当時の日本は、アメリカとの戦争に敗れ、国内の各インフラが破壊しつくされた状況にあった。

無論、日本は先進国であり、インフラの建設能力は保有していたため、戦後に瞬く間に復興を成した。それでは、当時の日本にインフラ建設能力がなかったら?

現在でも我が国は、経済力(モノやサービスを生産する力)が不足する発展途上国のままだっただろう。

グローバル株主資本主義は、株式市場に「外国人」が影響を与えることで、各国政府の経済政策を画一化していく。トマス・フリードマンのいう「黄金の拘束衣」を着せられた各国政府は、法人税減税、消費税増税、労働規制緩和など、株主におもねる政策しか打てなくなる。

さらに、国内の公共サービスに投資家の新規参入を可能とするため、いわゆる「財政破綻論」が強調され、緊縮財政が強行される。当然ながら、政府の緊縮財政はインフラのメンテナンスコスト削減を強要する。結果的に、国内のインフラは次第に質を落とし、最終的には利用不可能になる。

財政均衡主義を貫くドイツにおいて、高速道路網アウトバーンにおいてまで、速度制限をしなければならない個所が出てきているのが典型だ。そもそもの目的、すなわちインフラの質を維持することが疎かにされ、「政府の節約」が推奨されてしまうのである。

結果、その国の国民は「退化」に見舞われる。

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二つ目の理由は「経営者から長期的な視点を失わせしめる」こと

二つ目。グローバル株主資本主義の蔓延は、経営者から長期的な視点を失わせしめる。というよりも、経営者の報酬もストックオプションが中心になっていき、株主と経営者が一丸となって「短期の利益拡大」を目指すことになるのだ。

当然、生産性向上の効果が出るまで長期間必要で、それどころか成果が出るか否かも投資時点では不明な技術開発投資は、次第に忌避されるようになっていく。重要なのは株価を引き上げ、配当金や自社株買いを増やす「短期の利益」というわけで、正しい意味での「企業の競争力の強化」が疎かになっていくのである。

とはいえ、企業が存続・成長していくためには、技術導入は必要だ。というわけで、多くの企業が、「技術は外から買ってくればいい」という、「技術の本質」を無視した経営となっていく。

技術の本質とは、「真の意味における技術力とは、蓄積によってしか磨かれない」という点になる。「蓄積」の中には、当然ながら各種の失敗が含まれる。最終的に実が成った技術の背後には、無数の「失敗」が必ず存在しているのだ。

ところが、短期的な利益を追求する企業経営者や株主は、失敗を許容できない。結果的に、企業の技術開発投資は下火となり、長期的な「退化」が始まる。

酷い話であるが、先の「財政均衡主義」と短期的視点が結びつくと、大学等、本来は短期的利益を追求するわけではない組織体までもが「四半期の成果」を要求されるようになっていく。すでにして、我が国の大学においても教授らは「短期の成果」を要求され、結果を出せない場合は予算を削られるなどの憂き目に会っている。

そもそも、短期的な利益が出ない研究開発だからこそ、公の機関である大学が担当するべきなのだ。それにも関わらず、グローバル株主資本主義の蔓延は、象牙の塔であるべき大学内においてまで短期利益を要求するようになっている。

グローバル株主資本主義に何らかの規制をかけない限り、今後の世界は「技術発展が需要に追い付かない」状況になり、「技術が需要を創出した」過去二十年間とは真逆の環境に置かれることになるだろう。

週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.318より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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