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ビットコインを叩きのめせ。G20が仮想通貨を目の敵にする納得の理由=E氏

今年は仮想通貨「規制元年」と言われています。日本では、金融庁が複数の仮想通貨交換会社を一斉に行政処分する方向で最終調整に入ったとの報道が出てきました。そして、今月19~20日に開催されるG20では、仏・独が「国際的な規制」を呼びかける方針です。なぜ仮想通貨は、世界各国で問題視されるのでしょうか?(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

プロフィール:E氏
国内大手生保、ゴールドマン・サックス、当時日本最大のヘッジファンドだったジャパン・アドバイザリーでのファンドマネージャー経験を経て、2006年に自らのヘッジファンドであるINDRA Investmentsを設立し国内外の年金基金や富裕層への投資助言を開始。2006年10月からのファンド開始後はリーマンショックや東日本大震災で、期間中TOPIXは5割程度下落した中で、6年連続のプラス(累積30%)のリターンを達成。運用歴25年超。

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近い将来、国際的な規制が入る? なぜ世界は仮想通貨を恐れるのか

2018年は仮想通貨「規制元年」

昨年12月を高値に大幅下落が続いていた仮想通貨市場ですが、規制強化を打ち出しながら一転して規制に及び腰になった韓国政府の対応変化や、ゴールドマン・サックス支援のモバイル決済会社が仮想通貨取引所運営のポロニエクスを買収決定したこともあって、このところ戻り歩調になっています。

ただ、マーケットが下落したきっかけである懸念、規制強化のリスク取引に対する信頼性などは依然として解決していないので、このまま一本調子で上がるかどうかは予断を許しません。

実際、今年は仮想通貨の規制元年と言われており、今月19~20日にかけてアルゼンチンで開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、フランスとドイツが仮想通貨の国際的な規制を呼びかける方針です。

中央銀行総裁も仮想通貨に対しては総じてネガティブで、日銀の黒田総裁は仮想通貨を「仮想資産」と衆院予算委員会で言い切りました。また、英国中央銀行のカーニー総裁は、仮想通貨は金銭として機能しないうえに、金融バブルの兆候をもたらしていると言及しているため、何の規制もかからずこのままいけるとは考え難い状況です。

現時点で仮想通貨に対して規制がかかるかどうかを予測することは困難ですが、通貨か商品かはともかくとして、仮想通貨が問題のあるスキームかどうかを理解しておく必要があるでしょう。

仮想通貨は「通貨」なのか?

いま、仮想通貨を取り巻く論点は交錯しています。まずは、規制云々の前に、仮想通貨が通貨なのか商品なのかを考えてみましょう。

どちらでもいいと思うかもしれませんが、それは違います。

もし通貨機能を担っているのなら、現行の仮想通貨は明らかに不備なうえに、中央銀行管理に入っていないので、強力な規制の対象になります。規制が進めば、今のような乱立状態は早期に解消し、最終的には中央銀行発行による仮想通貨のみになるでしょう。その理由は、通貨の歴史や中央銀行が果たしてきた役割を翻ってみれば分かります。

一般的に、通貨には「決済機能」「価値の保存や保管の機能」「価値の尺度」の3つの機能があるといわれています。つまり、その資産に価値があるだけでは決済には使えませんし、決済で使えても価値の尺度を測る物差しとしての機能が不十分なら通貨とは言えません。

そして、これらの機能があるから、経済の過熱を冷ましたり、経済低迷から脱却させるための金融調節に使えるのです。価値の裏付けがしっかりしているからこそ、為替市場のように国同士の相対的な物価調整にも使えるし、経済の調整にも使えるのです。

しかし、仮想通貨は裏付けとなる資産がないので、通貨に価値が内在していないため、他の財貨の価値を測る尺度として適切ではありません。

Next: 通貨じゃないなら「規制」はどうなる? 円やドルとの違いとは



「ゴールドに変えられない紙幣も同じでは?」という疑問

今の日銀券などもそうではないかと思われるでしょうが、それは違います。

古来、通貨は金や銀などの貴金属でした。それが利便性の観点などで、紙幣などに置き換わったのですが、長らく中央銀行発行の銀行券は裏付けとなるゴールドなどの資産への交換が可能でした(兌換と言います)。

米国がゴールドとドルとの交換を止めたニクソンショック以降、ゴールドの兌換はなくなりましたが、その代わり各国中央銀行は主に国債を保有することで銀行券の裏付けを行ってきたのです。

それは日銀を始めとする中央銀行のB/Sを見れば明らかで、銀行券は負債勘定であり、保有国債などが資産に計上されています。

つまり、日銀は国債を担保にして銀行券を発行しているのです。今は国債への交換は行われていませんが、こういう資産の裏付けがあるので、各国の通貨同士の価値比較が可能になり、為替相場が形成されているのです。

一方、銀行券の役割はそれだけではありません。中央銀行が銀行券を管理し、その発行ペースをコントロールすることで国の金融調整が行われています。

銀行券の発行増減でマネタリーベースのコントロールをして、経済の過熱を防ぎ、低迷から脱却させることが可能なのは、銀行券が実体経済全体の決済機能を担っているからですし、それが可能なのは保管や取引の信頼性が担保されているからです。どこに置いていても、流通させても大丈夫なので、金融調節をするとタンス預金などが炙り出されて来たり、預金に回ったりするのです。

コントロールが効かない仮想通貨

では、仮想通貨はこういった機能があるかというと、ほとんどありません。

謳い文句の決済機能は、1取引あたり1000円以上もする高い手数料もあって、現実的な決済手段として成り立ちません。また、保管しているだけで消失してしまう恐れも発覚しました。さらに今回の急落のように、何かあったときに裏付けとなる資産が全くないので、どこまで下がるかすら見えません

上がり続けていれば信頼性はあるでしょうが、資産価値が上がっていれば安心なのは仮想通貨に限らずゴルフ会員権や投機不動産もそうで、一旦下がったときの裏付けが全くないのが問題なのです。

Next: 各国中銀が「仮想通貨は邪魔だ」と思うのは当たり前



「通貨もどき」が経済成長を阻害する

また、仮想通貨は政府や中央銀行機関からの独立性を謳い文句にしていますが、通貨となるとこの存在自体も問題になります。

元々は時の政権が通貨を発行していたのに、なぜ政府から独立した中央銀行が通貨管理を担うようになったのか。それは無尽蔵の発行を食い止め、通貨価値を維持させるためです。

現在、政府が通貨発行を行っているのは北朝鮮など独裁主義国家のみです。政府による通貨発行を認めると、支持率対策で無尽蔵に公共投資をするために通貨を大量発行したり、国民に通貨をばらまく(本田駐スイス大使の持論であるヘリマネです)恐れがあります。そして、このようなことをすると通貨価値は暴落します。

一旦、暴落したり価格変動が激しくなったら、(ハンカチ落としのゲームのように)決済のために一時的に保有しているだけで価値が目減りしてしまうのです。もちろん保管などもってのほかですが、誰も手元に持ちたくないような通貨は銀行に預けられることがなくなりますので、そうなると(預けた貨幣が資金ニーズのある借り手に回ることで経済が循環していく)信用機能が急速に失われていくのです。

そうなったら、新興企業は生まれないので経済は疲弊し、やがて破綻するでしょう。一人二人が、自分さえ良ければと思っていても問題ありませんが、信用機能のない通貨もどきがある程度以上の規模になってしまうと、信用機能の邪魔になってしまうのです。それが、今の仮想通貨市場なのです。

規制が入るのは当然

つい、一昨年までは無視できる存在でしたが、仮想通貨の時価総額は昨年のピークには40兆円以上になったと思われます。膨れ上がった時価総額の分はどこかからマネーを吸い上げてしまったのですから、各国中央銀行が必死に金融調整をしても、効果が半減してしまうようになったのです。

黒田日銀総裁の量的緩和のピークは年間80兆円のマネタリーベース増加をしており、一昨年9月の政策変更以降の実質緩和縮小で、年間40兆円規模までマネタリーベースの増加は減少しています。昨年の仮想通貨の時価総額は、この日銀の年間のマネタリーベース増加以上にまで拡大したのです。

この巨額のマネーが市況の乱高下で、仮想通貨から他の資産へと目まぐるしく資金シフトしたらどうなりますか?

当然、中央銀行の政策コントロールにも甚大な悪影響を及ぼすでしょうから、規制が入るのは当然でしょう。

Next: 通貨じゃなくても、実体経済に影響を与える存在になった



仮想通貨の「コスト」が実体経済を阻害する

仮想通貨の問題は、価格の裏付けがないため「乱高下しやすい」ということだけではありません。そのコスト構造も実態経済に大きな影響を与えるのです。

ご存知のように、仮想通貨はマイニングという決済の紐付けを行うことで通貨を生成するわけですが、決済量が増えれば増えるほど生成コストはうなぎのぼりになります。

このコストを補って余るだけ仮想通貨市況が強含めば、仮想通貨の供給量は増えるでしょう。そうでなかったら、通貨供給は抑えられてしまうのです。

このスキームが早晩問題化するということを理解するためには、仮想通貨市況が一定の場合で考えてみましょう。この状況で実体経済が過熱したら、マイニングに必要な電力コストが上がりますので、マイニングコストも上がるでしょう。すると、経済が過熱する状況下では仮想通貨を発掘しても採算が合わず、供給が減少してしまいます。すると、仮想通貨市況は一定ではなくなり、上昇するでしょう。当然、経済が過熱しているのですから、上昇は大幅なものになります。そうなると普通の上昇ではなく、昨年のような投機的な動きになってしまいやすいのです。

次に、仮想通貨の価格上昇が実態経済の成長率を上回るスピードで成長する世界を考えてください。この場合、電力コスト上昇以上に仮想通貨価格が上がるので、通貨供給量は増えるでしょう。このため仮想通貨の市況は安定するでしょうが、決済量が増加するにつれて生成コストが増えていくので、世界の電力消費量に影響を与えます。つまり、この場合も仮想通貨が実態経済の阻害要因になってしまうのです。

何を大げさなと思うでしょうが、昨年末時点で、仮想通貨生成に必要な電力コストの合計はベルギーの電力量を上回ったと言われています。世界のGDP順位で24番程度の同国の消費電力量を通貨発行のために浪費している仮想通貨が、このまま成長をしていったらどうなるでしょうか? 例えば、年率10%で生成に必要な電力量が増えていったら、10年後にはGDP10位程度の規模の国の電力量を浪費するほどまでの存在になってしまうのです。

電力量に市況が連動するわけではないというのはもちろん分かっていますが、取引量が増えるほど生成コストが飛躍的に上昇する仕組みなので、電力コストの上昇ほど通貨供給を増やせないので、人気が出れば出るほど実態経済に不可欠な電力を浪費する存在になってしまうという一面も持っているのです。

仮想通貨は、通貨としては問題があるし、金融政策にも支障が出るほどの規模になってしまいました。そして、通貨でないとしても、その生成スキームから実態経済の足を引っ張るほどの存在にまで大きくなってしまったのです。

Next: G20の結果にかかわらず、近い将来「世界的な規制」が入る



近い将来「世界的な規制」が入る

仮想通貨は、昨年までは商店街で使われる商品券に毛が生えた存在だったので、大目に見てもらえていただけです。

本質的には通貨としての機能を備えていないし、通貨でなくても実態経済の足を引っ張っています。そして、金融政策に影響を与える規模になってしまった以上、規制が必要かどうかは常識で考えればわかることでしょう。

仮に、今回のG20で議論されなくても、近い将来なんらかの規制が入るでしょう。

もし規制がかからないまま走り続けたら、中央銀行の金融政策は崩壊し、実体経済に深刻な打撃を与える存在になってしまうでしょう。

「出る杭は打て」です。芽を摘むのは今のうちなのです。

image by:railway fx / Shutterstock.com

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年3月8日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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