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一枚岩が崩れた政府と日銀。「2%目標」の食い違いが生む株価急落リスク=山崎和邦

日銀・政府はともに物価2%目標を堅持する姿勢を示してきたが、ここに来て食い違いが出てきた。政府が20年以降の物価上昇は1%台という前提で動き出したのだ。(山崎和邦)

※本記事は、有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』(罫線・資料付)*相場を読み解く2018年6月3日号の一部抜粋です。今月分すべて無料の定期購読はこちらからどうぞ。

政府は物価上昇1%を想定。このままでは不況期に打つ手がない?

政府と日銀との間に距離が生じた

日銀・政府はともに、政策協定では2%目標を堅持する姿勢を示してきた。

しかし内閣府は、初めて試算した2040年度の社会保障の長期計画において、20年以降の物価については「1%台」という低い伸び率を前提にしている。「異次元緩和」の大規模な金融緩和の限界を前提として、将来の社会保障費の長期推計をしている。政府・日銀は経済成長率を年率2%前後とする基本シナリオであったが、政府は22年度以降の物価上昇は1.1%と想定したのだ。

これは、日銀の2%目標との整合性が取れているとは言い難い。政府と日銀との間に距離が生じたように見える。

一方、日銀は、地銀を中心に大規模緩和の副作用で収益悪化に歯止めがかからない問題に対して、現行の金融政策に行き詰まりが生じつつあることを承知しているはずだ。黒田総裁は30日の講演で2%目標の距離を見せる中で「失われたインフレ状態」にあると表明した。

世界に例を見ない、日銀の異様な政策

株価操作を目的として、ETFを市場から購入し続けている中央銀行は世界中にない

現在、日銀の株式保有高は約20兆円に達した。黒田総裁の就任前には1.5兆円だったから、現在の20兆円というのは相当に膨張したことになる。

中央銀行としては極めて異様な、おそらく世界で例のない政策にもかかわらず、日銀は止められない状況に陥っている。

そしてここに来て、日銀がETFを買うとインフレを誘導するという因果関係はかなり希薄になってきた。

この政策を始めた当初は「将来は必ずインフレになる」と国民が信じれば、「期待先行」によってインフレが訪れるという観念相場を想定していた。しかし、思わぬ原油高などが影響したことも要因としてあるが、当初の想定は成立しないことが明確になってきた。

そうなると日銀の株式購入減額を決断すべき時期が来るであろうが、そうなると発表した途端に株式は急落するであろう。

Next: 日銀の強烈な市場介入とそれを支持してきた安倍政権。出口はどうする?



日銀の強烈な市場介入と、それを支持してきた安倍政権

ところが、出口戦略を論ずる時期ではないと言ってその是非を伸ばしている間に、世界経済や日本経済の失速が始まれば、日銀は次の景気拡大局面までまた年間6兆円ベースのETF購入を継続せざるを得なくなってくる。

日銀の政策委員会はこのETF購入策に限らず、市場の価格形成に強烈に介入する政策をとってきた。

またそれを安倍政権も与党も強く支持してきた。現在の日銀総裁と副総裁2人はその目的のために就任したとさえ言える。そのために選ばれた3人だとさえ言える。

中銀の介入を嫌う米国保守派

米国の保守派は中央銀行が経済に介入することを昔から嫌う傾向がある。リーマンショック直後は仕方がなかったとはいえ、大規模な介入の継続は経済の活力を減殺させるという意識が米国の保守派には強い。

それは連綿と受け継がれた一種のイデオロギーである。FRBがETFを購入するということは、共和党員には夢にも考えられない方針であろう。

FRBのパウエル議長は、FRBのリーマンショック後の緊急措置から始まった人工的な低金利政策によって、バランスシートは歴史的な平衡を失った状態であると批判した。「FRBの仕事にないことを行って、道を外すべきではない」と念を押した。

2月27日の下院金融委員会の共和党委員会で共和党の委員長が「金利は市場で決定され、市場機能を通して効率的に決まる道のりを期待している」と釘を刺した。これはFRBのパウエル議長に確認を迫った言葉である。

長引く「超緩和」で現れた副作用

「物価2%上昇の達成よりも前に、大規模な金融緩和の修正に動く日銀」、市場ではこういう憶測がなされている。

長引く超緩和でその副作用が取り沙汰されている。特に目に見える形で出ているのは、銀行業界の苦境である。地銀の半数以上が赤字に陥る。現行の緩和効果と副作用のバランスが必要になってくる。

また、米欧に遅れた「出口戦略」は、日銀だけが一人で取り残される恐れがある。景気が「拡大期」にある間に、少しでも将来の景気復調政策のために金利を下げるノリシロをつくっておかねばならない。今の状態では、景気が失速しても金利を下げて景気浮揚させる余地がない。「2%」が見通せない中で、早期達成に固執するままでは副作用とのバランスがとれなくなる。

繰り返すが、最も大事なのは近い将来に景気が軟化して景気浮揚策が必要になった場合に、今のままでは金融政策を打つ手がない。それのノリシロをつくっておかねばならない。

米FRBが出口戦略を急いだのは、黄金の60年代の108ヶ月とITバブル時代の120ヶ月とを超えた史上最長の好景気を迎え、これが反転した場合の金利政策のノリシロをつくるためである。

言うまでもなく「出口戦略」は即座に株式下落につながる

Next: 根強い内閣政権支持。安倍3選もありえる状況に



内閣支持率は30%を維持

昨年の9月19日・20日に行われたいくつかの世論調査では、内閣支持率が若干上昇に転じた。モリカケ問題の真っ最中においてである。

そして、朝日新聞が5月19日・20日に行った最新の調査では、モリカケ問題について「疑惑は晴れていない」が83%、「疑惑は晴れた」は6%である。この問題に対して、安倍政権が「適切に対応していない」が75%、「適切に対応している」が13%である。モリカケ問題だけではない。色々連続して起こった。これだけのことが起これば、内閣支持率は30%を割れるのが普通である。

今は、リクルート疑惑で政権が揺れた竹下政権の末期と同様か、それ以上にひどい状態である。しかし、何故か内閣支持率は前月の31%から36%に上昇した。

不思議に余裕の「安倍政権」

不支持が支持率を上回るデッドクロスが3ヶ月続いているが、不思議なくらいに政権側には余裕がある。支持率低下が底を打った感じさえある。そうなると自民党内に首相の地位を脅かす有力な候補は存在しないし、野党の質問力の低劣さ、団結力の無さなどを合わせれば、このまま国会を乗り切れば自民党の支持層の応援を得て「安倍3選」の可能性もあり得る。

自民党支持層に限ると「安倍政権を続けて欲しい」が62%、「続けて欲しくない」が28%である。

1つの試金石は6月10日投開票の新潟県知事選挙である。これは原発問題だけの問題ではない。東京電力株にかかわる問題だけではない。野党が市民運動との協力で候補を一本化し、いくつかの選挙で勝利してきたという県である。政権対野党連合という対決が行われた県である。立憲民主党と国民民主党の一体化が不可能であることは明白である。しかし新潟県という地域においては2年前の参院選挙以来、野党が市民運動との協力で候補を一本化した。

民主党と国民民主党が来年の参院選挙において野党各党の統合の構想を持ち、他の野党を巻き込むことができるかどうかが問題である。

今、それを進める坂本龍馬がいない。英雄は時代が生む場合もあるが、時代が要請して生まれることもまたある。だから何が起きるか判らない。新潟は野党側から出た原発反対知事が勝つ可能性があろう。

【図1】株価は先行して、思惑・期待等で先行して動き、材料が実際に出たとはその逆に動くケースが多い

株価推移は1つの物語となっているので、材料が出てきたからすぐに飛びついて安易に売買せず、その材料をすでに市場は織り込んでいるのかどうかの見極め、そのための株価推移をじっくり追ってゆく「準備」が必要に。

【図2】2016年10月の選挙時と同様に、「期待先行」の動きから、6月12日の投開票の接近に伴って「警戒」の動きとなってきている。

短期的なトレンド転換を測る「3線転換」では、まだ2本の陰線の為、現状では597円を終値で超えないと上昇トレンド転換となる「陽転」はならずハードルは高い。しかし今週は投開票を目前に「警戒」で、終値での小幅な安値更新が続き、新たな陰線が加わった方が、寧ろ選挙結果の判明以降に「陽転」し易くなってくる。

仮に選挙結果が原発再稼働反対の候補者の勝利となろうとも、支持水準に変化している480円水準に接近してきていることなどから、選挙結果を受けた11日(月)以降の動きに注目したい。

改めて、今週は小幅な安値更新が続いた方が、むしろその後に「陽転」し易くなることを強調したい。

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※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報 「投機の流儀 (罫線・資料付)」*相場を読み解く』2018年6月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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山崎和邦 週報「投機の流儀(罫線・資料付)」』(2018年6月3日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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