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移民大国へ舵を切った日本。外国人労働者50万人増で起こる6つの問題とは=北野幸伯

日本政府は2025年までに外国人労働者50万人増を目指す方針を発表しました。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、差別的「3K労働者」としてだけの受け入れになるのであれば反対すると切り込み、ロシアに16年住み考察した外国人労働者を取り巻く問題を6つ掲げ、日本社会も同じ轍を踏む可能性があると結んでいます。

ロシアの事例から考える、外国人労働者受け入れ成功の鍵とは?

「日本政府、外国人労働者を【50万人】増やす方針」てどう?

日本政府は、外国人労働者の数を、【50万人増やす】そうです。

政府は骨太方針の素案で、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた新たな在留資格の創設を盛り込んだ。新資格で2025年ごろまでに50万人超が必要と想定する。人手不足の深刻化を受け、実質的に単純労働分野での就労を認める方針転換となるが、現行制度でも受け入れ後の生活保護受給者増や悪質な紹介業者の存在など解決すべき課題は山積しており、一筋縄では行きそうにない。

出典:外国人労働者50万人超必要 25年までに 人手不足深刻化で転換 – Sankei Biz(2018年6月6日配信)

私は10年前、『隷属国家日本の岐路~今度は中国の属国になるのか』という本をダイヤモンド社から出しました。そこで、1章使って「移民問題」を語っています。今日は、この本から引用しようと思っています。

いくつか注意点があります。

1つ目は、この文が書かれたのは「10年前」だということです。情報は当然古いですが、問題の本質は変わっていません

2つ目は、「移民と外国人労働者は違う話だ」という批判が出ることでしょう。私は、「外国人労働者はいずれ移民に転化する」という意見です。実際、欧米、ロシアでそうなっているのですから、日本だけそうならないとは思えません。この件については、有本香さんの記事、「『移民ではなく、外国人労働者』という詭弁は幾重にも罪深い」に賛成します。

3つ目、私は「移民」「外国人労働者」全般に反対なのではありません。「外国人差別が根底にある」「差別的3K移民3K外国人労働者の大量受け入れに反対しています。どういうこと? 以下、08年9月出版『隷属国家日本の岐路』からの引用です。

3K移民受入れで起こること

少子化対策のもう一つの方法は、「移民を受け入れること」。「少子化で労働力が不足するから、移民を大量に入れよう」と主張している人がいますね。2050年には人口が9,000万人になる。それなら、「移民を3,000万人入れれば1億2,000万人で、今の経済規模を保てるではないか」というのです。そして最後に、「欧米もやっているでしょ?」と必ずいいます。

私は、3K移民の受入れに大反対です。

最初にお断りしておきますが、私は外国人嫌いでも人種差別主義者でもありません。私はモスクワに16年住んでいます。大学時代は、ロシア人と、東欧諸国・中国・韓国・東南アジア・欧米の学生達と共に仲よく学んでいました。今も接する人々の90%以上は外国人です。主にロシア人ですが、モスクワは他民族都市ですので、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン、ウクライナ、モルドバ、中国、ベトナム等々の人々が山ほどいます。私個人は、どこの国の人々にも偏見を抱いていませんし、問題なく暮らしています。

しかし、社会的現象として、移民を大量に受け入れた国では必ず問題が起こるのです。

「欧米も移民を大量に入れているではありませんか」と主張する人は、現実を知らないか、知っていて一部しか分かっていません。欧米でもロシアでも、移民は大問題になっているのです。

フランスでは移民による大暴動が発生し、イギリスではテロがあり、アメリカでは大規模デモがあり、ロシアでは民族主義者の移民殺害が相次いでいます。皆さんも、05年11月に起きたフランスの移民大暴動を、テレビでごらんになったでしょう。市内の自動車をかたっぱしから焼き、商店の窓を無差別に破壊していく移民たち。どこで手に入れたのか、移民の若者がライフルをぶっ放し、34名の警察官が負傷したと報じられています。

移民の人々も、毎日ハッピーに暮らしていて、ある朝起きたら「今日は暴動起こそうかな?」と思いつくのではないでしょう。日ごろの恨みが積もり積もって暴動になったに違いありません。07年2月5日の毎日に以下のような記事があります。

<フランス>黒人の56%が連日の差別 民間団体が初調査

【パリ福井聡】仏民間団体「黒人の代表評議会」が先月実施した、フランス在住の成人の黒人を対象とした初めての意識調査によると、回答者の56%が「連日、差別の犠牲になっている」と感じ、61%が「過去1年間に1件以上の差別にあった」と述べたということです。

どうですか? 移民先進国フランスでもこうなのです。

Next: 「移民問題と差別」の原因とは



移民問題が起こるプロセス

世界で起こっている移民問題を知ると、「どこでも人間は変わらないものだ」と考え込んでしまいます。私の住むモスクワを例に問題が進行していくプロセスを考えてみましょう。

まず、ソ連時代。私がゴルバチョフにあこがれてモスクワに来たのは、ソ連崩壊前の1990年。当時、物不足はひどかったですが、治安は悪くありませんでした。また、民族差別も深刻ではありませんでした。

ソ連崩壊後状況は変わります。92年は年2,600%のハイパーインフレ。ロシア国民は貧困に突き落とされた。状況が「第1次大戦後のドイツに似ている」ということで、「ロシアにファシズムが現れるのではないか」と世界が心配していました。事実、93年の議会選挙では「東京に原爆を落とす」発言で知られる、極右ジリノフスキーの「ロシア自民党」が第1党になっています。この当時から、民族差別が深刻化していくのですが、今の日本とは状況比較になりませんので、先に進みます。

連邦崩壊で、ソ連は15の独立国家になりました。しかし、その後明暗が分かれます。石油生産世界2位・天然ガス世界1位のロシアは、原油価格の上昇と共に、経済が急成長していきます。プーチンが大統領になってから7年間、年平均6~7%の成長を続けている。それで、ロシア比で生活が苦しい中央アジア・コーカサス・ウクライナ・モルドバから、大量の移民が入ってくることになったのです。

私が普段見かける光景をお話します。道の清掃や雪かきをしているのは、全部ウズベキスタンなど中央アジアの人たちです。モスクワでは建設ラッシュが続いていますが、現場の光景は、やはり同じです。また、青空市場に行くと、中央アジア、コーカサス、ウクライナ、モルドバ人が売っていて、ロシア人は見かけません。連邦崩壊後に旧ソ連からモスクワ来た人たちは、おそらく90%以上がロシア人の嫌う仕事をしているはずです。

実をいうと、これが移民問題と差別の原因になるのです。

「少子化で労働力が不足するから」と移民推進派は主張します。本当でしょうか? 例えばフランスはカトリックの国ですが、移民のイスラム教徒が人口の7%を占めています。ところが、この国の失業率は9%が普通。もしイスラム系移民がいなければ、失業率はずっと低かったでしょう。

ちなみに日本の失業率は4%。まず日本人の完全雇用を実現してから移民受入れを検討していただきたい(北野註:08年は失業率4%でしたが、今は2.5%まで下がり、人手不足が深刻化しています)。

ところで、フランスはなぜ移民を入れたのでしょうか? 要するに、フランス人が嫌がる分野の労働力が不足したから。

「フランス人が嫌がる仕事は、旧植民地の連中にさせればいいさ!」

どうでしょう。私が「移民に反対するのは、外国人を差別しているからではない」という意味、ご理解いただけるでしょう。逆に、移民を推進する人の方に差別意識がある。なぜなら「労働力が不足する分野」というのは、「自国民が働きたがらない分野」に決まっているからです。

日本でもおおっぴらには言いませんが、「日本人が嫌がる仕事は、貧乏な中国人や東南アジア人にさせればいいや」という意識があるのでしょう。(まあ、「そのとおり!と公言する人もいないでしょうが…)。

フランスの黒人が差別を感じ、イスラム系移民が暴動を起こす。これは、彼らの大部分が尊敬されるポジションを確保できていないことを示しています(サッカーのジダンなどは例外)。

さて、ロシアに話を戻します。モスクワ市民も大半は、移民に差別心を持っていません。しかし、何%かは差別意識を持っているようです。旧ソ連諸国の移民に、奴隷のように接する金持ちもいます。また、「移民のせいで俺らは仕事がなく貧しい」と八つ当たりする人もいます。すると、かならず民族主義集団が登場してくるのです。

ドイツのネオナチのような集まりがどこの国にも出てきます。モスクワにも、スキンヘッド集団がいて、一時期外国人を殺しまくっていました。ここ数年は、サンクト・ペテルブルグで外国人殺しが流行っています。

するとどうなるか?

移民も一体化し防衛策をとるようになる。そして、「麻薬・売春・カジノで儲けよう」という移民のゴッドファーザー的男たちが出てきます。モスクワには、グルジア・アゼルバイジャン・アルメニア・チェチェンなどのマフィアがいて、非合法ビジネスで儲けています。

Next: 日本に起こる「6つの問題」とは



3K移民受入れで日本に起こる問題

日本が3K移民を大量に受け入れた場合、想定される問題を挙げておきましょう。

1. 日本人失業者の増加と賃金水準の低下

もし日本人が「18万円ください」といい、移民が「10万でいいです」といえば、どちらが採用されるでしょうか? 答えは明らかです。こうして、日本人の平均賃金は下がり、超下流社会が現出するでしょう。

2. 差別意識の高まり

移民が3K労働に従事しているのを見て、「ああ、日本人でよかった」と差別意識を持つ層が出てきます。また、日本人の子供達が、移民の子供をいじめる問題も出てくるでしょう。

3. 民族主義の高まり

ドイツのネオナチや、ロシアのスキンヘッド集団のように、「日本人のための日本!」「移民は日本人の職を奪っている!」などと主張する団体が出てくるでしょう。

4. 生産性の停滞

3K移民がいなければ、IT化・オートメーション化・ロボット化で対処していくところ。しかし、豊富で安価な労働力があれば、生産性を向上させる努力はしなくなります。日本の生産性向上は止まり、国際競争力はなくなっていくでしょう

5. 移民のマフィア化

誰だって3K労働はイヤなものです。すると、「麻薬や売春業をやって楽に儲けよう」という移民たちが出てきます。モスクワの場合、麻薬はアフガニスタンから入っていますが、売っているのは中央アジアの人たち。日本でも最近は、中国人の売春ネットワークが拡大しているそうです。3K移民の大量受入れは、「美しくない国」「品格のない国」への超特急切符といえるでしょう。

6. 治安の悪化

フランスでは移民の大暴動、イギリスではテロ、ロシアではスキンヘッドの外国人無差別殺人が起こっています。日本で同じことが起こらないといえるでしょうか?

というわけで、3K移民は決していれるなと声を大にしていいたい。なんといっても世界中で同じ現象が起きているのですから。

Next: 移民問題の解決策はあるのか



移民を入れるなら

しかし、私は移民全てに反対ではありません。「日本人がやりたがらない仕事は、貧しくて安く雇える外国人にやらせればいい」という差別的移民はやめるべきと主張しています。ですから3K移民以外はどんどん入れてくださいという考えです。

またモスクワの例を挙げます。ロシア人の一部は、旧ソ連諸国からの移民を差別しています。それと、アジア系では中国人とベトナム人を差別しています。しかし、私を含む日本人は、ほとんどあるいは全く差別されません。むしろ尊敬されている。ではなぜ日本人は尊敬され、中国人やベトナム人は差別されるのでしょうか?

日本人のイメージが非常にいいからです。ロシア人の持つ日本のイメージは、「トヨタ」「ソニー」「パナソニック」。日本は「ハイテクの国」「金持ちの国」と思われています。また、モスクワでは「村上春樹」「村上龍」「吉本ばなな」などの小説が良く売れています。禅や武士道に関心を持つロシア人も多く、難しい質問をされることもしばしば。日本食ブームも5年ほど続いていて、モスクワ中に寿司を食べられる場所がある。人気の日本レストランだと、平日でも行列があります。つまり、ロシア人は日本人を「精神性が高く、なおかつ金持ち」と非常に評価している。

これは、モスクワに住む日本人が少ないことも影響していると思います。学生以外はほとんど企業から派遣された駐在員。彼らは高級マンションに住み、運転手つきの優雅な生活をしています。普通のロシア人は、日本人と会う機会がほとんどありません。これがまた日本人の評判を上げる結果になっている。

一方、中国人やベトナム人は「不法労働者」というイメージが定着しています。食料品や衣料品を密輸して違法に売買している。彼らは、青空市場で自国の商品を売っていて、ロシア人が彼らを目にする機会も多いのです。

結論を言うと、ロシア人は、日本人が社会的にいい職業につき、優雅な暮らしをしているので尊敬している。しかし、中国人とベトナム人は、違法な仕事や泥臭い仕事をしているので尊敬していない。それで差別されている。ですから、「金持ちや優秀な人材を受け入れるのがいい」となります。

ロシアで日本人が尊敬されているのは、大半が大企業の駐在員で、「スマートな仕事」をしているからです。ですから日本人が外国人を尊敬し共存していく為には、「日本人が嫌なことをする外国人」ではなく、「日本人も尊敬してしまう外国人を受け入れる」必要がある。

例えば、アメリカにおける「インド人プログラマー」。彼らがアメリカで活躍していることが、インドのイメージアップにつながっています。もっと身近な例ではイチロー(移民ではありませんが)。イチローの活躍が、どれだけ日本人のイメージがアップに貢献しているでしょうか。

日本人と外国人が仲良く暮らすためには、「日本人が尊敬できる外国人をどんどん受け入れること」が不可欠です。具体的には、有名俳優、作家、芸術家、ミュージシャン、スポーツ選手、プログラマー、大学教授、研究者、外国語教師、起業家、大富豪等々。

彼らが大挙して来るためには、第1回でも書いたように、税率をうんと下げる。ついでに、相続税も廃止すれば、世界中の金持ちと有名人が日本に集結してくるでしょう。

とにかく「人手不足の分野は外国人を入れればいい」という発想を捨てること。人手が不足するのは日本人が嫌がる仕事。それを「外国人にやらせればいいさ」というのは、人種差別というほかありません尊敬されるステイタスの外国人がたくさん住んでいる。これこそ、日本が国際化する道なのです。

Next: 同じ失敗に向かって全力で走る日本



同じ失敗に向かって…

どうでしょうか?

10年前に書いた文章ですが、「50万人受け入れ」のニュースを聞いて「嗚呼、やはりきたか」と思いました。繰り返しますが、「外国人労働者」の問題は、「日本人が嫌がる仕事を、外国人にさせよう!」という「差別的意識が根本にあります。動機が差別的なので、結果も悲惨になるのです。

欧米でもロシアでもそうです。10年経ち、欧米の状況はさらに悪化しました。しかし、日本の政治家さんは、欧米の失敗から学ぶことなく、同じ失敗に向かって、全速力で走っているようです。

皆さんご存知のように、私は「反日統一共同戦線戦略」を無力化した安倍総理を支持しています。しかし、この問題については、もちろん支持できません。

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ロシア政治経済ジャーナル』(2018年6月8日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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