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日銀買いが効かないREIT指数と「地方都市の地価上昇」が鳴らす警鐘=元ファンドマネジャー・近藤駿介

日銀の大規模なJ-REIT買いにもかかわらず、今年に入って東証REIT指数が冴えません。いっぽう地価上昇はすでに地方都市にまで波及し始めており、これはリーマン・ショック前にも見られた現象です。この2つの気になる関係性を「日経300上場投信」の設定・運用責任者を務めた元ファンドマネジャー・近藤駿介氏が解説します。

地方都市の地価上昇は、本当に景気の好循環なのか?

「黒田バズーカ2」後の10ヶ月間で4.2%下落した東証REIT指数

主要都市の地価が上昇を続けていることが報じられています。

主要都市の地価が上昇を続けている。国土交通省が28日発表した7月時点の地価動向報告(100地区)では、4月に比べて87地区の地価が上昇した。4月より数が3地区増えた。低金利で投資家などの不動産投資意欲が強いことや、利便性の高い地区のマンション需要が堅調なことが背景にある。
出典:2015/08/29 日本経済新聞「主要都市地価 87地区で上昇」

しかし、主要都市の地価上昇が報じられるなか、密かに東証REIT指数は1644.11(8/28終値)と、1/16に記録した最高値1990.45 から▲17.4%下落してきています。

東証REIT指数 週足(SBI証券提供)

昨年10月末に日銀は「量的・質的金融緩和」の拡大に踏み切り、J-REITの買入れ額をそれまでの年間300億円から900億円へと3倍に増やしました。そして「量的・質的金融緩和」の拡大に踏み切ってから約10ヶ月で日銀は839億円のJ-REITを購入してきました。

ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約3兆円(3倍増)、年間約900億円(3倍増)に相当するペースで増加するよう買入れを行う。
出典:2014/10/31 日本銀行「量的・質的金融緩和」の拡大(PDF)

それにも関らず、東証REIT指数は「量的・質的金融緩和」の拡大に踏み切った2014/10/31時点の1716.55から▲4.2%下落しており、追加金融緩和の効果は完全に剥げ落ちた格好になっています。

日銀がJ-REITを買い支えるのは、J-REITは税法上利益を内部留保できないため、成長を続ける(新規に物件を購入する)ためには株価の上昇を必要とするからです。

不動産の最後の買い手ともいえるJ-REITの株価が下落傾向にあるということは、J-REITの不動産取得能力が低下していることを意味するものです。

東証REIT指数が低迷して来ているということは、J-REITの収益の源泉である不動産賃料収入に対する上昇期待が剥げ落ちてきていることを想像させます。

Next: リーマン・ショック前にも起きた「地方都市の地価上昇」が始まっている


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リーマン・ショック前にも起きた「地方都市の地価上昇」が始まっている

空室の需給は引き締まっている一方で、新規成約賃料の上昇傾向は緩やかな状況にある好調なマーケットを受け、賃料が下落した物件が減少する一方で、上昇させた物件は大きく増加しておらず、変化がなかった物件が増加している。賃料水準を上昇させることに対して慎重な不動産オーナーの姿勢がうかがえる。

2015年第2四半期のフリーレント付与率は、1)1日以上 58.5%(前期と比べ 2.5 ポイント増加)、2)2か月以上 54.0%(同 0.8 ポイント増加)、3)6か月以上 25.0%(同 4.6 ポイント増加)と、いずれの区分においてもやや増加している。
出典:ザイマックス不動産研究所「オフィス賃貸マーケット指標2015年第2四半期」

こうした調査報告にも、オフィス賃料の上昇圧力が鈍ってきていることが示されており、東証REIT指数の下落はこうしたオフィス賃貸マーケット動向を反映した動きだといえます。

不動産価格は本来、物件から得られる収益に連動するものです。投資家の期待利回りが一定であれば、賃料上昇分だけ不動産価格は上昇することになります。

賃料上昇が頭打ちになるなかで地価が上昇し続けているというのは、土地購入者の期待利回りが低下して来ている、あるいは期待利回りではなく「販売価格」を基準に不動産を取得すること自体を目的としているマイホーム取得者が取引の主体になってきていることを示唆するものです。

不動産から得られる収益が頭打ちになるとしたら、「地価」は投資家が「期待利回り」を下げない限り上昇することはありません。不動産投資の「期待利回り」は国債金利のようにマイナス金利にはなりませんから、地価の上昇圧力は今後鈍って行く可能性があることを念頭に置いておいた方が賢明かもしれません。

「価格」と「賃料収入」の関係で他に気になることは、地価が上昇した87地区のうち、80地区が0~3%の上昇だったなかで、名古屋駅周辺の 「太閤口」が4月に比べて6%以上の上昇となったのをはじめ、3~6%の上昇を記録した商業系5地区が銀座中央、表参道、名駅駅前、心斎橋大阪市、博多駅周辺と、地方都市が半分以上を占めてきていること。

景気の好循環が地方に及び始めていると言えないこともありませんが、こうした地方都市の地価上昇現象はリーマン・ショック前にも起きたことです

三鬼商事の「最新オフィス市況(2015年8月号)」によると、名古屋地域の平均賃料は前年同月比で若干上昇しているものの、前月比ではマイナスとなっており頭打ち感がみられているほか、この1年間で見ると東京以外の地方都市の平均賃料はほとんど横這いとなっています。

賃料がほぼ横這いで推移する中で投資資金が地方都市に流れ込み、地価上昇率が東京を上回るという姿はいびつな構図、金融現象であるともいえます。

地価の上昇は、その土地が生み出す収益が増えるか、投資家の期待利回りが低下することによって起きるものです。不動産が生み出す収益が頭打ちになるなかでの地価の上昇は、インカムゲインよりもキャピタルゲイン志向が強まってきていることを表すものです。

主要都市の地価が上昇するなかでの東証REIT指数の下落は、こうしたキャピタルゲインに偏りかけた投資家の志向に対する警鐘と受け取るべきかもしれません。

近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2015年8月29日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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