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高田馬場で実感した「キャッシュレス化」の大波。チェーン店は脱・現金払いに本気だ=岩田昭男

日本のキャッシュレス化への大転換点は、今年の春頃にあったようです。東京・高田馬場駅周辺のチェーン店を調査して実感した脱・現金主義の奔流をお伝えします。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)

※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2018年7月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
岩田昭男の上級カード道場:http://iwataworks.jp/

今年の春頃から急速に進展。各チェーン店が生き残りを賭けている

外国人観光客が「日本の現金主義」に困惑する

2020年の東京オリンピックでは、多くの外国人観光客が来日します。彼らがもっとも困惑するのは、日本の観光地やレストランで現金払いを強要されることです。

なんといっても、日本はまだまだ現金第一社会です。旅行とは言え、その中で生活するとなると現金は欠かせません。

海外の人たちはクレジットカードや電子マネーで決済するいわゆるキャッシュレス化に馴染んでいるので、どこに行っても現金払いを勧める日本の状況には戸惑いを示すでしょう。

2020年が近づくにつれて、そうした問題点が明らかになったために、経済産業省は「キャッシュレス・ビジョン」を掲げて全力でクレジットカードや電子マネーを受け入れる体制を作ろうと努力しています。

しかし、実際はどうでしょうか。地域のキャッシュレス化はどこまで進んでいるのか、私の仕事場のある髙田馬場の商店街を中心に詳しくレポートしてみます。

「高田馬場商店街」でのキャッシュレス化をみる

東京以外にお住まいの方には馴染みがないかもしれませんが、髙田馬場は、新宿と池袋の間にある街です。

山手線の髙田馬場駅前には、日本を代表するチェーン店がほとんど集まっています。マクドナルド、ドンキホーテ、ドトール、ルノアール、ニューヨークカフェ、プロント、松屋、吉野家、ガスト、大戸屋など庶民がよく知る店が並んでいます。

この街で仕事をしている私は、打ち合わせや執筆でそのカフェやファミレスをよく利用しています。しかも、8年前からいるのでそれぞれの店のキャッシュレス化の進行状況も手に取るようにわかります。

本題に入る前に、私が利用しているカードの紹介もしておきましょう。それは、通勤で利用する交通系電子マネーのSuicaです。少額のものはすべてSuicaで買うようにしています。

6〜7年前からSuicaをスマートフォンに入れて、モバイルSuicaとして使い始めています。これはカードレスでかさばらないから便利です。ですから、私はSuicaが使える店が増えてくることを期待しているのですが、なかなかそうはいきません。

Next: マック、ドンキ、ケンタッキーそれぞれのキャッシュレス戦略は?



マック、ドンキ、ケンタのキャッシュレス戦略をみる

それではまず、大手チェーン店の状況を紹介してみましょう。

<マクドナルド(ファーストフード)>

注目を集めるのがマクドナルドです。高田馬場駅前の稲門ビル2階に入っています。日本マクドナルド社は、業績が急回復して、キャッシュレス化も一気に進んでいます

2018年6月からはビザワールドワイドが進める「タッチ決済」が各店舗でスタートしました。これは日本を含めて世界70以上の国と地域で展開するサービス(TypeA/B方式)で、店員にカードを渡すことなく、端末にタッチするだけで支払いができるというものです。サインも暗証番号の入力も不要で支払いができるのがよいところです。

これによってマクドナルドは、クレジットカードはもちろん、FeliCa(フェリカ)型電子マネーと、海外の人がたくさん持ってくるTypeA/B型電子マネーの両方が使えるようになりました。

国際ブランドのビザワールドワイドは、2020年東京オリンピックを好機ととらえ、海外で主流の方式として普及させることを目指しています。そして、まずはマクドナルドで使えるようにしようと考えています。その意味でも、大きな注目を集めているのです。

ところが、実際に店頭に行ってTypeA/B対応のクレジットカードを出しても、店員が読取機にかざすのではなく、従来のクレジットカードと同じく機械に差し込んでパスワードを打つように言ってきます。

タッチ決済のことを店員が知らないのか、まだそちらは使わないようにしているだけなのかはよくわかりません。今のところは宝の持ち腐れです。

外国人客が増えてきたら、おそらくカードでタッチして決済する光景を見ることができるのでしょう。楽しみにしています。

<ドンキホーテ(バラエティーショップ)>

高田馬場の駅前ロータリーに面して、1〜2年前にできたばかり。中国人観光客が多く、夜遅くまで店内は賑わっています。

ドンキホーテはキャッシュレスには積極的で、支払いにはクレジットカードと電子マネーが使えます。電子マネーは、自社カードのマジカ(ドンキらしいネーミングです)、楽天Edy、それにSuicaなどの交通系電子マネーも使えます。

その他に中国人観光客のためにQRコード決済にも対応して、アリペイ、ウィチャットペイが使えます。QRコード決済は良いとして、電子マネーについては自社電子マネーのマジカを利用してもらおうと、同じ流通業のnanacoとWAONは外しています。それならマジカをもっとPRした方が良いのではないでしょうか。

<ケンタッキーフライドチキン(ファストフード)>

ビッグボックスの裏あたりにあります。サラダなどのメニューが増えて、パブレストランっぽくなっています。

支払いはクレジットカード電子マネーが使えます。電子マネーはFeliCa型電子マネーに対応しています。Suica、楽天Edy、nanaco、WAON、PASMO、ICOCA、iD、QUICPayです。

QRコード決済では、オリガミペイに対応しています。自社会員アプリ用にレジにQR読取機を設置したり、QRコードには力を入れていますが、これは、外国人観光客の取り込みを狙ってのことと言われたりします。

Next: 中堅チェーン店はもっと積極的? 急速に脱現金化が進んでいる



急速に進む中堅チェーン店のキャッシュレス化

ここまで大手チェーン店のキャッシュレス対策について述べてきましたが、一方で、私が仕事の打ち合わせや食事で使う中堅チェーン店の方でも新しい動きが出てきました。

大手チェーンの戦略ははよく知られていますが、こちらは意外に知られていません。しかし、実際に調べてみると非常に興味深いのです。

このジャンルには、喫茶ルノアールやニューヨークカフェ、さらにはプロントなどがあります。キャッシュレス革命はここから始まると言ってもいいぐらいです。

<喫茶ルノアール(喫茶店)>

編集者との打ち合わせによく利用します。ビッグボックスの裏に店はあります。首都圏で最大規模の喫茶店チェーン。8年前に仕事場を移した時からすでにありました。当時は10店舗近くを展開していましたが、今は3店舗ほど。

ビジネスマンの利用が多く、商談によく使われます。以前は、支払いはクレジットカードと楽天Edyが使えるのみで、あくまで現金が主流でした。現在の状況については、同じ系列店である次項で詳述します。

<ニューヨーク・カフェ(カフェ)>

執筆するときによく利用します。前項のルノアール店の10軒ほど西にあります。ルノアール系列の若者向けのカフェ(元ルノアールの店舗を改装)。業態転換が成功していつも若者でいっぱいです。

かつてはこちらも、支払いは現金と楽天Edyのみでした。私は利用するたびに、早くSuicaを入れてほしいと頼んでいましたが、店員はニコニコするだけでした。彼らには決定権がないので、それも当然かと今になるとわかりますが。

そうした態度に変化が見えてきたのが、今年の春でした。ある日、レジカウンターに小さな白い箱が置かれました。これが非接触の読取機だとはしばらく気がつきませんでした。カードマークも何もついていない箱で、工場からそのまま送られてきたという感じでしたが、一刻も早く見せてお客さんに喜んでもらいたいというお店の気持ちが表れていました。

今では共用読取機が入り、Suicaも他の電子マネーも使えるようになっています。このお店で試運転をしてから、本店のルノアールにもこの共用読取機が入ったのです。素晴らしいことです。

<プロント(カフェ&パブ)>

夜に軽く飲むのに利用します。高田馬場駅戸山口すぐそば。サントリー系のカフェで、夜はパブレストランになります。この店ができたのは比較的最近でした。

駅のそばでしたから、てっきりSuicaが使えると思ったのですが、実際は使えなかったのでがっかり。心の中で「Suicaを入れたら売り上げも上がるだろうに」と思っていました。午後5時までは喫茶店で、夕方からはパブに変わります。支払い方法は現金と楽天Edyのみでした。

こちらも今年の4月頃に変化がありました。楽天Edyの読取機の代わりにレジにSuicaも使える共用読取機が置かれました。ニューヨーク・カフェと同時期だったかもしれません。

Next: 2018年の春から急激に進展。電子マネー嫌いの中堅チェーン店がなぜ?



<大戸屋(定食屋)>

昼食でよく使います。稲門ビル地下。最近は昼食の単価が1000円以上になったのでかなりの負担。いつも「Pontaカードをお持ちですか」と聞かれますが、効率よく貯まるのでポイントカードは必ず出すようにしています。ここは当然、長く現金主義で行くでしょうと思っていましたが、違いました。

やはり春のある日突然、共用読取機が入り、Suicaも他の電子マネーも使えるようになりました。

<華屋与兵衛(和食専門店)>

打ち上げなどでよく利用しています。この店は明治通り沿いにあり、少し遠いです。天ぷらや刺身などの和食が中心。

クレジットカードが使えましたが、Suicaなど電子マネーは使えませんでした。ただ利用金額が高くなるので、私は大体クレジットカードで払っていました。支払いは現金とクレジットカードに対応しています。

ここも今年春に共用読取機が入り、Suicaも他の電子マネーも使えるようになりました。

「電子マネー嫌い」の中堅チェーン店に起きたある変化

このように今年に入ってこの夏までに、中堅チェーン店がバタバタと電子マネー対応を進めています。キャッシュレス事情は、高田馬場を見る限りかなりの進展を見せています。

ある評論家が「日本ではまったくキャッシュレスは馴染まない」と言っていましたが、それは間違っているようです。

FeliCa型電子マネーに関しては着実に進んでいて、中堅以下のチェーン店では雪崩現象が起きているように見えます。それほど、この半年間の変化は大きかったと言えます。

中堅チェーン店が電子マネーやクレジットカードを嫌う理由は「手数料」にあります。2%も3%も取られたのでは、儲けがなくなってしまうというわけです。

それで皆が導入を控えていたわけですが、なぜかここにきて一斉に導入を始めています。

サイゼリヤだけは現金路線

このクラスで導入していないのは、あとはサイゼリヤぐらいでしょう。

イタリア料理がうまい店ですが、今のところ導入の気配はありません。ほうれん草ソテー199円、辛味チキン299円、イカのカラスミスパゲッティー499円など激安メニューが売りです。そのため、クレジットカードや電子マネーの手数料を払いたくないという考えのようです。

この一貫した姿勢は評価できるのですが、こうした勢力は急速に減りつつあるというのが、今回の調査の実感です。

Next: 手数料を抑えるか、来客増を狙うか。主流は確実にキャッシュレス化へ



脱・現金化の大波がやってくる

一方、他の中堅チェーン店は今が商機だと電子マネーを入れてくる感じです。

私が思うに、これはインバウンド狙いやオリンピック対応のためだけではないと思います。その次の本格的なキャッシュレス時代を見越してのことでしょう。

国内で勢力を拡大しつつあるFeliCa型の電子マネーを入れることで、各チェーンともキャッシュレスの表舞台に立とうとしているのです。

その後はQRコードを入れるのもよし、NFCでTypeA/Bを使うのもよしで、どんどんキャッシュレス化を進めればいいという考え方のようです。

脱・現金化の大波が来ることを見越して、いまのうちに電子マネーでプラットホームを作りたいというのが総意となったのではないでしょうか。ですから、ここにきて駆け込みで準備を始めたというわけです。これは画期的なことと言えるでしょう。

高田馬場のキャッシレス化が進んだ結果、私はATMから現金を引き出す回数が大幅に減りました。これまでは毎日3,000円を下ろしていましたが、いまは毎週1回だけ3000円を下ろせば足りるようになりました。前は月に6万6000円を下ろしていたのが、今は1万2000円で済むようになったのです。

私自身、大幅なキャッシュレスが可能になり、ポイントも貯まりますから、かなりお得になった計算です。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年8月19日)

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