現金払いが根強い日本で、政府が「2025年までにキャシュレス比率を40%に上げ、さらに80%を目指す」という大胆なビジョンを発表。これは実現するでしょうか?(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)
※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2018年4月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
岩田昭男の上級カード道場:http://iwataworks.jp/
根強い「現金主義」に悩む政府。計画を前倒し&ハードル上げへ
東京五輪を見据えたキャッシュレス化
最近、キャッシュレスとフィンテックに関する情報がたくさん出回るようになりました。
キャシュレスは、2020年の東京オリンピックを前にしてカード比率の低い日本を、電子決済中心の国に作り替えようとする試みのことです。
先日、経産省がこれまでの目標をさらに高めて、キャシュレス比率を40%にまで持っていこうとするキャッシュレス・ビジョンを発表しました。さらに将来的には、80%というハードルを設定しました。
これは世界で1~2位を争う韓国並みの高さですから、大胆な提言といえます。
世界の流れを見て「2年前倒し」に計画変更
日本のこれまでの動きを振り返っておきましょう。
日本政府は、2014年の「日本再興戦略」で、「2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催等を踏まえ、キャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性向上を図る」方針を打ち出しました。
ところが、世界に比べてキャッシュレス化が遅れていることへの危機感は相当強かったようで、経済産業省は2018年4月「キャッシュレス・ビジョン」を発表し、あらためてキャッシュレス推進のためのガイドラインを明らかにしました。
それによると、2017年に「未来投資戦略」で設定した「今後10年間(2027年6月まで)に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す」(キャッシュレス決済比率40%達成)としていた目標を前倒しし、2025年開催の大阪・関西万博に向けて、より高い決済比率の実現を目指すというのです。
これを「支払い方改革宣言」と命名し、「さらに将来的には、世界最高水準の80%を目指していく」といっています。そして、この目標実現のために「キャッシュレス推進協議会(仮称)」を立ち上げ、産学官の「オールジャパン」で取り組んでいくというのです。
日本人にキャッシュレスは向かない?
具体策としては、消費者に対して、キャッシュレス支払いの不安化を取り除き、キャッシュレス支払いに対する優遇措置を講じるなどが検討される予定です。
販売店側に対しては、補助金や税制面の優遇などが考えられています。
しかし、結論を先に言ってしまえば、政府の目標実現は難しいと私は考えています。オリンピックの次は万博を持ち出す政府に、焦りのようなものすら感じてしまいます。
日本でキャッシュレス化がなかなか進まない理由は、日本人の気質、社会的な特質によるところが大きいと言えます。
それはたとえば堅実を重んじ借金を嫌う気持ちや治安の良さだったりします。これらは言うまでもないことですが、決して悪いことではありません。むしろ誇るべき美点です。
キャッシュレス化が進まない日本をガラパゴスとみなし、イノベーションが進まず経済発展に後れをとり、豊かさが失われると危惧する声があります。
仮にそれが事実だとしても、現金支払いに大きな不便さを感じなければ、よほどのメリットがあるか、強制でもされない限り、消費者はなかなかキャッシュレスには移行しないのではないでしょうか。