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高齢「おひとり様」世帯急増で相続トラブル多発? 遺族を困らせない準備とは

高齢の「おひとり様」世帯が増えている日本。相続時には思いもかけない問題が出てきています。安心して老後を送るためにどのような準備が必要でしょうか?(『日本相続学会発「円満かつ円滑な相続」』)。

「遺言書」があってもトラブルは起きる? 必要な配慮と準備は…

増加する高齢者の「おひとり様」

昨今の核家族化や高齢化に伴い「おひとり様」と呼ばれる方が増えています。

平成28年度の「国民生活基礎調査」によると、65歳以上の高齢者のいる世帯は、全世帯数約4994万世帯のうち、2416万世帯と、全体の48.4%です。

高齢者がいる世帯のうち、ひとり暮らし世帯が27.1%、夫婦のみの世帯が31.1%です。

相続時に問題が起きることも…

婚姻されず、ずっとおひとりでいらした方や、お子さんのいないご夫婦で2人からやがて1人にという方が、ご自身の今後に不安を持ちご相談に来られるケースが、最近とても多くなっています。

このような方たちのご相続には、問題が少なくありません。相続人もご高齢で認知症になっていたり、相続人が広範囲に及んだり、何十年も交流のなかったご親族が相続の当事者となってしまったり、といったこともあります。

このようなご相続では、話し合いや手続きがスムーズに進まず、協議成立まで長い時間が必要になることもあります。

遺言を残されていても、ご相続後の手続きがスムーズにいくケースばかりではありません。

子どものいない老夫婦・Aさんの事例

私が自筆証書遺言作成のお手伝いをしたAさんが亡くなったと、ご親族の方からご連絡を頂きました。

Aさんは、子どもがなく奥様と2人暮らしで、手術を明後日に控えたある日、「万が一を考えて自筆証書を作りたいので、手伝ってほしい」と私まで電話をくださいました。お急ぎということでしたので、お会いすることもなく、どのような状況で生活されていらっしゃるのかをお聞きする間もなく、作られた遺言書でした。

すべての財産を妻に相続させる。遺言執行者は妻を指定する」旨の遺言です。

Aさんは手術の後、半年で亡くなられました。遺言をご用意頂いていてよかったと思いましたが、この後、いろいろと問題が生じました。

Aさんには3人のご兄弟がいましたが、何十年も交流がなく、また妻も同様にご兄弟とは疎遠でした。

Aさんの葬儀は、Aさんの姪と、妻の弟夫婦の3人だけで執り行われました。3人とも遠方に住み、また相続人ではありません。妻は軽度の認知症で、重篤な病気にかかって入院中です。体調の変化を考慮し、夫の死を伝えていません。

「遺言だけ」があってもトラブルは起きる

高齢者の2人暮らしということで自宅の中は雑然としており、埃だらけです。仏壇に遺言書があったほかは、通帳も、年金手帳も、実印も、どこを探しても見つかりませんでしたが、銀行の貸金庫の鍵らしきものが見つかりました。

しかし貸金庫は相続人全員の同意がなければ開けられません。また、遺言も自筆証書でしたので、検認申し立ての必要があります。

誰がどのように相続の手続きを進めたらよいのかといった問題が発生しました。

このことから、遺言だけ、また夫だけのご準備では十分ではないことが分かります。

Next: 誰にも頼れない「おひとり様」世帯が準備しておきたいこととは?



元気なうちに準備しておきたいこと

ここからは、おひとりの方、ご夫婦だけの方など、ご家族のサポートを受けるのが難しい高齢の方々が、老後を安心して過ごすために何をご準備いただけばよいかをお伝えしたいと思います。

<1. 遺言書作成>

公正証書でお作りいただくことが望ましい。自筆証書は紛失の恐れがある。特におひとり様の場合は預けるなどしないと発見されないこともある。また、検認に時間がかかる。

<2. 任意後見契約>

本人自身が、将来判断能力が不充分になった場合に備えて、自分が希望する老後の生活を実現できるよう、あらかじめ契約を結んで後見人を選任しておく。任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てることで、後見業務に着手できる。

(3つの形態)
(1)将来型:将来、本人の判断能力が減退したときに発効させる契約

(2)移行型:任意後見契約と財産管理等委任契約を同時に契約する
意思能力には問題がないが、身体的に不自由になった時に備え受任者が財産管理を行えるようにし、本人の判断能力が減退したときに任意後見契約を発効させる。今までこの形態で作成されることが多かったが、本人の意思能力が減退しているにもかかわらず、任意後見監督人の申し立てをしないままで財産管理を継続しているなど、問題点が指摘されている。金融機関の中には、財産管理等に委任契約があっても委任状を求められることがある、公証人の中にも移行型には消極的な方もいる。

(3)即効型:任意後見契約を締結する時点ですでに判断能力が低下しているので、契約発効後すぐに任意後見監督人の申し立てをすることになるが、例外的な活用方法。

<3. 尊厳死宣言>

難病で回復の見込みがない時、延命治療を控え、または中止して人間としての尊厳を保ちつつ死を迎えるための宣言。

<4. 死後事務委任契約>

死後事務委任契約(葬儀の手配、埋葬、永代供養の契約、親族への連絡、市区町村の役所への手続きなど)の内容を実行。

以上になります。最近は1~4の準備に加え、家族信託も大きな役割を担うようになっています。おひとりの方、子どもがなくご夫婦だけの方は、ご自身の老後を憂いなく元気にお過ごしいただくために十分にご準備いただきたいと思います。

ここからは、おひとり様がどのように相続準備をされ、相続までの時間をどのようにお過ごしいただくか、その方を取り巻く環境を考慮してご本人に相続き手続以外に準備していただいたケースについてお伝えします。

Next: 準備万端でも、「おひとり様」には配慮すべきことがある?



準備をしっかりしたBさんの事例

相談者:おひとり様Bの弟(二男)の妻
20数年前、夫の親から相続した実家の敷地を長男と夫である二男が分割し、それぞれ自宅を建て隣同士で生活している。半年ほど前、夫の姉(おひとり様B)が高齢になり独居が難しくなったので、実家近くの老人ホームに入居した。その際、義姉に預貯金の通帳・実印など預かっていてほしいと渡されたが、このまま通帳・印鑑なども預かっていてよいのか、また、隣に夫の兄夫婦が住んでいるので、いろいろ干渉もありそうで不安である。

おひとり様B:80歳代女性
結婚後間もなく夫を亡くし、子どもはいない。80歳まで仕事を続け、精神的にも、経済的にも自立している。意思能力に問題なし。

Bの想い:自分は夫を早く亡くしたが、1人で一生懸命働き財産も築いてきた。80歳を迎え仕事も辞め、やっと静かな暮らしを始めたが、最近なぜか今まで全く交流のなかった姉や姪たちが度々訪ねてくるようになった。何か思うところがあるのか。
今まで長い間本当に親身になって何かと世話をしてくれている弟の妻に、今後も今まで通り面倒を見てもらえればうれしいが、今後自分の健康のことを考えると迷惑をかけるのではないかと心配もしている。弟の長男は、子どものころからなついてくれ、今では自分の子どものように思っている。また、○○家の名を継ぎお墓を守っていくのは弟の長男なので、私のすべての財産を残したい。

相続人:姉2人(長女は亡くなり代襲者2名)、弟2人
財産:自宅を売却し有料老人ホーム入居 預貯金等金融資産

Bさんは、遺言書移行型の任意後見契約尊厳死宣言の公正証書を作成されました。

遺言書の内容:すべての財産を弟の長男に遺贈する(内容は誰にも伝えられていません)

移行型の任意後見契約:委任者Bさん、受任者弟(二男)の妻尊厳死宣言
医療従事者であったBさんは、具体的措置を記載しました。

準備万端でも「気になる」こと

おひとり様に必要と思われるご相続の準備が済み、Bさんにも、弟の妻にもこれで安心しましたと笑顔で言っていただきましたが、私の中で何か気になることがありました。

このようにしっかり準備をしていただいても、実行に支障をきたして親族関係がぎくしゃくしては、Bさんは安心して老後をお過ごしになれません。

このケースの場合、二男の妻の立場が気になりました。相続人ではない二男の妻が、財産管理をすることにほかのご親族は抵抗を示さないだろうか、二男の妻が大変な思いをすることになるのではないか。

Bさんと二男の妻との間で十分理解して契約締結されていても、認知症になったり、亡くなられたりして、実行の時にご本人の意思確認ができないことは、ほかの相続人が納得しません。

そこで、このことをBさんにお伝えし、Bさんと私で出した結論は、お隣にお住まいになっているご長男夫婦と二男夫婦同席の上、Bさんから今後の面倒は今まで通り二男の妻にお願いしたこと、亡くなった後の準備もして、手続きは専門家に依頼したことを、ご本人の口からしっかりお伝えいただくことでした。

このようなケースはあまりないことですが、時にはそのご家庭の細かい事情にまでを配慮し、ご準備いただくことが必要なのだと思います。

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日本相続学会発「円満かつ円滑な相続」』(2018年5月1日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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