中小チェーン店が次々と閉店して寡占化が進む寿司業界。大手チェーン店が好調のなか、「かっぱ寿司」だけは虫の息です。投資妙味はあるのか、失敗要因とともに分析します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
数字で比較すれば一目瞭然。かっぱ寿司が乗れなかった業界の大波
「かっぱ」だけ元気がない
回転寿司は中小のチェーン店が減少し、寡占化が進んでいます。現在の4大チェーンは、以下の通りです。
・スシロー(スシローグローバルホールディングス<3563>)
・くら寿司(くらコーポレーション<2695>)
・はま寿司(非公開・ゼンショーホールディングス<7550>傘下)
・かっぱ寿司(カッパ・クリエイト<7421>)
いずれも拡大戦略を取って業績を伸ばしていますが、唯一元気がないのが「かっぱ寿司」です。
かつては最大規模を誇った同社は、なぜ負け続けているのでしょうか。
かつての業界トップが4位に転落
下のグラフは、回転寿司4大チェーンの売上高推移です。
(※かっぱ寿司は2014年まで2月期、2015年以降は3月期決算。スシロー・くら寿司は9月期、2018年は会社予想。はま寿司は3月期、データは各種記事より抜粋。かっぱ寿司・スシローは連結。くら寿司は2012年まで単体、2013年以降連結。はま寿司は単体)
これを見ると、他の3社が右肩上がりなのに対し、かっぱ寿司だけが右肩下がりなのが見て取れます。単に規模で負けているだけではなく、経営状況も芳しくありません。
スシローやくら寿司が直近の決算で最高益を達成しているのに対し、かっぱ寿司は過去6年間で4回の最終赤字を計上するなど、冴えない展開が続きます。
勝ち負けの差が明確に現れているのです。
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かつては「寿司を安く食べられる」と評判に
かっぱ寿司は、1978年に長野市に1号店が開かれました。その後、回転寿司チェーンとして順調に規模を拡大し、2003年に東証1部に上場。「ロープライスポリシー(低価格販売政策)」を掲げ、寿司を安く食べられるということで評判を呼びました。
2011年まで業界トップを維持していましたが、2012年にスシローに抜かれると、あっという間に業界4位にまで転落してしまいます。2012年度以降は赤字続きとなります。
たまらず2013年には米卸販売を手がける神明および同業の元気寿司と資本業務提携を結びますが、うまくいかなかったのか、2014年には居酒屋・甘太郎や北海道などを運営する外食グループのコロワイド傘下に入りました。今はそこで再建に取り組んでいます。
みんなが「うまい寿司」に期待している
栄枯盛衰の激しい外食産業において、典型的とも言える転落劇。そこには、経営の難しさが見え隠れします。
かっぱ寿司は、低価格戦略により規模を拡大してきました。しかし、問題は提供しているものが「寿司」だったことです。
回転寿司とは言え、顧客は寿司に対してそれなりの高級感を求めてやってきます。しかし、かっぱ寿司は安さを追い求めるために品質をおろそかにしてしまった可能性があります。
サイドメニューが勝敗を握る?「はま寿司」が急上昇中
そこに登場したのが、スシローやくら寿司などの新興勢力です。安くても品質を重視する姿勢や豊富なサイドメニューが受け入れられ、かっぱ寿司から顧客を奪っていきます。スイーツやラーメンなどのサイドメニューが充実したことで、従来のファミレスなどとの垣根もなくなってきました。
回転寿司業界が激変する中で急上昇しているのが、ゼンショーグループ傘下の「はま寿司」です。日本最大の外食グループの資本力や食材調達力を活かし、次々に新店舗の開拓・サイドメニューの充実を図りました。店舗数だけ見ると、スシローを抜きトップに躍り出ました。
サイドメニューは寿司より原価率が低く、利益につながりやすい特徴があります。ヒット商品が生まれればそれ目当ての顧客もつかむことができる、一石二鳥の戦略だったのです。
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「安かろう、悪かろう」からの脱却を目指す
もちろん、かっぱ寿司も指を咥えて見ているわけではありません。
外食グループコロワイドの傘下に入ったことで食材調達がしやすくなり、サイドメニューの充実を図っています。最近では、「貝の塩白湯ラーメン」が人気なようです。
昨年からは、業界では異例の60分食べ放題も開始するなど、様々な取り組みにより再建を目指しています。「安かろう、悪かろう」のイメージを払拭するのには時間がかかりますが、一歩一歩イメージを改善するしかありません。
かっぱ寿司は「原価が低い」
各社の財務面の比較はどうでしょうか。以下に比較表を掲載します。
かっぱ寿司は原価率が低く、販管費率が高いことがわかります。これは、ネタにかけるお金が必ずしも高くなく、一方で店舗のオペレーションが非効率になっていることを示しています。
原価率が低いということは、いまだに「安かろう、悪かろう」から脱却しきれていない可能性があります。ただし、これ以上原価率をあげると赤字になってしまうため、ギリギリのところで採算を合わせているように見えます。
オペレーションの非効率は店舗の大きさが影響している可能性があります。ある程度までなら、1店舗の規模が大きいほうが営業効率が上がります。他の3社の平均的な席数が200席なのに対し、かっぱ寿司は120席です。かっぱ寿司が隆盛を誇っていたころにはそれでも大きい方だったのでしょうが、新興勢力はさらに規模を拡大させています。
「回転寿司のファミレス化」が進んでいる
店舗面積の拡大は、サイドメニューの充実とともに「回転寿司のファミレス化」を示しています。この流れは当面続くことになるでしょう。
先行している会社の例を見る限りでは、かっぱ寿司が復活するにはコロワイドグループの力を最大限に活用し、店舗の大型化やサイドメニューの充実など「ファミレス化」を進行させる必要があるように思えます。
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栄枯盛衰の激しい業界で「経済の堀」を築けるか
投資対象としての回転寿司チェーンをどう見たら良いでしょうか。株価の水準は表のようになっています。
PERを並べると、利益水準の低いかっぱ寿司が割高に見えますが、今後の収益回復を見越しての水準かもしれません。時価総額と各社の規模感を比較すると妥当に見えます。スシローやくら寿司のPERは20倍台と、割安とも割高とも言えない水準です。
回転寿司チェーンは、高い利益率を出すことは難しいと思われるため、規模を拡大させながら成長していくことになります。競争が激化して市場が飽和する中で、ファミリーレストランを始めとする他業種との縄張り争いも熾烈を極めるでしょう。
ちなみに、私は外食チェーンへの投資は得意ではありません。チェーン展開の成長力は魅力的なものがありますが、栄枯盛衰のスピードも早く、いつまで競争優位が続くかわからないからです。バフェットの言う「経済の堀」を見出しにくいのです。
もっとも、バフェットがマクドナルドへ投資していたように、その地位を確固たるものにしていれば「経済の堀」の確立は可能です。各回転寿司チェーンもそのような立場を目指してそれぞれの道を邁進してもらいたいと思います。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年8月26日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。