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「ふるさと納税」成功しすぎで総務省は許せない? 制度見直しの真意とは

野田聖子総務大臣は11日、ふるさと納税制度を見直す方針を正式に表明しました。狙い通りに自治体間競争が激化した今、何が問題で規制に踏み切るのでしょうか。(『らぽーる・マガジン』)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2018年9月18日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

狙い通りに寄付増加と自治体間競争を実現。総務省は何が不満?

自粛任せから「法規制」に舵を切った総務省

野田聖子総務大臣は11日、ふるさと納税制度を見直す方針を正式に表明しました。総務省がこれまでの「自治体の自粛任せ」から法規制へかじを切ったのは、大阪府泉佐野市などが度重なる総務省からの返礼品見直し要請に応じなかったからと説明しています。

現状の、返礼品が高価なものになっていくことを野田聖子総務相は「ふるさと納税制度存続の危機」とまで言い切っています。総務省の呼びかけで、既に返礼品を見直した自治体もあり、不公平感が払拭できないとの指摘があるようです。

そもそも、各自治体の返戻金が高額なものになっていくことは、何がいけないのでしょう。それがなぜ「ふるさと納税制度存続の危機」につながるのでしょうか。

そして、なぜこのことが総務省の関与を強めることに繋がるのでしょうか…。

「ふるさと納税」のおさらい

総務省ホームページには「そもそも何のためにつくられた制度なの?」という問いを立てて、次のように解説しています。

多くの人が地方のふるさとで生まれ、その自治体から医療や教育等様々な住民サービスを受けて育ち、やがて進学や就職を機に生活の場を都会に移し、そこで納税を行っています。

その結果、都会の自治体は税収を得ますが、自分が生まれ育った故郷の自治体には税収が入りません。

そこで、「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた「ふるさと」に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」、そんな問題提起から始まり、数多くの議論や検討を経て生まれたのがふるさと納税制度です。

出典:総務省|ふるさと納税ポータルサイト|よくわかる!ふるさと納税

菅官房長官が総務大臣だった2007年(平成19年)5月に制度創設を表明しました。総務省ホームページには、ふるさと納税の意義が3つ記載されています。

第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。

第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。

第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。

出典:総務省|ふるさと納税ポータルサイト|ふるさと納税で地方創生

ここにいくつかキーワードがありますね。

ふるさと納税は、ふるさとや応援したい自治体に寄附ができる制度である、つまり「寄付」だと言うこと、そして「自治体間競争」を促すものだともあります。

「寄付」と「自治体間競争」です。

ふるさと納税を全国民に活用してもらうために、政府は「税控除」という特権を与えました。地方自治体に対する寄附金のうち、2,000円を超える部分について、個人住民税所得割の概ね2割を上限とする金額が、所得税と合わせて控除されます。

総務省ホームページには詳しく、控除の仕組みが載っていますが、ここではざっくりと書きますと、30,000円のふるさと納税を行うと、2,000円を超える部分である28,000円(30,000円-2,000円)が所得税と住民税から控除されることになります。

確定申告を必要としない給与所得者等は、控除を受けるのに、確定申告を必要としなくなりました

Next: 急激に伸びた要因は「確定申告不要」と「返礼品」。何が問題なのか?



急激に伸びたのは確定申告不要と返礼品

導入当初は、制度活用者はほとんど増えませんでした。ところが2015年を境に、制度利用者が急激に増えました

1つは、2015年4月1日より実施の、確定申告不要となる「ふるさと納税ワンストップ特例制度」創設です。

この制度の細かい解説は省きますが、それまではふるさと納税制度で所得控除を受けるためには、確定申告が必要だったものが、この特例制度により、多くの給与所得者が面倒な確定申告をしなくても控除が受けられるようになってから、ふるさと納税制度利用者が急劇に増えました。よほど日本国民は確定申告が嫌なのですね。

そしてもう1つが、今話題になっている「返礼品」です。

この返礼品は、制度設計当初には想定されていませんでした。寄付者に対して寄付金の額に応じ、主にその地域の特産品を返礼品として送付する自治体が現れ、返礼品の内容をアピールして寄付を募る自治体が増えたことで、ふるさと納税制度利用者は急激に増えました。

地方自治体は返礼品競争とも言われる、寄付金獲得のために、返礼品を工夫するようになりました。地方自治体が、他自治体との寄付金争奪競争に勝つために、知恵を絞って努力しているのです。

返礼品がなくても、地方を応援するという思いの現れもあります。災害地や被災地にあえて納税(寄付)する人たちも増え、西日本豪雨により被害を受けた地域の納税額(寄付金額)は大きく増えました。

何が問題なのか?

ここまでの話で、納付者が自発的に納税先を決めることができ、納税される側の自治体は、他自治体との競争を行い、知恵を出し合って選んでもらう工夫をしているということがわかりました。

総務省が訴える「ふるさと納税の意義」の3つ目「自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと」に合致していますよね。

何が野田総務大臣の言う「制度存続の危機」に当たるのでしょうか。

「返礼品が豪華すぎる…」「返礼品が自治体との関係性がないものになっている…」。ここが今回の指摘されているところかと思われます。

総務省が問題としているのは、「返礼品の調達額が寄付額の30%を超え、地場産品以外も取り扱っている」というものです。実際、総務省は今回の法改正の検討までに2015年4月以降、度々、返礼品の見直しを求めてきています。

ゴルフ道具や家具、家電など自粛を求める品目を具体的に示したほか、返礼品が寄付額の30%を超えないことや地場産品以外を扱わないことなども要請しました。

確かに、地方自治体がその土地とは関係ない「スカイツリー」に関する返礼品を出したり、商品券を返礼品にしたりしているのも見受けられます。

多くの自治体は要請に応じたようで、返礼割合が30%を超える自治体の数は減っていますが、これ応じない自治体もあり、これが「不公平感が払拭できない」という総務省側の発言につながっているようです。

中でも大阪府泉佐野市は、寄付額の50%相当を返戻金にあて、豪華な黒毛和牛山盛り、タオルセット等、カタログを作って好きなものを選べるようにしました。冒頭、野田総務大臣が名指しで批判した泉佐野市は、総務省側の要請を聞き入れない態度を続けています。

返礼品豪華合戦が過熱して、ふるさと納税制度の本来の趣旨が損なわれているというのが、問題としている側の主張のようです。国民の中には、この考えに同調する人もいて「通販みたいで制度を利用しない」という人もいるようです。

でも、これって制度を揺るがす問題と言えるのでしょうか

Next: ふるさと納税に救われた泉佐野市の財政。総務省は正しいのか?



ふるさと納税に救われた泉佐野市の財政

野田総務大臣が名指しで非難している泉佐野市は、関西空港投資がたたって財政破綻一歩手前まで追込まれていました。

このふるさと納税制度を利用して、必死で納税額(寄付金)を増やす努力をして直近に寄付金が急増して、泉佐野市は救われました。

寄付額の半分を使ってでも寄付金を集める作戦に出たのが功を奏しました。タオルは全国でも有数のタオル生産会社を抱えていて、泉佐野市と今治市だけで全国シェアほぼ100%になるくらいです。

寄付額の50%を返礼品に使おうと、自治体の実入りが減るだけで、もともと入ってこなかったお金ですから、そこは自治体の工夫だと考えられないのでしょうか。なぜ国が、返礼品の経費を一律決める必要があるのでしょうか。

税制優遇措置を取らない…?

「ふるさと納税」が高額返礼品競争になっているとして野田総務大臣相は、高額すぎる返礼や地場産品でないものは優遇措置を取り消すと発言しました。

高額の目安として、総務省が昨年出した通達から「返礼品は3割以下」、これに「品目は地元産に」を付け加え、これらを守らない自治体の名前を公表してきてはいましたが、いまだに守らない自治体があることから、野田大臣は「制度は存亡の危機にある」として、法改正をするというのです。

総務省は、来年4月実施に向けても法改正を行うとしていますが、具体的にはどのようものになるのでしょうか。

「法改正に至るなら対応せざるを得ないが、どういう法改正になるかわからないと対応しようがない…」。これが自治体側の反応のようで、困惑しているという感じです。

なぜ返礼品調達額が寄付額の30%なのか、その数字の根拠は何なのか…。返礼品調達額を寄付金額の30%、送料等の経費が20%、自治体利益が50%。これが総務省が自治体に示している数字です。

規制を支持する自治体もあるが…

野田総務大臣の発言を歓迎している自治体もあります。

東京都杉並区では、ふるさと納税精度が始まってから、税収は激減しているそうです。区広報からは「ふるさと納税はやめて」と訴え「住民サービスが提供できなくなる」と訴えているようです。

ここに、総務省が掲げる「ふるさと納税の意義」の「自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと」を当てはめると、見方は変わってきますね。

同じ東京都世田谷区は、税収減少に対策を施していないのか…。杉並区は、住民に訴えかける前にどのような努力をしてきたのか…。

総務省が意義としている「自治体間競争」からみれば、寄付額が増えるところもあれば減るところも当然出てきます

また、ふるさと納税制度が生まれた背景を総務省はホームページで、

今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた「ふるさと」に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」、そんな問題提起から始まり、数多くの議論や検討を経て生まれたのがふるさと納税制度。

出典:総務省|ふるさと納税ポータルサイト|よくわかる!ふるさと納税

と紹介していることから、杉並区の訴えは矛盾してきますよね。

Next: そもそも地産品がない自治体は…? 小池東京都知事も疑問を投げかける



小池東京都知事の見方は?

今回の野田総務大臣発言に対し、小池東京都知事は、

「(野田聖子総務相がふるさと納税で過度な返礼品を送る自治体を制度の対象外とする考えを示したことについて)返礼品競争で、びっくりする例も枚挙にいとまがない。

だが、大きな影響を及ぼす見直し方針を、大臣が突然会見で表明するのは少しやり過ぎではないか。『地方従え』と言わんばかりだ。

産品をどう知ってもらうかと努力をしている所もある。『これはだめ』と、中央の指示でやったりやらなかったりというのは若干疑義がある…」

と発言しています。

そもそも地産品がない自治体はどうすればよいのでしょう。福島のある自治体は、放射能汚染で地元品生産を断念しているところもあります。

千葉のある自治体では、有名人が出身地ということで、その有名人がプロデュースするカリフォルニアワインを返礼品としていますが、これはダメなのでしょうか。これは創意工夫にはならないのでしょうか。

国と戦ったか、言いなりか。それが各自治体の寄付額の差

ふるさと納税制度がスタートした2008年には約81億円だった自治体への寄付が、2017年には約3653億円にまでなっています。

これは「制度導入は成功」と判断できないのでしょうか。喜ばしいことではないのでしょうか。どうも総務省の本音は「うまくいき過ぎている」というところにあるようです。

総務省は「不公平感」を強調しています。つまり、総務省通達に応じた自治体と応じなかった自治体との差を指摘しています。「正直者は馬鹿を見る」という発言も出ています。

でもこれを見方を変えれば、国と戦った自治体と、国の言いなりになった自治体との寄付額の差とも捉えることはできます。

地方は国には逆らえません。なぜなら地方交付税を国からもらっているからです。そもそも自主財源が少ない自治体は総務省に逆らうことはできません。すごく平たく言えば、地方交付税は「国が地方に分配するお金」です。その分配権を総務省官僚が握っているのです。

もともと総務省はふるさと納税制度には反対だった

そもそもふるさと納税制度は寄付制度であり、この総務省官僚の分配権から切り離されたものと言えます。

分配の代表的な事例として電波がありますね。つまり総務省官僚の力の源泉が「分配権」なのです。

かつては旧自治省から地方の首長に人を派遣していました。知事は選挙で選ばれるようになりましたが、中央とのパイプ強化として、今でも総務省出身の知事は多いようです。

ふるさと納税」というネーミングは、国民が直接地方にお金を届ける「寄付制度」のイメージを和らげるための工夫で、総務省官僚の抵抗を避けるためにつけられたものだと指摘する声もあるようで、それが本当なら、当時の菅総務大臣の苦労が伺えます。

これはあくまでも想像です。(税金の使い道を)一部でも国民が決められるようにという趣旨だったが、総務省の想定を超えてしまったということなのでしょう。そこで巻き返しということになった。下手をすると、制度がめちゃめちゃになる。それが狙いではないのか。総務省はもう止めたいのだ…。

Next: 省益を優先する総務省が、地方自治体が自立するきっかけを奪う…



地方自治体が自立するきっかけを奪うのか?

テレビの報道番組でのやり取りの1コマです。

前大阪市長の橋下徹氏は、地方の独立を訴えてきました。地方独自の財源確保を強く訴え、地方への税源移譲を訴えていました。

ただ地方自治体がまだ、一人歩きできるほど熟成していないという問題もあり、かつてバブル経済下で行われた、竹下内閣による「ふるさと創生一億円事業」では、地方自治体による無計画な箱物行政やモニュメント建設・製作に費やされたことが指摘されました。

そういう観点から、今回の、それこそ総務省が掲げる「地方自治体間競争」を促す「ふるさと納税制度」は、地方自治体が自分達の足で歩く良いきっかけになるとは考えられないのでしょうか。

国が地方を牛耳っていたい、国ではなく総務省ですかね。何よりも優先されるのは「国益」よりも「省益」ですからね。その思惑が地方の独立を阻んでいるのではないかと思いますね。

変わらなければならないのは霞ヶ関の風土なのでしょう。その試金石として、今回の「ふるさと納税制度」のゆくえを、みんなで注目していきましょう…。

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今週の重要指標&予定

週末マーケット上昇、円安加速

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※本記事は、らぽーる・マガジン 2018年9月18日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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らぽーる・マガジン』(2018年9月18日号)より一部抜粋
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