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ヘッジファンドの退場ラッシュが支える米国株、中間選挙前にさらなる上昇へ=近藤駿介

米国株が再び堅調に推移する中、空売り戦略を取ってきたヘッジファンドは虫の息だ。まもなく彼らの解約ラッシュが始まり、株の買い戻しがさらなる株高を演出する。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

※本記事は有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』2018年9月18日号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。著書に、平成バブル崩壊のメカニズムを分析した『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社)など。

空売りしたヘッジファンドは虫の息。退場前の買い戻しが急増する

力強さを見せる米国株

中間選挙を控えて政治と経済に様々な力が加わる懸念が高まる中、株式市場は米国株式市場を中心に堅調な展開を見せた。NASDAQ総合は週間で1.4%上昇し8000台を回復するとともに、S&P500も同4.4%上昇し2900台を回復。再び史上最高値更新をうかがう展開となった。

政治面での不透明感が強まるこの時期に米国株式市場が再び力強さを見せ始めたのは、新興国不安が払拭されていないことに加え、ヘッジファンドの決算が近付いて来ているという季節要因によるものだと考えられる。

トルコ中銀が13日に主要な政策金利である1週間物レポ金利を、事前予想(3~4%程度)を大幅に上回る6.25%引き上げて年24%とした。これを受けて新興国通貨の買い戻しが見られたものの、週間ベースでブラジルレアルやインドルピーなどは下落するなど、新興国不安は払拭されていない

ドル需要の上昇も、ドル円は上がりにくい状況にある

新興国のカントリーリスクから逃れようとする資金は、一旦は基軸通貨である米ドルに戻る。日本から新興国に向かう場合でも、円と新興国通貨の取引のほとんどは米ドルを介して行われている。さらに、ブラジルレアルやインドルピーなどオフショア市場での取引が規制されている新興国通貨はNDF(non-deliverable forward)を利用してドルでの差金決済がなされている。

それゆえに、日本の投資家が新興国通貨のリスクを回避する際には、「新興国通貨→ドル→円」というルートを辿ることになるので、ドル需要が高まることになる。

このように新興国から資金が逃げる局面では、ドルの需要が高まり、ドルに上昇圧力が掛かる。しかし、そのうち日本に戻ろうとする資金は、ドルを売って円を買うために、ドルは対円では上昇しにくい状況になる。

ドルの実効為替レートが16年ぶり高値を記録したことが報じられるなかで、ドル円相場が110円~112円台の狭いレンジで推移しているのも、こうしたことが影響している。

トルコ利上げでも「新興国不安」は払拭されない

トルコが予想を上回る利上げに踏み切ったことで、一部の新興国通貨の下落に一旦歯止めが掛かった格好になっている。しかし、新興国不安の原因の1つがFRBによる利上げに伴う米国への資金還流懸念だとしたら、新興国不安がトルコ中銀の利上げによって直ちに払拭されると考えるのは楽観的過ぎる。

先週発表された米国経済指標にはインフレがピークアウトしつつあることを感じさせるものもあった。しかし、インフレ率自体はFRBの目標水準に達しており、9月25、26日でのFOMCでの利上げが確実視されているうえ、後数回の利上げが見込まれている。こうしたFRBによる漸進的な利上げが説得力を維持している局面で、トルコ中銀による利上が新興国不安を払拭するというのは無理な話だといえる。

新興国のカントリーリスクを回避する目的で米国に還流する資金は、収益よりも安全性を重視するものである。したがって、こうした資金の多くは債券、金利市場に滞留することになる。こうした資金の存在が、利上げ期待が高い中で米国金利の上昇を抑制し、それが株価を下支えする要因となっていると考えるべきだろう。

Next: 空売り戦略を取るヘッジファンドは瀕死。ついに解約ラッシュが始まる…



S&P500より約10%も成績が悪いヘッジファンド

また、中間選挙を睨んだ様々な政治的な圧力が株式市場を牽引してきたFANNG銘柄に向かい、株価に下押し圧力として作用するなかで株式市場が再び最高値更新を狙うような展開になってきたことは、空売り戦略を用いたヘッジファンドの苦しみが強まって来ていることを物語った動きでもある。

8月末時点でS&P500は昨年末比で8.5%上昇して来ている。それに対してヘッジファンドのパフォーマンスは▲1.8%と、S&P500を約10%アンダーパフォームしている。

こうしたヘッジファンドの運用不振は今年だけのことではない。2017年もS&P500を10%強アンダーパフォームしているうえ、2018年も含めて過去10年間で9敗1分と全く存在意義を発揮できていない状況ある。

昨年も多くのヘッジファンドがパフォーマンス不振で退場を余儀なくされたが、今年も同じようなことが繰り返される可能性が高いことは念頭に置いておくべきである。

ヘッジファンドの解約ラッシュが始まる

ヘッジファンドのパフォーマンスが悪化している原因の1つは、空売り戦略を取り入れていることである。こうした空売り戦略を採用したヘッジファンドが退場を迫られた場合、空売りは買い戻しをせざるを得ない

空売り戦略を採用してきたヘッジファンドにとって最後の頼みは、共和党が中間選挙で大敗を喫し、「トランプ大統領弾劾」の可能性が高まることである。しかし、例え中間選挙結果が彼らの希望通りのものになったとしても、彼らはその結果から恩恵を受けることは出来そうもない

ヘッジファンドの多くは11月決算である。そして、ヘッジファンドの解約申し込みは「45日ルール」といわれるように、決算の1ヵ月から3ヵ月前までに行われるのが一般的である。従って、11月決算のヘッジファンドの解約申し込みは、10月中旬頃、遅くとも10月中には行われてしまう

つまり、ヘッジファンドの保有者は、11月6日に行われる中間選挙の結果を見ずに、ヘッジファンドを解約するか否かを判断して通知することになる。現在のパフォーマンスの状況を鑑みると、ヘッジファンド保有者の多くが解約を選択する可能性が高いことは想像に難くない。

Next: 退場を余儀なくされたヘッジファンドが最後に市場に与える影響は…



空売りの「買い戻し」がさらなる株高を演出する

中間選挙に向けて政治的不透明感が高まっていくことは間違いない。しかし、多くのヘッジファンドはその結果を見ることなく退場させられる運命にある。

市場からの退場を迫られた彼らがとる投資行動は、「株の買い戻し」である。それは、退場を迫られたヘッジファンドが中間選挙の不透明感が増す中での株高を演出する主役になる可能性があるということである。

トランプ政権が有する様々な懸念を根拠に空売り戦略を採ってきたヘッジファンドが、中間選挙前に空売りの買い戻しを余儀なくされ、中間選挙を控えたトランプ政権に株高というプレゼントを渡すことになるというのは、何とも皮肉な巡りあわせであるが、こうしたことが起きることは十分にあると思われる。

「誰か」が中間選挙前の株価上昇を確信している

先週末のBloombergでは、次のようなニュースが報じられている。その記事は「オプション市場の誰かが、5年平均を下回って推移しているCBOEボラティリティー指数(VIX)が2月の市場混乱時の水準に戻ることに賭けている」ことを指摘している。

ある投資家は権利行使価格20ドルの11月限コール(買う権利)を約7万6000枚購入と同時に、同じ枚数の同26ドルの11月限コールと約9万5000枚の同13ドルの10月限プット(売る権利)を売却した。

出典:誰かがボラティリティー急騰に賭けVIXオプション出来高が急増 – Bloomberg(2018年9月14日配信)

この記事では「誰か」は明らかにされていないが、「退場を迫られるヘッジファンド」である可能性は高い。報じられているポジションは、20ドルのコールを買うことが主目的であり、26ドルのコールと13ドルのプット売りは、そのプレミアムを回収するためのものである。

こうしたポジションが採られたことが事実であるとしたら、この「誰か」は「足もとこれ以上ボラティリティーが低下する可能性がない」ことと、「11月にかけてボラティリティーが上昇する可能性が高い」ことを知っている主体であることは間違いない。

さらに言えば、この「誰か」は、「ボラティリティーは20%程度までは上昇する可能性が高いものの、26%までは上昇しない」という強い見通しを持っている。それは、ボラティリティー上昇を招くのが「株価下落」ではなく「株価上昇」であるということを認識しているからだといえる。

Next: 中間選挙前後で風向きが変わる? ヘッジファンドの最後っ屁に警戒を



ヘッジファンドが巻き起こす季節風に警戒を

10月中にヘッジファンドに対する解約申し込みが増えて行けば、空売り戦略を採用してきたヘッジファンドは「限られた時間内」で買い戻しを余儀なくされることになる。

それは、これまで低く保たれてきたボラティリティーを上昇させる要因になる。

自分たち、あるいは同業者が市場から退場を迫られた場合、どのような行動を起こすのか、それが株式市場にどのような影響を及ぼすかは、当事者が一番理解していることである。

中間選挙に向けて政治的な不透明感が増していくことは間違いない。しかし、同時に中間選挙に向けてそれらを掻き消す様な強い季節風が吹く可能性は認識しておかなければならない。

中間選挙の結果によって市場に混乱が起きるとしたら、退場を迫られたヘッジファンドの買い戻しが起こす季節風が弱まる中間選挙後になると認識しておいた方が賢明である。

退場を迫られたヘッジファンドに明日はない。しかし、だからといって彼らはすごすごと大人しく退場して行くような軟な輩ではない。昨年も仮想通貨バブルを置き土産にしたことを忘れてはいけない。

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・4日新甫は荒れる?~ 攻勢から守勢へ(9/10)
・白バイ隊はヒーローなのか、それとも「反則金徴収マシン」なのか?(9/7)
・存在価値を失ったヘッジファンドが支えるトランプ相場(9/3)
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元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2018年9月18日号)より抜粋
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