豪雨に負けない森はどこへ…。今国会で成立「森林経営管理法」が日本の山と林業を殺す=田中優

あまり知られていない、今国会で成立した「森林経営管理法」について解説する。日本の森林の乱伐を招き、林業というビジネス自体を崩壊させかねない制度だ。(『田中優の‘持続する志’(有料・活動支援版)』)

プロフィール:田中優(たなか ゆう)
「未来バンク事業組合」理事長、「日本国際ボランティアセンター」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表。横浜市立大学、恵泉女学園大学の非常勤講師。著書(共著含む)に『未来のあたりまえシリーズ1ー電気は自給があたりまえ オフグリッドで原発のいらない暮らしへー』(合同出版)『放射能下の日本で暮らすには?』(筑摩書房)『子どもたちの未来を創るエネルギー』『地宝論』(子どもの未来社)ほか多数。

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新法で恩恵を受けるのは、低級木材を大量生産する巨大製材所だけ

ひっそり成立した「森林経営管理法」

今国会にて、新たな法律である「森林経営管理法」が可決・成立した。来年2019年4月1日には施行され「新たな森林管理制度」がスタートする。

その制度は、所有者が管理できていないと市町村が判断した森林について、市町村が業者らに伐採などを委託できるというもの。伐採には森林所有者の同意を前提としているが、もし同意が得られない場合でも、市町村の勧告や都道府県知事の裁定があれば伐採を可能とする特例も用意されている。

この新制度についてほとんど国民には知らされていないが、日本の森林の乱伐を招き、日本の山を守ろうと努力してきた「きこり」とも呼べる林業従事者たちの生活を脅かす恐れがある。その問題点について詳しく解説したい。

食品を腐敗させない「天然スギ」の素晴らしい殺菌効果

「酒・味噌・醤油・お酢」、日本を代表する発酵食品を作るのに欠かせない木材がある。それがスギだ。スギの精油分には殺菌効果があって、食品を腐敗させないのに発酵は促進する。

我が家で醤油造りをしてみた。我が家は無垢のスギで建てていて、殺虫剤はおろか、防カビ処理すらしていない無垢のスギだ。おかげで醤油造りに向いていたようで、一緒にワークショップしたメンバーの中で一番早く発酵が進んでいる。

それだけではない。秋田スギで作る「曲げわっば」を作る職人たちは、樹齢が200年を越える天然(天杉)のスギを使っていたそうだ。曲げたときに折れない材質を作り出すには、樹齢50年程のインスタントなスギではできないのだ。そのために秋田県大館市は、「150年の森」事業を始めた。素材となる樹齢の高い木が入手困難だからだ。

「桶」の材料にするスギも同様で、樹齢数百年のスギが使われている。プラスチックでは作れない特徴が、酒や醤油、お酢などの発酵文化を支えていたのだ。

もともとスギの殺菌効果は食品には欠かせないもので、かつては食品を運ぶ「経木」もスギであったし、かまぼこ板にもスギが使われていた。スギの食品庫に保存すると、腐敗させずに食品が枯れていくのだ。

効率重視で流通しているスギ材に、その効果はない

ただし、これはきちんとした低温乾燥または天日乾燥をした天然スギの場合の話である。いま普通に購入したスギではその効果はない

今は乾燥を早く、徹底的にするために、120℃もの高温で乾燥させるのが一般的だ。乾燥炉の中に入ると下にはスギから出た精油分がタール状になって落ちている。この精油分がなくなると、殺菌効果も発酵を促進させる効果も期待できなくなる。

スギを使うことの最大のメリットが失われてしまうのだ。スギはまるでプラスチック部品の代替品のように扱われ、生命を持つ樹木としての扱いをされなくなっているのだ。

今は伐採したスギは防カビ薬品のプールにドブ漬けされ、さらに殺虫剤で処理されてしまう。輸入された木材も同様だ。輸入されるとまずシートを被せられ、殺虫のための臭化メチルで処理されてしまうのだ。

成立した「森林経営管理法」が守るものは…

ところが今回の今国会で成立した「森林経営管理法」では、こうしたきめ細やかな森林経営は対象としていない。素材加工業者である「巨大製材所」の都合に合わせた森林経営を推進するために作られたものだ。

大手の「製材所」が求めるのはインスタントで量の多い素材の供給である。つまり良質の木材ではなく、接着剤で固めただけのベニヤ板や、MDF(中質繊維板)と呼ばれる、木材チップを原料としてこれを蒸煮・解繊したものに合成樹脂を加えて成形しただけのものだ。

木材には本来、「A材、B材、C材など」と呼ばれる質のランクがあって、A材以外の質の劣悪なものを加工して作る素材加工業者は、質の低い木材しか必要としない。質が低い木材も使われること自体は歓迎されるべきことなのだが、そればかりにされてしまうと困る。

さらに今問題になっているシックハウス症候群化学物質過敏症の人たちの症状を悪化させる接着剤化学物質を使うので、さらに暮らすことのできる無垢材を使った住まい作りを狭くしてしまうことになる。

樹齢55年以上はすべて伐採へ

たとえば樹齢についても、11齢級(樹齢55年)以上のものはすべて伐採していく方向だ。日本では戦後の水害対策として、「拡大造林計画」として全国各地にスギ・ヒノキ・カラマツ・アカマツ等を植えた。全国に膨大に植えられたスギはすでに伐採期を迎えたので、順次伐採していって毎年伐採する木材の樹齢を合わせたいというのが方針だ。そうすれば毎年持続的に伐採していっても森は維持されるからだ。

いや、そもそも「拡大造林計画」自体が強引で無理のあるものだったという反省のないことが問題だ。今回の「森林経営管理法」の強制もまた問題だ。「拡大伐採計画」とも言うべきものを押し付けようとしている。これが強制されると、「曲げわっばの150年の森」などできなくなる。樹齢を長くして、A材や超A材を増やすことは全く求められてなくて、ただひたすら低級な材を粗製乱造することしか考えられていないからだ。

そうではなく、高級な木材生産を中心とした「森林経営」はできないのか。人体に悪影響のある接着剤や化学物質まみれの木材の供給を「森林経営」と呼んで推進することは、さらに森林経営者を圧迫して、人々に住むのに適さない住宅ばかりを建てさせることになる。

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