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横浜マンションはなぜ傾いたのか?手抜きや改ざん「よくある」の衝撃

横浜市都筑区の三井不動産販売の大型マンションで大きな傾きが発見されました。隣同士のベランダに大きな段差ができているショッキングな映像が流れました。

どうやらマンションの土台となる部分となる杭打ちに問題があったようです。複数の杭(くい)が強固な地盤に届いておらず、建物が傾く事態となったようです。傾いたマンションの計52本の杭のうち、6本の杭が地盤の強固な「支持層」に到達しておらず、2本も打ち込まれた長さが不十分であることが判明したと報じられています。

この一連の原因として大きく2つの問題が挙げられます。工期の問題と建築審査の問題です。(らぽーる・マガジン)

横浜だけで済むのか?「マンション・スキャンダル」に揺れる市場

全棟すべて立替でも納得いかぬ住民ら

この杭打ちを請け負った会社は旭化成建材で、旭化成の子会社になります。

新たに杭の先端を覆うセメントの量のデータで不正があったことが発覚し、3棟の45本について別の杭のデータを転用したり改ざんしたりしていたようです。

このマンションは大型商業施設に隣接する人気のマンションでした。販売は三井不動産レジデンシャルが販売、工事の元請けは三井住友建設で、杭の工事は旭化成建材に発注していました。

三井住友建設は、旭化成建材の改ざんは知らなかったとしています。賠償金拠出は、大部分は旭化成建材が担うことになるのでしょうが、三井住友建設にも元請けとしての責任は当然あります。

一般の建売住宅にも見られますが、欠陥施工ミスという概念があります。その構造物そのものを維持できない重大な問題がある建物を欠陥住宅と言います。施工ミスは建築段階でなんらかのミスが発生したもので、これは後に修正することは可能です。

もちろん、横浜市都筑区のマンションに関しては明らかに重大な欠陥といえますから、三井不動産レジデンシャルとしては、全棟すべて立替ということにするようです。住民への保障も全面支援するとしています。

この早い決断は三井不動産レジデンシャルの企業ブランドを高めたことになります。住民全面支援、問題の棟以外も含めて立て替えるというわけです。

ただ、このマンションを買った住民は、大型商業施設に隣接している立地を好んで買ったわけで、問題がない棟に住んでいる住民の中には、立て替えなくてもいいという人もいるようです。

三井住友建設<1821> 日足(SBI証券提供)

旭化成<3407> 日足(SBI証券提供)

極端に「短い工期」欠陥や施工ミスは必然との見方も

一般の建売住宅において、ある工務店の方になぜ欠陥や施工ミスが生まれるのかと尋ねたところ、工期に問題があるという答えが返ってきました。

納期が決まっている工事、納期があまりにもタイトな物件では、どうしても工期優先のために工事が手抜きになりがちだとのことです。

また、施工途中で予算が折り合わず、材料を削ったりすることもあるそうです。材料費高騰、人件費高騰など、要因はさまざまですが、最初の予算を超えるわけにはいかない事情から、材料を削ったり質を落としたりすることはよくあるそうです。

「よくある」というところが恐ろしいですね。

一般住宅の場合は、壁の断熱材をケチる、貼るべきところに断熱材を設置しない、いわゆる「抜く」ことが行われたりするようです。ねじまで取り外すそうですよ。

今回の横浜市都筑区のマンションは、当時関わった関係者に話を聞くと、明らかに工期が間に合わなかったことを指摘しています。完成時期は変えられない状況で、おそらく旭化成建材は、杭打ちを十分に行わず、作業を早めることを優先し、それをごまかすためにデータを改ざんしたのでしょう。

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ずさんな建築審査、なぜデータ改ざんを見抜けなかったのか?

もうひとつの問題は建築審査です。なぜデータ改ざんが見抜けなかったのでしょう。

この建築審査に関してですが、従来は、地方公共団体の建築主事のみが建築確認、検査事務を行なっていましたが、建築物件の数が増え、役所としても人手不足となり、当時の橋本龍太郎内閣が建築基準法を改正し、それまで地方公共団体の建築主事のみが行なってきた建築確認、検査事務を、民間の指定確認検査機関(同法第77条の18 – 第77条の35)を創設することにより、株式会社を含む民間機関に開放することになりました。

この民間会社が行った審査を地方公共団体は信用してきたわけです。今回の事に関しては、横浜市側にしても「被害者」の立場ということなのでしょうか。

人手不足で、手抜き工事が見抜けず、十分な検査が行われていない事態を改善するために、審査を民間企業に開放したとする最初の説明でしたが、一方、営利企業に公正な確認、検査ができるのかという懸念もあり、確認・検査業務は、行政機関が責任を持って実施すべきだとの意見もありました。

でも、行政機関がしても民間がしても、欠陥住宅の数はなくなることはなく、ある一定程度の数はあるようです。役人も民間も手を抜く人は抜くようです。

姉歯事件を覚えていますか。ヒューザーの小島社長をテレビで見かけましたよね。ヒューザーの小島社長の国会喚問の前日、ライブドア本社に強制捜査が入りましたね。あのときです。

耐震偽装という言葉、姉歯設計士による経済設計という言葉が飛び交っていました。経済優先、つまり販売価格を下げることが優先、コストを下げることが、安全よりも何よりも優先されたわけです。

その偽装を民間審査会社は見抜けなかったのです。今回も同じです。

建設業界は縦割りで、下請けがたくさんいます。下請けに行くほど利益幅は薄まります。どうしても経済設計ではないですが、経済的な建築をしようとします。手抜き、欠陥が生まれやすい土壌があるといえます。

それに工期短縮です。下請け会社は予算を抑えられ工期は守らされるという状況に追い込まれているようです。

そして今は東北震災復興や東京五輪に向けての建設ラッシュで、建築業界は慢性の人手不足です。円安による材料費高騰もあり、欠陥住宅や手抜き工事、施工ミスが生まれる土壌が整いすぎているような気がします。

大手が取り扱ったマンションも、建売住宅も同じ事情かと思います。フォルクスワーゲン社の問題といい、企業の信頼はどこへ行ったのでしょうね…。

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らぽーる・マガジン』(2015年10月19日号)より一部抜粋
※チャートと太字はMONEY VOICE編集部による

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