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相続税の支払いから逃れるために、海外移住という選択肢は本当に有効なのか?=小櫃麻衣

遺産の半分以上が税金で持っていかれるとも言われる日本の相続税。節税のために、海外に移住するという選択肢は本当に有効なのでしょうか?詳しく解説します。(『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』小櫃麻衣)

相続税対策のために海外移住!…本当に上手くいくの?

世界に目を向ければ、相続税が存在するほうが珍しい

平成27年の相続税法改正により、相続税の最高税率は55%に引き上げられました。つまり、最高税率が適用されることになれば、相続した遺産の半数以上を相続税として納めなければならないのです。

それに加えて、相続税の基礎控除額が4割カット、さらに死亡保険金などのみなし相続財産の非課税枠が半減されたこともあり、ますます相続税の負担が重くなってきています。

最高税率が適用されるのは、相続税の課税対象額、つまりプラスの財産からマイナスの財産を差し引き、相続税の基礎控除額やみなし相続財産の非課税枠、さらには相続税の軽減措置である控除や特例を用いた金額が6億円を超えるケースのみなので、遺産総額が何十億円といった方でないと、最高税率は適用されません。

このような超富裕層な方にしてみれば、財産の半分以上を相続税として納めなければならないのはあんまりだとの思いから、様々な相続税対策を考えている方も多いと思いますが、中でも相続税の課税されない国に移住してしまおうと考える方も少なくありません。

さて世界に目を向けると、相続税が存在する国の方が珍しいともいわれています。

死亡した方の遺産は、一生懸命働いて、様々な税金を納めたうえでの手残りであるにも関わらず、そこに対してさらに相続税を課税するのはいかがなものか、という考えが強いそうです。

日本を含め、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・韓国・台湾では、相続税が存在しますが、アメリカにおいては遺産総額が5億円以上でないと相続税は課税されません。さらに、台湾では相続税率が一律10%に設定されており、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスにおいては、相続税を廃止しようとする動きもあるそうです。

逆に、相続税が存在しない国は、イタリア・オーストラリア・ニュージーランド・スウェーデン・シンガポール・カナダなど。つまり、相続税が存在しない国々へ移住してしまえば、相続税が課税されずに済むということになりますね。

しかし、相続税の存在しない国に国籍を移したところで、本当に相続税を一銭も支払わずに済むのでしょうか。

その財産がどの国にあるのかが、国際相続のポイント

ここで、国際相続の考え方を説明していきましょう。

さて国際相続の大原則として、その財産がどの国にあるのかというのが重要なポイントとなります。

基本的には、その財産が存在する国の税法に従い、相続税を納めるのかどうかが決まってきます。

“財産がある国の税法に従う”ということは、例えばオーストラリア国籍の方が日本にある不動産を購入した後にその方の相続が発生したとしましょう。

すると、日本にある不動産をオーストラリアに住む相続人が相続する場合には、日本の相続税が課税されるというわけです。

つまり、日本にある財産はどこの国の誰が相続しようと、日本の相続税が課税されてしまうということになります。

ということはこの原則に従って、日本にある財産を全て処分してしまい、移住先でゼロから生活をスタートさせれば、相続税から解放されるのでしょうか。

人によっては、海外にある財産にまで相続税が課税されるケースと課税されないケースに分けられてしまうのです。

Next: 海外に移住すれば、日本の相続税の支払いから逃れることができるのか?



海外に移住しても、10年絶たないと相続税発生

さて財産がある国の税法に従って、相続税が課税されるかどうかが決まるという原則の下考えれば、日本にある財産を全て処分し、相続税の存在しない国でゼロから生活することになれば、相続税から解放されると考えたいところではありますが、実際のところどうなのでしょうか。

結論からいうと日本の相続法では、被相続人・相続人のどちらかが日本に住んでいれば、どの国にある財産であろうと日本の相続税が課税されることになっています。

つまり、どうしても日本の相続税を支払いたくないのであれば、日本にある財産の全てを売り払って、一家揃って海外に移住しなければならないのです。

ちなみに平成25年までは、相続人が海外に移住していれば、海外財産に日本の相続税は課税されませんでした。

さて相続税のない国に国籍を移したとしても、5年以内に相続が発生してしまうと相続税が課税されると聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、最近になってこのルールが変更されました。平成29年3月の税制改正で、5年縛りが10年縛りへと変更されたのです。

つまり、海外移住をしたものの、移住後10年以内に相続が発生してしまえば、相続税が発生してしまうのです。

そして、もう一つ気を付けなければならない点は、この10年縛りは相続人に対しても適用されるということ。

死亡した方と共に相続人が移住先の国籍を取得していれば、10年縛りは適用されず、日本の相続税が課税されることはないものの、相続人が日本国籍である場合には、被相続人へと適用される10年縛りと同様、日本を離れて10年以上経過していないと、相続税が課税されることになるのです。

海外移住をしても時間やお金、労力が掛かってしまう

ここでまとめると、国外で所有する財産に日本の相続税が課税されないのは、死亡した方と相続人がどちらも国外に住んでおり、さらに死亡した方が日本を離れて10年以上経過、そして相続人が外国籍、もしくは日本を離れて10年以上経過しているといった条件を満たさなければならないということです。

相続税対策のために海外移住というのも、度々ニュースで取り上げられていますので、以前に比べて聞き慣れてきていると思います。

しかし、自分の遺産の半分が税金で取られてしまうから海外移住しようと考えたところで、自分の死後、手続きを進めなければならないのは、いうまでもなく残された家族です。

様々な条件をクリアしたうえで、日本の相続税が一銭も課税されなかったとしても、相続手続きを進める際には、移住先にある財産を日本の税務署へ申告、さらには、移住先にある財産を移住先の税務署へ申告しなければならず、同じような手続きを日本と移住先の二カ国で行わなければなりません

海外の相続手続きを引き受けてくれる日本の税理士は、あくまで日本の税法に従って業務を進めなければならないので、“移住先にある財産を日本の税務署へ申告”という作業は請け負ってくれますが、移住先の手続きは現地の専門家へ依頼しなければなりません。

そうなると、時間やお金、そして何より労力が必要になりますよね。

それでも海外移住によって相続税対策をしたいのであれば、こういった面を隅々まで把握したうえで、海外相続に詳しい専門家へ話を聞きにいくと良いでしょう。

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FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』(2018年12月7日・10日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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