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シラーP/Eレシオが示唆する2016年米国「自社株買いバブル」崩壊=吉田繁治

チャイナ・ショックを受けて急落後、現在は急速に値を戻しつつあるアメリカ株式市場。経営コンサルタントで内外金融に詳しい吉田繁治氏は、堅調な米国株について「量的緩和に端を発する桁違いの自社株買いが要因」と指摘。ロバート・シラー博士の「シラーP/Eレシオ」の数値を根拠に、今回の「自社株買いバブル」は利上げ後には崩壊する可能性が高いと分析しています。

シラーP/Eレシオの25倍超えは135年間で3回だけだった

シラーP/Eレシオで見る米国の株価

2013年にノーベル経済学賞をもらったロバート・シラー(行動経済学)は、1期だけの予想PERではなく、10年間の移動平均から算出した企業純益(インフレ率マイナス後)で計算した、過去135年間のシラーP/Eレシオを発表しています。

1期だけの予想純益では、利益の変動が激しいためPER倍率が不安定になり、株価の水準を計るには不適当だからです。

10年の純益を元にしたシラーP/Eレシオは、CAPEシラーP/Eとも言われます。10年PERと言ってもいい。

シラーP/Eレシオ=現在の株価÷インフレ調整後の過去10年の1株当たり純益の移動平均
Shiller PE Ratio

グラフで見ると、2015年8月は、シラーP/Eレシオが26.10倍になっています。08年9月のリーマン危機後、歴史的平均の16.63に近い15倍に下がった後、3回のQE(量的緩和)により、26.10倍に押し上げられています。

過去、このシラーP/Eレシオが25倍を超えたのは、3回しかありません。

[1回目]

1929年の大恐慌の直前の、株価バブルの時期:シラーP/Eレシオで30倍。その後、1933年の5倍にまで暴落しています。

[2回目]

2000年のIT株バブル:シラーP/Eレシオで45倍と最高の値でした。情報技術とインターネットでのIT革命が、将来の利益を3倍は大きく予想させていました。

このIT株バブルは00年4月からはじけて、シラーP/Eレシオで23倍に下げています(2002年)。

[3回目]

2008年の、サブプライムローン・バブルの時期:シラーP/Eレシオでほぼ27倍でした。同年9月からのリーマン危機とともに、米国の株価は、シラーP/Eレシオで15倍にまで下がりました。

その後、FRBによる3度の量的緩和で$4兆(480兆円)のマネーが増発され、それが銀行の当座預金になり、米国の流動性(ドルの現金)がじゃぶじゃぶになっています。

この過剰流動性を低金利の社債で調達して、毎年の自社株買いに当てたのが米国企業です。推計ですが、米国の流通株は2008年の70%程度に減っていると思われます。

(注)リーマン危機後の6年間で、年平均$6000(72兆円)の自社株買いがあったとして、「72兆円×6年=432兆円」です。米国FRBのドル増発額と見合います。

Next: 崩壊のシグナルは利上げ。シラーP/Eレシオの高止まりは考えにくい


2016年の米国の株価――自社株買いも永遠には続かない

シラーP/Eレシオの26.1倍が30倍、40倍に上がることは、全く考えることはできません。ITバブルのときのような、ニューエコノミーによる経済成長、大きな拡大という見方は、ないからです。

むしろ米国の将来のGDPは、せいぜい2%、高くても3%しか成長しないということが市場のコンセンサスでしょう。GDPの予想増加が低い場合、米国企業の利益の増加率も低くなります。

ダウやナスダック、あるいはS&P500のような合計された株価指数は、米国のGDPの増加によって上がり、GDPの増加率の低下によって下がります。

(注)個別の企業では、その投資利益率の違いによって株価水準が異なります。投資利益率が高い企業の株価は高くなり、低い企業の株価は下がります。しかし株価指数は企業の合計値ですから、マクロ経済のGDP期待成長に依存するのです。成長ではない、人々が抱く期待成長率です。

シラーP/Eレシオが26倍を超えたのは、

の時だけです。いずれのときも、市場は「将来の成長を強く楽観」していました。

自社株買いです。2015年はこれが144兆円にもなって史上最高です。

この意味は、1年に144兆円もの自社株買いをしないと、現在の米国の株価は維持できないという、岸壁の上の株価であることです。1000社が自社株買いをした場合、1社平均で1440億円にもなる巨額なのです。

2016年も144兆円以上の、例えば180兆円の自社株買いができるでしょうか。疑問です。ということは、米国株は、FRBの利上げの決定とともに、大きく下落するということです。

利上げは0.25%や0.5%とう小幅なものでしょう。しかし、この小さな利上げは、銀行間のレポ金融のレバレッジには、大きなマイナスを及ぼします。金利が上がれば、社債発行も急減します。

現在の世界の株式市場は、変な値動きをします。

世界2位のGDP(日本の2.5倍)になっている中国の経済成長が大きく減速している。
株価も暴落した
世界経済の成長率は低くなっている
このためFRBは2015年内の利上げをしない
FRBの利上げ延期を予想して株価が上がる

つまり、世界のGDP成長が低くなったから株価が上がる…逆転した動きです。

なぜこんなに逆転した株価の動きになるのか。それは現在の株価が、過剰になった流動性によって押し上げられているからです。このため、引き締めの延期が、株価を押し上げるのです。

注意すべきは2016~2017年です。シラーP/Eレシオで26倍水準の米国の株価は無事にいくでしょうか。過剰流動性相場は、必ずはじけると判断します。

【関連】2016年「アベノミクス官製相場」の仕掛けと対策 問題は7月参院選後=吉田繁治

ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2015年10月28日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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