毎月勤労統計には不正のほかにも2つの大きな欠陥があります。業績が悪化した企業は回答を控えやすいことと、リストラされた人の賃金水準が反映されない点です。(『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』児島康孝)
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戦後最長の好景気どころか、戦後最悪の不況が長く続いているだけ
「毎月勤労統計」にある2つの欠陥
「毎月勤労統計」問題で、与野党の攻防も激化しそうですね。先日も当メルマガで、日刊ゲンダイDIGITALさんの「業績が悪い企業は回答を控えるようになる(実態よりも良い結果だけが統計に算出される)」という話をお伝えしました。これはまさに重要なポイントです。
加えて、与野党の双方や多くの国民も、まったく思いもよらない点があるのです。これは「実質賃金」に限らないのですが、少し上がった・下がったというのは、社会に大きな変化がない時代で、連続的な平時の際に有効な話です。それは「毎月勤労統計」にしても、同じことです。
つまり、バブル崩壊やリーマン・ショックのような大規模なリストラの後には、「実質賃金」は意味をなしません。平たく言えば、リストラされずに残った人、リストラがなかった人の平均値であるからです。
リストラされずに残った人の賃金が良いのはあたりまえですよね。一方、リストラされた人は大幅に賃金が「暴落」しています。
つまり「毎月勤労統計」では、業績が悪化した企業は回答を控えやすいという側面のほか、リストラされた人の賃金水準が反映されないという、致命的な欠陥があるのです。
数字のモデルで考えると…
例えば、年収500万円の人が1,000人いる企業で考えてみましょう。平均年収は、500万円。単純に12ヶ月で割ると、月収が約41万6,600円です。
そして、この会社が、大規模なリストラを、行ったとしましょう。
1,000人が、半分の500人になりました。
残った人の年収は、同じ500万円。
平均年収は500万円で、平均月収は約41万6,600円のまま、です。
「2人に1人」という大規模な激しいリストラでも、平均値には変化がありません。
そして、会社を去った500人はばらばらになり、非正規雇用やアルバイトになるか、再就職します。平均すると、年収は200万円になりました。月収は、12ヶ月で割って約16万6,600円です。
こうして、大規模なリストラ後は、
・残った500人は、月額41万6,600円のまま
・リストラされた500人は、平均して月額16万6,600円
となります。
元の会社の平均月収はというと、41万6,600円のままです。元の会社を調査しても、同じ賃金水準が維持されているという結果しかでてきません。もちろん、人数は、減っているのですが。
Next: 実態はもっと大幅な賃金下落が起きている?納得できる日産のケース
賃金水準の実態は…
では、実態はどうなのでしょうか。これは、会社を去った人の賃金を調査しなければなりません。
つまり、元の会社にいた1,000人すべてを調査して、年収500万円が500人、平均年収で200万円が500人。これを平均して、「年収350万円が1,000人」というのが、実態を反映した数字です。月額で、約29万1,600円です。平均年収でも、大幅に150万円も下がっているわけです。
元の会社に残っている(リストラされていない)人の平均だけを計算すると、「変わりがない」という結果になります。
これが、大規模なリストラ後の「実質賃金」が、社会の実態からかけ離れている理由です。リストラされずに残った人の平均値ですから、高いのはあたりまえです。
それが、少々、上下しようが、名目賃金と実質賃金が物価の影響でどうなったとか、あまり大きな問題ではありません。
実態は、もっと極めて大幅な下落が起きているということです。
日産のケースでも同様
いま話題の「日産」のケースでも、今、日産にいる人の平均賃金は高いでしょう。しかし、日産をリストラされた人は大幅に賃金水準が下がっています。
いまの日本経済では、リストラ後には年収が3分の1とか、4分の1などもよくある話ですね。
ですから、今いる日産の人の平均賃金が高いとか少し上がったとか言っても、正確には、日本社会を反映していません。
リストラされた人の分を計算しなければ、「現実にはどうなのか」ということが見えてこないわけです。
ですから、実質賃金が上がったなどと言っていても、大規模なリストラ後の場合は、意味をなしません。
もっとも、リストラされなかった人の実質賃金さえもさらに下がっている状況というのなら、日本はより深刻なデフレ不況ということですが。
Next: 1990年、バブル頃は賃金横ばいだった?逆のケースを見ればさらによくわかる
1990年頃は、賃金横ばいで金融引き締めせず
逆のケースとして、採用が大幅に増加している状況では、実質賃金が上がっていなくても、景気が良くて、マネーの流動性が増している場合があります。
実際、1990年のバブルの頃は、金融引き締めが必要な中で、「賃金が上昇していない」という話が日銀からなされていました。
つまり、賃金が上昇していないので、「金融引き締めの必要はない」という話であったのですが、これはいまの日本と逆のパターンです。
数字の例で話しますと、年収500万円の会社で500人が働いていたところに、今まで平均年収300万円だった人が500人採用された場合。これで年収500万円の人が1,000人になりました。
しかし、この会社の平均年収は、500万円のままです。この会社では、まったく賃金は上昇していません。しかし実態は、年収が200万円もアップした人が500人いるということです。
こうして年収がアップすると、コンビニで使うお金や、外食・昼食の費用も増えてきます。そして内需が良くなり、景気も良くなるということです。
いまの日本は、このバブルの頃とまったく逆です。年収が減った人が多くて、外食・昼食費も減り、先日の当メルマガでもお伝えしましたが、とうとう、デフレ業態の中でも「高め」のところの集客が厳しくなってきているのです。
国会議員が実感するには…
こうした側面を国会議員にも実感してもらうには、議員定数を半分にしたケースで考えてもらえば良いでしょう。
例えば、定数を現状の100から半分の50にして、議員報酬は同じレベルにする。そうなっても、平均の議員報酬は「いまと同じまま」です。
報酬は悪くなっていないですね!という主張ができるわけですが、国会を去った半分の50人の元議員は、生活に困窮するケースも出てくるでしょう。
これで、「報酬はこれまでと同じです」という主張ができるのかどうか、ということです。
Next: 戦後最長の好景気どころか、戦後最悪の不況が長く続いているだけ
好況が長続きではなく、単に不況が長く続いているだけ
いまの日本は「好況が戦後最長」ではなくて、単に「戦後最悪の不況が長く続いている」だけです。
一般国民の貧困化や低所得化だけでなく、大企業でも、野村HDの1,000億円規模の赤字、曙ブレーキの私的整理、千代田化工の最終赤字1,000億円規模見通しなどなど、景気が良いわけはありません。
また、街角を見ても、東京都心部の1等地でも、不気味な空きテナントが出るという状況で、書店や飲食店の閉店も相次ぎ、戦後最悪といえます。
戦後最悪の不況を言い換えてみたところで、実態は何も変わらず、もはや国民も信じようがありません。
今回の「毎月勤労統計」にしても、リストラされた人の悲惨な賃金水準が無視されるに近いわけで、ここはしっかりと本当の日本の現状を認識して、デフレ不況対策をとるべきです。
そして、雇用の創出については、アメリカの雇用統計のような指標の方が、日本の場合もよくわかるでしょう。
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『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2019年2月1日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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