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From 首相官邸ホームページ

米・中に踊らされる日本。複数のシンクタンクが見抜いたAIIBの真実=高島康司

今回は中国の主導する「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」に関して、日本ではまったく報道されていない内容を書く。「米中は対立関係になく、そもそもAIIB設立を中国に持ちかけたのは米国である」というシンクタンクの分析だ。

これが真実だとすれば、中国の南シナ海への進出が問題となる中で、日本の安倍政権の現状認識は根本から間違っていることになる。(未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ・高島康司)

「米中に対立関係なし。AIIB設立を持ちかけたのは米国」最新分析

従来、AIIBはどのように受け止められていたか

中国が中央アジアを鉄道網で結び、貿易のための海路を整備する「一帯一路」とともに、そのための資金確保を目的に「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」の設立を発表したことは記憶に新しい。

当初は「AIIB」には参加しないようにとのアメリカからの圧力があったにもかかわらず、イギリスをはじめ57カ国が参加を表明して世界を驚かせた。欧米にかわる、中国主導の本格的な経済秩序の構築が始まったと考えられた。

一方日本は、中国からの参加要請にもかかわらずアメリカとともに参加を辞退した。この方針の妥当性を巡って国内で大きな議論にもなっていた。

アメリカは世銀を通じて中国を監視すると見られていたが

他方、これに対して一時は強い不快感を表明していたアメリカだったが、「世界銀行」が「AIIB」と積極的に協力することを表明した。中国主導の経済秩序にアメリカは参加はしないものの、「AIIB」が中国の国益を最優先して暴走しないように監視役を買って出たのではないかとも言われていた。

このような状況だったが、中国が「AIIB」の参加を締め切った6月末からは、「AIIB」に関しても、また中国がこれを設立する背景になった「一帯一路」構想についてもほとんど報道されることはなくなった。

直近の報道では、10月22日にアメリカが主導する「世界銀行」のジム・ヨン・キム総裁が次のように発言し、「AIIB」と「世界銀行」との協力関係がさらに強化されていることを明らかにしたくらいだ。

「AIIBと世界銀行、アジア開発銀行などは互いに競い合う関係ではない。AIIB発足の重要な要因は既存の多国間開発機関がアジア諸国のインフラ整備の需要を満たせていないからだ。現在、AIIBと世界銀行やアジア開発銀行との協力は非常に順調である。AIIBはこれらの金融機関が現在行っている自身の改革が進むよう期待している」

次第に明らかになりつつある「AIIB」の真実

このような状況なので、一時はあれほど騒がれた「AIIB」だったが、いまはあまり注目していない読者も多いに違いない。筆者もそうであった。

しかしながら、CIA系シンクタンク『ストラトフォー』の有料レポート、またトロント大学のシンクタンク『グローバルリサーチ』や、ロシアの政府系シンクタンク『ストラテジックリサーチ研究所』など多くの研究機関が配信する記事から、「AIIB」や「一帯一路」構想の真実と実態が、いまになって次第に明らかになってきたのである。

Next: 意外すぎる事実!「AIIB」の設立を持ちかけたのはアメリカ



「AIIB」の設立を持ちかけたのはアメリカ

これらの複数のレポートや記事が暗示しているのは、実は「AIIB」も「一帯一路」構想も中国に持ちかけたのはアメリカのオバマ政権であったという事実だ。

オバマ政権は、「AIIB」のような国際機関を立ち上げ、これを運営するためのノウハウの提供を中国に約束し、「AIIB」を設立するように迫ったというのが実態だとしている。

さらにオバマ政権は、アメリカは表向きには参加しないものの、ロンドンのシティを通して設立に必要な資金を中国に提供し、「AIIB」の設立に資金面から現実的に関わったとしている。

いまではアメリカ政府のこうした直接的な支援ではなく、「世界銀行」が窓口となり「AIIB」を資金面からバックアップしているという。

中国とアメリカは対立関係にはまったくない

日本では、政府をはじめ国民も、「AIIB」や「一帯一路」構想、そして南シナ海の進出など、中国が主導している活動をアメリカは押さえ込み、中国をアメリカ主導の既存の国際秩序の枠組みに埋め込むことを目標にしていると強く信じられている。

この方針に積極的に協力し、日本、アメリカ、オーストラリア、インドなどの同盟国が連帯し中国を封じ込める「安全保障のダイアモンド構想」を機軸にしているのが現在の安倍政権だ。

これはまさに、アメリカと中国が覇権を巡って鋭く対立しているとする見方である。

このような対立の図式が深く信じられている日本では、「AIIB」や「一帯一路」構想がむしろアメリカからの提案にしたがって出てきたものであるという事実は、おそらく安倍政権の外交政策を揺さぶるくらいの衝撃となるに違いない。南シナ海における米中の対立の状況を見ると、これは信じられないとの拒否反応を抱く人もいるのではないだろうか?

しかし、こうした複数の専門的な研究所やシンクタンクの記事やレポートが明確に述べていることは、アメリカと中国は敵対関係にあるどころか、いち早くアメリカは中国との覇権を分け合う決定をしており、政治的・経済的覇権の棲み分けによる協力関係の形成を水面下で加速させているという事実だ。

協調関係を公にできないアメリカ

またこうした記事では、中国との覇権を分け合う決定をし、すでに中国とは協調関係にあることをアメリカは公にすることは到底できないとしている。

その理由は、中国との深刻な対立を抱える同盟国が存在するからだ。中国との対立は、日本、フィリピン、マレーシアなどのアジアの同盟国がアメリカとの関係を強化するための前提条件として機能している。

そのようなとき、もしアメリカがアジアにおける中国の一部覇権を容認するような姿勢を明確にしてしまうと、こうした同盟国はアメリカから離反し、それがアメリカの国益を損ねる可能性が出てくる。

したがってアメリカはいまのところ、「中国の一部覇権容認」を公にすることはできないというわけだ。

Next: 日本の手前、中国との“対立関係”を演出しているアメリカ



日本の手前、中国との“対立関係”を演出しているアメリカ

アメリカのこの原則がもっともよく当てはまる国は日本だとされている。

特に現在の安倍政権は、中国を仮想敵国と想定し、中国脅威論を煽ることで国内のナショナリズムを鼓舞している。この愛国主義的な雰囲気をうまく利用して支持率を上げ、憲法改正で可能になる戦前型の国家体制を実現させようとしているのがいまの安倍政権だ。

この方向性を追求するためには、アメリカとの同盟関係を強化して中国を封じ込めるという対立図式は不可欠になる。

これは、アメリカにとっても間違いなく好都合な図式だ。安倍政権が中国との対立を喧伝し、アメリカとの同盟関係を強化する方向にあるとき、安倍政権はアメリカの希望のほとんどを丸呑みし、実現してくれる。

明らかに主権国家の権限に制限を加えるTPPの加盟や、ジャパンハンドラーのジョセフ・ナイとリチャード・アーミテージが2012年の報告書で要求していた「秘密保護法」や「集団的自衛権」の可決は、中国脅威論が存在し、アメリカとの同盟関係の強化が図られていたからこそ可能になった。

これらの処置を通して、日本の自衛隊は後方支援部隊としてアメリカ軍に組み込まれ、世界の紛争地域への展開が可能な体制が構築されている。予算削減のため展開できる兵力の縮小を余儀無くされているアメリカにとって、これは大変なメリットである。

したがってもし、アメリカが中国の覇権容認を公にしてしまうと、中国の脅威に対抗するためにアメリカとの同盟関係に依存するという図式は成り立たなくなり、日本はアメリカから自立した独自の外交政策を追求せざるを得なくなる。おそらく日本は、中国とのバランスを取るためにロシアとの関係強化を模索する可能性が高い。

これは、ロシアの進出を本格的な脅威として認識しているアメリカにとってはあってはならないことだ。

このような状況のため、アメリカは特に日本の手前、中国との敵対関係を演出せざるを得ない状況にある。

緊張感のまったくない南シナ海の状況

アメリカが中国と実際には敵対していないことは、いま大きな問題になっている南シナ海の状況を見るとよく分かる。

周知のように、10月27日、アメリカはイージス艦の「ラッセン」を派遣し、中国が領有権を主張している人工島の12カイリ内を航行させた。日本ではこれは、アメリカが中国の領有権の主張をくじき、公海における自由航行権の違反は許されないことを中国にはっきりと主張した明白な行動だと報道されている。

だがアメリカによる「ラッセン」の派遣は、中国による人工島の施設建設が完成が近づいてから実施された遅きに失した行動であり、なおかつベトナムとマレーシアが領有権を主張する島々の12カイリをも通過して、こうした国々にも注意を促すというかなり穏健なものであった。

もしアメリカが、南シナ海における中国の海洋進出を本気で阻止するのであれば、攻撃力のない「イージス艦」ではなく、攻撃能力のある空母部隊を派遣していたことであろう。少なくとも多くのシンクタンク系の記事はそのように指摘している。

しかし実際にはアメリカは、中国と対立関係になる意志がまったくないことを示す事実のほうが多い。11月7日には、アメリカと中国の海軍は、米フロリダ州沖の大西洋で合同演習を実施している。この演習には、アメリカを友好訪問した中国海軍のサイル駆逐艦や補給艦などが参加した。アメリカ海軍では、ミサイル駆逐艦や巡洋艦が参加している。合同演習の目的は、海上での通信、編隊航行、救難などの訓練の実施であった。

さらに、中国軍部は、各国の国防相や軍高官を招いた多国間の安全保障対話「香山フォーラム」を北京で行っている。中国の常万全国防相は、このフォーラムに参加するベトナムやフィリピンなど東南アジア諸国連合(ASEAN)の国防相らと非公式会談を開き、2016年に南シナ海で衝突回避の訓練と海難救助の合同演習を提案した。

アメリカ、イギリス、ドイツ、日本など14カ国の政府関係者ら計約500人が参加している。アメリカも参加していることから、このフォーラムはアメリカ政府の容認で開催されていることは間違いない。

これは明らかに中国情勢を巡る緊張が緩和されていることを表している。さらにこの動きには、オーストラリアも関与している。オーストラリア政府は、オーストラリア海軍のフリゲート艦2隻を中国広東省湛江の基地に派遣し、中国海軍との合同演習に参加させている。

Next: 「AIIB」設立の見返りとしての南シナ海。安倍政権は嵌められたのか?



「AIIB」設立の見返りとしての南シナ海

このように見ると、アメリカと中国をはじめ多くの関係国は、緊張緩和に向けた動きを加速させ、むしろ中国との協調関係の形成に向かっているようだ。中国との対立と緊張が高まる方向ではない。

ところで、欧米でも報じられない事実の報道で定評のあるのがロシアのシンクタンクである。特にロシアの政府系シンクタンク『ロシア戦略研究所』のような機関からは、驚くような内容の情報が手に入る。今回、そのような政府系シンクタンクの記事として、南シナ海の動きと「AIIB」の設立が実はリンクしていることを示唆したものが複数ある。

これらの記事によると、オバマ政権は中国に「AIIB」の設立を提案し、中国がそれを引き受ける見返りとして、南シナ海における中国の行動の自由を保証した可能性が高いというのだ。

これはアメリカが、南シナ海におけるシーレーンを中国のコントロール下におくことを容認したということだ。

もちろん、日本のようなアメリカの同盟国が中国脅威論を採用し、中国と緊張関係にあることがアメリカの国益になる状況が存在する限り、オバマ政権がこの事実を公表することは絶対にない。

アメリカは中国の同意を得た上で、南シナ海における見かけ上の緊張関係を演出することだろう。

現実性のない構想~安倍政権は嵌められたのか

さて、もしこのような状況が事実だとするなら、日本の安倍政権の現状認識は根本から間違っていることになる。

何度も書いたように、安倍政権の基本的な外交政策になっているのは、仮想敵国である中国の脅威論、ならびにこの脅威に対処するために、中国を日本とアメリカ、オーストラリア、インドなどの同盟国で封じ込める「安全保障のダイアモンド」構想である。

だが、もしアメリカが中国の一部覇権を容認し、南シナ海の南沙諸島の管理権を中国に本当に委ねたとしたのなら、この構想はまったく現実性のないものになることは間違いない。反対に、こうした新しい情勢に適応するためには、中国脅威論とそれに基づく中国封じ込め構想をいち早く破棄し、中国との協調関係の構築へとシフトすることが迫られるはずだ。

中国との合同演習を実施しているアメリカやオーストラリア、そして南沙諸島の中国の進出に対して抑制的に対応したASEAN諸国などを見ると、すでにこの新しい現実を受け入れているかのような印象を抱かせる。

だが、安倍政権下の日本は、このような現実的な対応をすることはできないと見た方がよい。なぜなら安倍政権は、中国の脅威を最大限に煽ることで国内のナショナリズムを鼓舞し、それを支持の基盤にしている政権だからだ。

このナショナリズムの高まりを利用して憲法を改正し、戦後の平和国家の枠組みを破棄して戦前型の天皇制国家を復権させることが安倍政権の最終的な狙いである。

そのような安倍政権なので、新しい状況に適応するために、中国脅威論を引っ込めることはまずできないはずだ。それは、政権の支持を固め、戦前型国家の復興という目標を実現するためのツールであるナショナリズムを実質的に放棄することになる。

ということは、情勢がどのように変化しようとも、安倍政権は中国脅威論を強く主張し、そうしたイメージを国内で広く喧伝し続けるはずだ。

Next: 幻想に閉じこもる安倍政権と日本国民。最も危険なのは――



幻想に閉じこもる安倍政権と日本国民

もし安倍政権がこうしたイメージを自ら信じ込み、これに基づき政策の判断を行うようになると、大変に危険な状態になる。これは戦前と同じようなメンタリティーではないだろうか?

1941年12月、アメリカのGDPが日本の20倍であるにもかかわらず、日本は真珠湾攻撃を行った。これは、アメリカに大きな一撃を与えるとアメリカが戦意をなくすので、きっと有利な終戦の講和に持ち込めるはずだという、何の根拠もない希望的な観測に基づいていたことはよく知られている。

実際はこのまったく反対であった。真珠湾攻撃は、「日本をたたきつぶす!」というアメリカ国民の強い戦意を刺激した結果になった。

これは、とてつもない判断ミスである。このようなミスが犯された原因は、判断が客観的な現状認識ではなく、希望的な観測といういわば自らが作り出した幻想に基づいていたことにある。

自分が信じ込みたい都合のよい現実を最優先し、これに合わない客観的な事実をあえて無視するというメンタリティーだ。

いま憲法改正や秘密保護法など安倍政権の戦前回帰的な方向性が問題にされているが、実はもっとも危険なのは、都合のよい現実に閉じこもり、客観的な事実を無視するというメンタリティーではないだろうか。

そして安倍政権は、彼らにとって都合のよい現実認識を国民が共有するようにマスメディアに介入し、事実とは異なった報道をするように誘導している。

これは大変に危険な方向だ。将来、とてつもないミスを犯す危険性があると言わねばならない。これがどういうことなのか、次回にはさらに突っ込んで書くことにする。

【関連】“天命”を担う安倍首相。「日本会議」の隠されたアジェンダと解釈改憲

未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』(2015年11月13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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