テロリストは非道極まりない凶行で罪のない人々を傷つけます。しかし彼らは悪魔そのものではなく生身の人間。地政学者で軍事問題に詳しい奥山真司氏は、ISが24時間対応のテロリスト用ヘルプデスクを運用する事実を挙げ、対テロ戦略は、彼らもまた弱さを持った人間であるという「当たり前の想定」に立脚すべきだとします。(『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』)
戦略上最も重要な冷静さを失わせる「過剰な悪魔化」
「テロリスト用の24時間ヘルプデスク」が意味するもの
中東ではロシアが旅客機をテロで墜落させられたり、ベイルートやフランスではISが関連したとされる連続テロ事件が起こるなど、世界が激変しております。
それを受けて今回はISについて書いてみたいと思うのですが、すでに日本でもとりわけパリの事件についてはワイドショーなどでも大々的に取り上げられておりますので、詳しい事実関係についてはここで触れません。
それよりも私が気になったは、「ISが年中無休の24時間対応のテロリスト様ご相談窓口を持っている」というニュースです。
このニュースを私はツイッター( @masatheman )で流したのですが、「俺の会社よりも親切だ」とか「うちの行政よりもサービスが充実している」という、ISを褒めているのかよくわからない微妙なコメントをいくつかいただきました(笑)
「テロリストも人間である」という認識の再発見
私がこのニュースを見て感じたのは、クラウゼヴィッツ主義者の仲間の中で学んだおかげで気づくことができた、以下の2つのポイントです。
1つ目は、ISのテロリストも人間であるということ。
「当たり前じゃないか」というご意見はもっともなのですが、この手のテロ事件が起こると、メディアを騒がせることになるのは、たとえばNYタイムズの外交コラムニストやアン・コールターという保守系の識者のような、敵を悪魔化した、感情的かつ扇動的な意見です。
こうなると相手は「人間」ではなくなり、まるで映画『ターミネーター』に出てくるスカイネットやターミネーターのような顔の見えない存在となってしまうため、これを読んだ人間たちは、冷静にものごとを考えることができなくなってしまいます。
そうなると以前のブログのエントリー( ISISに「悪」というレッテル貼りはやめておけ – 地政学を英国で学んだ )のように、我々は相手を冷静に判断する手段を失ってしまいます。
これは戦略で最も重要な「冷静さ」を、我々から失わせることにもつながります。
Next: テロリストも所詮は「人の子」――対テロ戦略立案の盲点とは?
無料メルマガ好評配信中
日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信
[無料 週刊、不定期]
国際情勢の中で、日本のとるべき方向性を考えます。情報・戦略の観点から、また、リアリズムの視点から、日本の真の独立のためのヒントとなる情報を発信してゆきます。
テロリストも所詮は「人の子」不安を抱えている
2つ目は、ISのテロリストたちも必死であるということ。
「自爆テロするんだから当たり前だろ」という突っ込みはごもっともなのですが、彼らも所詮は「人の子」なのですから、いざ実行するまでにアジトがバレて警察に踏み込まれたり、現場で自爆する前に射殺されるなどして、自分の命を無駄にすることは我慢できないわけです。
つまり彼らも「命をかけている」わけですから、とっても不安。
だからこそ冒頭で紹介したような「ご相談窓口」への需要が出てくるのであり、本部のIS側もそれに応えようとして(CIAやNSAにバレる危険をおかしながら)爆弾の作り方を教えたり、他のイスラム教徒をISの教義に共感させて巻き込むような扇動の仕方を、わざわざオンラインで親切丁寧に教えてあげたりするわけです。
クラウゼヴィッツは戦争を「決闘である」と表現しております。
そしてここで重要なのは、テロによって「決闘」を申し込んできたISというテロリストたちも、我々と同じように不安を抱えながら犯行を実行する、弱さをもった人間であるということです。
テロリストたちはたしかに悪魔的な行為をしております。ただし彼らも我々と同じ「摩擦」(フリクション)に取り囲まれた人間です。
スーパーマンでも悪魔でもないのです。
そしてその違いは、戦略の階層の最上階に位置する「世界観」にあるのです。
彼らが人間であるという当たり前の想定……戦略を考える際に、我々はこの単純な事実を決して忘れてはなりません。
『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』(2015年11月21日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
無料メルマガ好評配信中
日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信
[無料 週刊、不定期]
国際情勢の中で、日本のとるべき方向性を考えます。情報・戦略の観点から、また、リアリズムの視点から、日本の真の独立のためのヒントとなる情報を発信してゆきます。