子どものいない夫婦であっても、どちらかが死亡した場合の相続が残された配偶者だけとは限りません。今回は、このケースでの注意点について解説させて頂きます。(『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』小櫃麻衣)
子なし夫婦でも、配偶者以外に相続が発生する可能性がある
もっとも順位の高い相続人のみが相続権を獲得する
結婚はしているものの、子どもはいないという夫婦も珍しくはありませんよね。
そして将来、このような子どもがいない夫婦のどちらかが死亡すると、残された配偶者に全財産を相続する権利が発生しそうと思っている方がかなり多いのですが、そうはいかない可能性が高いのです。
どういうことなのでしょうか。
さて相続が発生すると、死亡した方の遺産を継承する人、つまり法定相続人となる方を確定させなければなりません。
常に相続人となれるのは配偶者、第1順位の相続人は子ども、第2順位の相続人は両親、第3順位の相続人は兄弟姉妹となります。
ここで気を付けなければならないのは、第1順位から第3順位までの順位のついている相続人がいるケース。第1順位・第2順位・第3順位の相続人が全員揃っていたとしても、全員に相続権は発生しません。
最も順位の高い相続人のみが相続権を獲得するのです。
つまり、死亡した方の子ども・両親・兄弟姉妹がいたとしても、相続権を獲得するのは子どものみで、両親・兄弟姉妹には相続権が発生しないということです。
ただし、死亡した方が遺言書を残しており、両親や兄弟姉妹に一定の財産を相続させたいと書いていれば、相続人全員に加えて受遺者である両親や兄弟姉妹が反対しない限り、その遺言書通りに遺産分割を進めていくことになります。
子どもがいなくても配偶者が全財産を相続できない
さらに、配偶者は常に相続人となれるわけですが、配偶者の他に順位のついている相続人もいる場合には、配偶者と最も順位の高い相続人がセットで相続人となります。
つまり、順位のついている相続人がいなければ配偶者のみが、順位のついている相続人がいれば、配偶者と最も順位の高い相続人がセットで相続人となるということですね。
ここまで説明すると、子どもがいない夫婦であっても、配偶者が全財産を相続出来ない可能性があるという仕組みがお分かり頂けたのではないでしょうか。
第1順位の相続人である子どもがいなくても、第2順位の相続人である両親、もしくは第3順位の相続人である兄弟姉妹が健在であれば、配偶者とその相続人がセットで相続人となる可能性が高いのです。
ちなみに、配偶者と両親が相続人となる場合の法定相続分は、配偶者が2/3、両親が1/3、配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合の法定相続分は、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4となります。
不慮の事故などで早くして亡くなる方もいらっしゃりますので一概には言えませんが、子どものいない夫婦の間で発生する相続では、配偶者と兄弟姉妹がセットで相続人となる可能性が高いのです。
しかし、中にはこのようなことを考える方もいらっしゃるでしょう。
自分に兄弟姉妹がいれば、残された配偶者とその兄弟姉妹がセットで相続人となるというのは分かったけど、自分は末っ子で上の兄弟姉妹とも年齢が離れているから自分にもしものことがあったとしても、すでに兄弟姉妹の方が先に死亡していると思うから、残された配偶者に全財産を相続させることができるのでは?ということ。
しかし、自分の兄弟姉妹がすでに死亡しているからといって、残された配偶者に全財産を相続させることができると考えるのはまだ早いです。
順位のついている相続人がいなければ、配偶者のみが相続人となれるという原則を考えれば、ちょっと不思議に思うかもしれませんね。
Next: 兄弟姉妹が死亡していても配偶者だけに相続させられないのはなぜ?
相続人の相続分は、子どもや孫に移行する
相続では、本来相続人となるべき方がすでに死亡、もしくは相続欠格や相続廃除が認められていると、その相続人の相続分が直系卑属である子どもや孫に移行します。
例えば、相続人が死亡した方の子ども3名だとすると、子ども一人当たりの法定相続分は1/3となりますね。
3名の子どものうち一人が死亡していると、1/3の相続分が死亡した子どものそのまた子ども、つまり死亡したからみた孫に移行するということです。
仮に孫が3名いたとすると、1/3÷3名分=1/9が孫一人当たりの法定相続分となるというわけです。
前置きが長くなりましたが、このような仕組みを代襲相続と呼びます。
つまり、死亡した方の兄弟姉妹が死亡していたとしても、兄弟姉妹に子どもがいる場合には、その子ども、つまり死亡した方からみた甥・姪に相続権が移行するのです。
そうなると、配偶者と甥・姪がセットで相続人となる可能性もあるということになりますね。
しかし、家族関係が希薄化してきている現代。兄弟姉妹とは何年も会っていないという方も多いのではないでしょうか。それでもやはり、相続権の認められる兄弟姉妹、もしくは甥・姪に相続させなければならないのでしょうか。
結論から言うと、配偶者に全財産を相続させる方法は存在します。
それは遺言書を残しておくこと。
配偶者と兄弟姉妹が相続人になるとトラブルに発展しやすい
しかし遺言書に“配偶者に全財産を相続させる”残しておいたとしても、兄弟姉妹や甥・姪から遺留分減殺請求を受けてしまうんじゃないの!とお思いのあなた。
遺留分の認められている相続人を覚えているでしょうか。
遺留分の認められる相続人は、配偶者・子ども・両親・代襲相続の孫のみ。
つまり、兄弟姉妹や甥・姪には遺留分が認められていないのです。
従って、遺留分減殺請求を行うことはできないのです。
相続では、遺言書に示されている遺産分割方法は、民法で規定されている法定相続分に優先するという原則があります。
ということは、遺言書に“配偶者に全財産を相続させる”と書いてあったとしても、兄弟姉妹や甥・姪が遺留分減殺請求によって遺留分を取り戻す手続きを行うことはできないのです。
逆を言えば、遺言書を残しておかなければ兄弟姉妹や甥・姪に一定額の財産を相続させなければならないということになります。
ご自身に子どもがおらず、配偶者に全財産を相続させたいと思っているのであれば、早急に遺言書を準備しておくようにしましょう。
配偶者と兄弟姉妹、もしくは甥・姪が相続人となるケースでは、トラブルが付きものです。
配偶者からしてみれば、何十年にわたって夫婦で協力して財産を築き上げてきたとの考えが、兄弟姉妹からしてみれば、血縁を重視すべきだとの考えがあります。
両者の考えの違いからトラブルに発展しやすいと言われているのです。
残された配偶者は、血縁のない死亡した配偶者の親族と相続を進めなければなりませんので、大変な思いをすることになるでしょう。
遺産分割協議ではそれぞれの意見が絡んできますので、スムーズに手続きを執り行えるようにするためにも、遺言書は必ず準備しておきましょう。
『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』(2019年3月11日・13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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