「地価は永遠に上がり続ける」という神話は事実ではないのだが、日本人は無意識にそう考える層が今も残っている。しかし、今後は「空き家問題」や「スラムマンション」が増えることによって、土地に対する神話は完全に粉砕される。この問題は今後の日本を蝕んでいく。(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』鈴木傾城)
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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
なぜ土地神話を捨てない?「地方が駄目でも都市部は大丈夫」の嘘
レオパレス21にまんまと騙された人々
「レオパレス21」という企業が作る建物は、超絶的な手抜きであるというのは、そこに住んでいる人たちが常々報告していたことだ。天井裏にまったく界壁がなく、住民は天井からどこの部屋にも行き来できた。さらに火事にでもなると、あっという間に火が回る。明白なる建築基準法違反である。
他にも「壁が薄い、傾いている、塗装が雑」等々のあらゆる「手抜き施工」が指摘されていた。
その施工不良は「分かっているだけ」でも実に1324棟だ。これが発覚してからレオパレス21はそこに住む人々1万4,000人に転居を促したのだが、被害に遭っているのは住民たちだけではない。オーナーもまた甚大なダメージを受ける。
レオパレスのオーナーたちは「家賃を30年にわたって保証する」と言われて借金をしてアパートやマンションを建てているのだが、入居者が出ていって悪評で新しい人が入ってこない状況の中でレオパレス自体も莫大な負債で家賃保証ができなくなると、もはや首が締まったも同然となる。
信用を失い、株主にも見捨てられ、莫大な損失を計上し、身動きができなくなったレオパレス21は企業体として存続できるかどうかの瀬戸際にある。この会社が吹き飛ぶと、オーナーもまた一緒に死ぬ。オーナーも同時破綻すると、取引先も銀行も大ダメージを受ける。
日本人が捨てきれない「マイホーム」の夢
それにしても、建築には厳しい施工法が設けられ、数多くの専門家がチェックする体制になっているのにも関わらず、あからさまな不良建築が1324棟も建てられたことは衝撃的でもある。
レオパレス21は土地持ちの高齢者をそそのかして建物を建てさせ、高齢者は不動産で安易に儲かると考えてそれに乗り、日本中に安普請の建物をばらまくことで事業が成り立っていた。
これは、少子高齢化で大都市以外の土地がどんどん無価値になっていく状況の中でも、まだ「土地神話」「不動産神話」が残っていることを意味している。
不動産神話は1990年代のバブル崩壊と共に吹き飛んだ。少子高齢化も解決することができないまま放置され、もはや「地価の上昇で資産価値が無限に増える」という時代が終わっている。
時代は明らかに「土地が無価値になる方向」になっているのだ。地方を見てみればいい。若年層の流出と高齢化によるダブルパンチで、過疎化が急激に進み、行政は破綻寸前と化し、土地はどんどん無価値に向かって収斂しているではないか。
にも関わらず、日本人の心理状態はそう簡単に変わらない。今でも日本人は「土地を持ちたい」「マイホームが欲しい」と考える層が莫大にいることでもそれが裏付けられる。
日本人は株式にはほとんど関心を持たないが、不動産には大きな関心を持つ。そこに大きな所有欲と名誉欲が絡んでいる。もはや、それは理屈ではない。盲信なのである。
私の身近にいた人は、やはりバブルで巨額の損失を被って何年も自転車操業で苦しみ、最後には事業をつぶし、車も売り払ったのだが、彼の心理に最も大きなダメージを与えたのは「家を手放したこと」だった。
彼にとって家は、自分の成功の象徴であり、所有欲の頂点にあったものであり、それを保有していることの満足感が彼のアイデンティティにもなっていた。たかが「家」なのだが、それを失うというのは彼を悲嘆させ続けた。