ほにゃららPayの乱立でようやくキャッシュレス化が浸透してきました。しかしまだまだ日本人は現金派が多いようです。それはなぜか。キャッシュレス化のリスクと合わせて解説します。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)
※本記事は。『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2019年4月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
男女で大きな差。現金派が多いのは日本の良さが裏目に出ている?
キャッシュレスには3つのメリットがある
キャッシュレスが注目を集めています。
キャッシュレスとは、現金を使わないで物品を購入したり、サービスを受けたりする取り引きのこと。具体的には、クレジットカード、電子マネー、デビットカード、プリペイドカード、QRコードなどを使って行なう決済をいいます。
それにしても、今、なぜキャッシュレスが脚光を浴びていて、キャッシュレスのどこがよいのでしょうか。まず、そのメリットについて考えてみましょう。
日本政府は、3つのメリットを提唱しています。
- インバウンド消費拡大による経済活発化
- 官民の現金ハンドリングコストを減らすため
- お金の流れを補足するため
というものです。
東京オリンピックの整備と脱税防止が中心
それぞれを紹介しましょう。
<1. インバウンド消費拡大による経済活発化>
東京五輪を見据えた動きです。欧米からの訪日客が使うカードは日本の規格では利用できないため、受取端末を新たに設置する必要があります。2019年からその動きを加速させるといっています。
<2. 官民の現金ハンドリングコストを減らす>
官は、貨幣の製造コストを年間で約517億円かけています。民間についてはATMのメンテナンス費が年間2兆円かかっています。これらの経費を減らしたいというものです。
<3. お金の流れを補足する>
小売店の売り上げを把握して徴税を徹底するのが目的です。売り上げをガラス張りにして脱税を防ぎます。
キャッシュレスで出遅れたニッポン
しかし、この日本のキャッシュレス化は世界的に見れば、かなり遅れているのは確かです。
あるデータによると、キャッシュレス比率は、日本は20%、中国は60%、韓国は90%といった具合で、先進国の中でも日本は格段に遅れています。
こうした状況の中で日本政府は一刻も早く先進国に追いつこうとして、キャッシュレス・ビジョンを打ち出し、2025年までにキャッシュレス比率を40%まで引き上げるという目標を掲げています。
それにしても、なぜ日本はこんなにキャッシュレス比率が遅れているのでしょうか。なぜ現金にこだわるのでしょうか。
Next: 日本人の長所が裏目に?なぜ現金にこだわるのか
なぜ日本人は現金にこだわるのか?
実際、日本は世界的に見ても現金を尊重する国です。
よく聞くのは、日本には偽札が少ないからキャッシュレスに向かう必要がないと言う意見です。反対に中国は偽札が横行しているので、それを避けるために庶民がキャッシュレスに飛びついたと言われています。
また、日本の紙幣は芸術的であって、それを集めてタンス預金にしておくと非常に満足するので、皆が現金から離れないというのです。
その結果、キャッシュレス化が他の国に比べるとかなり遅れることになったといいます。
日本の良さが足を引っ張る、借金嫌いの体質が遺伝する
さらに、日本人は借金嫌いと言われています。
特にクレジットカードに代表される後払い、ツケに対する警戒心は非常に強い。これは貨幣経済が発達した明治期から顕著になったといわれたりしますが、今も母親たちが子どもにクレジットカードは使うなと言っているためか、「カードは持たないし、使いません」という若い人をよく見かけます。
クレジットカードは借金だから使うなという言い伝えが世代を超えて伝わっていて、そのためになかなかキャッシュレス化が進まないのです。
借金という障害を下げるには何をすればいいか
こうした根強い障害を取り除いて、キャッシュレスを進めるためにはどうすればよいでしょう。
それには借金という概念を低下させることが必要です。一番良いのはクレジットカードを使わず、似たような機能を持つデビットカードに変えていくことです。
プリペイド型の電子マネーでも良いのですが、後払いによる借金感覚から開放されるので、他のキャッシュレス道具を安心して使えるようになります。
それに加えてスマホとうまく連動させれば残高が見える化され、さらに不安なく使うことができるでしょう。こうした声を強くアピールすることでキャッシュレス化は進むと思っています。
Next: 男女で大きな差。キャッシュレスを嫌う理由は?
キャッシュレスへの対応で男女差が顕著
キャッシュレスの好き嫌いについて、一般の人を対象に博報堂生活総合研究所が行った調査(2017年11月)を紹介しましょう。
なんと男性では、約半数(49%)がキャッシュレスは積極的に推進すべしとの意見でした。それに対して、女性の半数(51%) が、キャッシュレスに反対なので導入しなくて良いという意見でした(※編注:本稿初出時のデータより。同研究所の追加情報によると、男性は賛成派58.7%、女性は反対派61.5%が正しい集計結果となっています)。
※参考:https://seikatsusoken.jp/report/12063/
男女で正反対の意見が半数を占めたのは興味深いものがありましたが、調査実施時期が2017年11月とかなり前であり、キャッシュレスという言葉さえまだ一般化していない時でしたので、その点は差し引いて考える必要があるでしょう。現在は同じ調査をすると、男性はさらに推進の割合が上がり、女性は反対の割合がかなり減るのではないでしょうか。
消費増税でキャッシュレス決済の場合には5%のポイント還元が行われる予定ですが、その政策が主婦層に大きな影響を与え、キャッシュレス推進派を増やすのではないかとみています。
キャッシュレスを嫌う理由は何か?
調査の中の「キャッシュレス社会に反対する理由のベスト5」を挙げてみると、1位 「浪費しそう」であり、2位「お金の感覚が麻痺しそう」となっています。
第1位の「浪費しそう」は、「使った感覚がない売買は湯水のようにお金を使いそうだから怖い」(女性35才・埼玉県)というのが代表的な考えです。また、第2位の「お金の感覚が麻痺しそう」は「考えなしに買ってしまいそう。現金払いなら減るのを実感でき、考えて買い物ができる」(女性60歳・静岡県)というもので、どちらも家計を預かる女性ならではの率直な意見と言えるでしょう。
オートチャージでキャッシュレス化のリスクに気づく
筆者は、10年以上前からキャッシュレスを実践してきました。最近はビューカードからSuicaへの入金をオートチャージでするようになって、いよいよキャッシュレスを使いこなすという感覚が強くなってきています。
それにつれて、1位「浪費しそう」、2位「お金の感覚が麻痺しそう」という感覚が強くなってくるのも確かです。
オートチャージの設定にしておくと、残高が1,000円を下回ると自動的に3,000円が入金される仕掛けなので、電子マネーで支払っているという自覚がなくなり、それが浪費につながっているとだんだん実感するようになってきました。
ただそれも5年ぐらい経って初めて実感できるもので、はじめの頃はオートチャージの便利さしか認識できませんでした。
その意味で、「キャッシュレスは危ないから拒否するように」と早くから説得するのは難しいのではないでしょうか。かなり経験を経た後で、ずしんと腑に落ちるものですから。
Next: キャッシュレス社会の怖さとは?
災害や停電に備えて、若干の現金は手元に残す
このほかにもキャッシュレス決済のリスクはいろいろあります。
先日北海道で起きた地震で、全道が停電するといった障害が出ました。この時には北海道のコンビニで電子マネーやクレジットカードが使えなくなって、キャッシュレス社会の弱みを露呈することになりました。
こうした致命的な欠点を補うためにはどうするかと言えば、やはり避難袋の中に常に現金をいくらか入れておくことでしょう。
1,000円とか2,000円ではすぐに足りなくなるので、節約すれば1週間過ごせるぐらいの2万円〜3万円は入れておいた方が良いといえるでしょう。
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『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』(2019年4月1日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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世の中すっかりカード社会になりましたが、知っているようで知らないのがクレジットカードの世界。とくにゴールドカードやプラチナカードなどの情報はベールに包まれたままですから、なかなかリーチできません。また、最近は電子マネーや共通ポイントも勢いがあり、それらが複雑に絡み合いますから、こちらの知識も必要になってきました。私は30年にわたってクレジットカードの動向をウォッチしてきました。その体験と知識を総動員して、このメルマガで読者の疑問、質問に答えていこうと思います。ポイントの三重取り、プラチナカード入会の近道、いま一番旬のカードを教えて、などカードに関する疑問にできるだけお答えします。