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村上世彰氏の強制調査に想う~付論:加藤暠氏・堀江貴文氏・江副浩正氏=山崎和邦

投資歴54年の山崎和邦氏が思い出の投機家や重大事件を振り返る本連載、今回のテーマは「村上世彰氏の強制調査」についてです。山崎氏は「村上氏を擁護するわけではないが、証券取引等監視委員会や検察のやることの半ばは、正義の仮面を付けた罠であると筆者はつとに思っている」と言います。

村上世彰氏「強制調査」は東芝問題から目をそらせる意図か?

村上氏はかつてインサイダー取引の発覚により逮捕された身である。保釈後シンガポールに移住したが現在は六本木ヒルズの住人、ゆえに強制調査もやりやすい。

いまこの時期に、かつて世間を騒がせた人物の関係先に強制捜査に入り、テレビカメラにまで知らせて放映させるのは、東芝から目をそらせる姑息な手段ではないかと筆者は“ゲスの勘繰り”で思っている。

東芝は三井系の名門企業で総理大臣をも恐れさせた経団連の名会長・石坂泰三を輩出した。また、中曽根内閣と協力して国有鉄道の民営化に力を発揮し、行政改革にも取り組んだ経団連の大会長・土光敏男氏も輩出している。第一、現在も郵政の社長で東京証券取引所の前々社長だった西室さんを出した名門企業だ。

そんな東芝の「組織ぐるみの大粉飾」を、誰もそうとは言わず単に「不適切決算」と言う。株価が日立の半値以下になったことはココム協定違反の時を含めて過去50年で3回しかなくて、今が3回目だ。

決して村上氏に肩入れするわけではないが、証券取引等監視委員会や検察のやることの半ばは、正義の仮面を付けた罠であると筆者はつとに思っている。今回は相場操縦という「悪行」に、世論の矛先を持っていきたかったのだ。

カラ売りで儲けることは決して違法行為ではない。村上氏の場合は「終値関与」と言われる相場操縦の疑いである。

彼は、引け間際に大量に売って投資家を慌てさせて投げさせ、あるいは引け間際に大悪材料が出たと思わせてカラ売りまで誘導して大幅安を起こさせて、カラ売りしておいた自分の玉を安値で買い決済して儲ける、というやり方で「相場操縦」を意図的に仕組んだという。

相場操縦は犯罪であるが、では、終値で売って悪いのか、という理屈になる。検察は立件するのは難しいだろうと思う。大引けを売って安くさせるということは、かのロスチャイルド家もよくやったそうだ。

日本の現行税法では、上場株式の相続税は、死亡した日の終値か、死亡前月の平均株価か、死亡前々月の平均株価か、の3ケースのうちの最安の株価をもって課税対象とする。

ロスチャイルド家は当主が死の床に居る時、その日の終値を安くすべく、持ち株を大引け間際にどんどん売った。そして相続課税対象価格を下げておいてから、安値を買い直した。有名な話である。当主が臨終だという最中に、証券会社に持ち株の売りを指示するのだ。ここがユダヤの血の冠たるところであろう。ロスチャイルド家の当主が死亡寸前だという話が流れると、ロスチャイルド家が大株主になっている銘柄はカラ売りの対象になった、という話まである。

一説によると(海外通の読者から聞いた)、村上氏にはインド人と中国人の血が入っているという。シルクロードと喜望峰回りの航路で、宝石や胡椒で大儲けした商業の民インド人、中国ユダヤと言われ華僑と呼ばれるカネと商業の民であった殷の国の末裔のDNAを引く中国人、この両者の血が入っているというのはさもあらんと思う。

ところで、彼のお嬢さんの写真を見ると円らな眼をした美形で、インド女性の面影を見るような気がする。ミスユニバースに選ばれる女性は、概ねはインド人の血が入っている場合が多いと、これは筆者がインドに行ってみた時に聞いた話だ。

村上ファンドは元来が「アクティビティ(アクティビスト)ファンド」と呼ばれるもので、「もの言う株主」の大手だと思えば概ね近い。ワルモンではない。無論、犯罪ではない。内部留保ばかりして、株主に報いない企業を大量に買って大株主となって、「株主に報いよ」と迫ることを趣旨とする。英国の「ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド」などが著名である。

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山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

村上氏と、加藤暠氏、是川銀蔵氏、堀江貴文氏を比べてみれば

村上氏への強制調査は、加藤暠(あきら)氏の逮捕とはまた別の性質のものである。

「最後の大仕手」として知られた加藤暠氏が金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。これは仕手として意図的・計画的に仕掛けた仕事だから、村上氏と質は違う。

加藤暠氏は1980年代に仕手筋集団「誠備グループ」を率いて「兜町の風雲児」と呼ばれた仕手の総帥だった。逮捕されて事件のミソギが済んだ後、 2003年、株式研究の会「泰山」を立ち上げ、業界に本格復帰し、現在も同氏が手掛ける銘柄は「K筋」「K銘柄」などと呼ばれ、投資・投機の本筋から外れたところに居る小ガネ持ちが市場で集結し、その稼働資金は一説には500億円と言う。

彼は実刑を受けて投獄中も仕手仲間の氏名を一切明かさなかったということで英雄視され、出獄後に仕手組織を作った。特定の一銘柄に仕手株好きの連中の注目を集めさせ(今はネットでできる)、そこへ買い注文を集結させ意図的に相場操縦する。これは違法行為である。

加藤暠氏は、「昭和最後の相場師」として月刊プレジデント誌の表紙にもなった是川銀蔵氏とも全く違う。

是川氏は住友鉱山(兜町では住友発祥の地・別子銅山にちなみ別子=ベッシとも呼ばれる)が、金鉱脈を必ず発見すると読んで同社株を大量に買い、鉱脈発見で暴騰した時に市場で売って30億円の利益を出した。

会社に引き取らせるとか、意図的に煽って自分の玉を売ったとかいうのではなく、市場で買って市場で売った、通常の市場行為だった。そして当年の最高所得者だった。ある種英雄視されて話題にもなった。最終的には他のことで大失敗して、大きな負債を抱えて、遺族は相続放棄をして一世の勝負師は幕を引いた。

加藤暠氏はこれとは違い、人工的に作出する高騰である。当然、高値掴みの者が多数出る。そうでなければ自分の玉を売りさばけない。

村上氏のケースは、加藤暠氏とは質が全く違うが、両事件ともこの時期に敢えてテレビで放映させるというのは、東芝から目をそらせるためと思われる。筆者の“ゲスの勘繰り”かもしれないが、3年前からの容疑で、加藤氏がいまこの時期に逮捕されるのも、東芝から目をそらすために検察が動いたものと筆者は勘繰っている。

さて、この村上氏や、例えば堀江貴文氏は新時代への挑戦者だ。

加藤氏は明らかに市場撹乱勢力、反市場勢力であり犯罪行為者である。かつての手口と概ね同じことをやって捕まった。一種の病気だろうとさえ思う。

だが、村上氏や堀江氏は時代の挑戦者だと筆者は捉えている。堀江氏はその風姿言動が古い勢力の反発にあってプロ野球界から締め出されたが、そのプロ野球界の古い体質に対して新たな風穴を開けたことは明らかな事実だった。彼の空けた風穴から入った三木谷浩史氏と孫正義氏は、楽天ゴールデンイーグルスとソフトバンクホークスを経営することになった。

さらに、テレビ・ラジオという放送の世界は免許事業だから「護送船団」であるが、そこにも堀江氏は殴りこんだ。テレビ会社の経営に介入して、テレビとITとを連動させようと挑戦したのである。

堀江、村上両氏は古い経営者から非難されたが、新たな世界に挑んだ冒険児であり、新たなビジネスモデルを構築しようとしたのだ。本来、こういう連中が資本主義体制にイノベーションを吹き込む。そして、こういう新たな挑戦者は、古い権威から嫌われて検察の手によって葬られるのだ。

だが、検察が最終的に犯罪として問えたのは増賄でも収賄でも詐欺でもなく、証券取引法違反だけだった。時のテレビ・マスコミは「拝金主義のなれの果て」「堀江錬金術の正体」などと非難の饗宴を開催して、実態を知らない視聴者たちを喜ばせた。

大衆はカネ持ちになった人の没落を喜ぶ。概ねの場合、「嫉妬は正義の仮面をつけて登場する」と竹内靖雄教授は『日本人の行動文法(東洋経済)』(だったろうか)で喝破した。

筆者は親しい仲ではないが堀江氏を少々知ってはいる。彼は意外にもカネそのものには興味は薄く(ほとんど無く)、やんちゃ児童のように、やりたい放題をやっていたらカネが入ってきた、という面がある。そして「偽善者ならぬ義悪者」として振る舞うことが好きな男である。だから余計に誤解される。これも彼の言う「想定内」かもしれない。

筆者は自分が関心ある事件では判決文を子細に読むが、裁判官は一部分では検察を批判し、粉飾行為については無罪としていた。

Next: リクルート事件こそは「平成版・帝人事件」と捉えざるを得ない



リクルート事件こそは「平成版・帝人事件」と捉えざるを得ない

堀江氏だけでなく、1988年のリクルート事件もそうだ。竹下内閣を瓦解させる大騒ぎをして当時の閣僚や財界人を何十人も調べ挙げて、有罪はわずか2人だった。

江副氏は、「広告その物がニュースだ」という新たな観点から、誰も気づかないビジネスモデルを構築した。既存のビジネスモデルの地平線の彼方に新たな世界を見据えて、結果的には今なお栄える大企業を築いたのだ。

こういう新たな挑戦児を既存勢力は嫌う。

イノベーションはジョセフ・シュンペーターが言ったように「創造的破壊」を伴うからだ。古い勢力は破壊を嫌うのだ。だから検察を動かして葬るのだ。彼が葬られた後も、彼の創業したビジネスモデルはますます栄えて、株価的にも超一流企業となっている。

リクルート事件こそ「平成版・帝人事件」である、と田原総一郎氏は書いている(田原総一郎著『正義の罠――リクルート事件と自民党、20年目の真実』小学館・2007年刊)。

「帝人事件」とは、1934年、何ら犯罪となる事実が存在しないにも関わらず、検察が客観的証拠を無視して苛烈な取り調べ(恐らく酷い拷問)と恣意的な判断によって背任・増収賄事件をデッチあげて起訴した事件であり、裁判の結果は全てが無罪となった。

前掲書の結びには、「私はリクルート事件こそが、平成版・帝人事件と捉えざるを得ない思いである」とある。ライブドアに比して遥かに巨額の粉飾を犯した旧長銀、山一証券、カネボウ、日興証券は、責任者が逮捕さえされていない。

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