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米中貿易戦争を激化したトランプの主張は正しいのか?中国企業の成功の真実=田代尚機

米国による追加課税措置で、上海総合指数は一時大きく下落したもののすぐに戻しました。トランプ大統領が主張する中国補助金政策の問題は真実なのでしょうか。(『中国株投資レッスン』田代尚機)

追加関税措置の強化・拡大は、長期的にはアメリカが不利!

貿易戦争の激化懸念で10日の上海総合指数が急落

10日(金)の上海総合指数は高寄り後、買いが優勢の展開となり、日本時間12時半の前引け最後の値は2,893.82ポイントで、前日終値比1.5%高で引けた。しかし、日本時間14時から後場の取引が始まると急落、わずか3分で前日終値比マイナスまで売られた。その後14時05分には2,838.38ポイントを記録、0.4%安まで売り込まれたものの、そこから急回復し、大引けは2,939.21ポイントで高値引け、3.1%高となった。

上海総合指数 1時間足(SBI証券提供)

中小型銘柄の株価変動ならともかく、これは1,500社近い銘柄による時価総額加重平均型指数である上海総合指数の動きである。市場全体に影響する大きな悪材料があったから売られたわけだが、理由は明らかである。

アメリカは日本時間13時01分、予定通り2,000億ドル相当の中国からの輸入品に対する追加関税率を現在の10%から25%に引き上げた。中国はそれに対抗、報復措置を採ると表明しており、貿易戦争の激化が懸念されたからだ。

ろうばい売りで急落したもののすぐに、急回復したのだが、果敢に買ってきたのは誰なのか?いわゆる国家筋の投資家たちなのだろうか?

この日の上海50指数は3.5%高で、上海総合指数よりも高いが、創業板指数は4.4%高でさらに高い。国家隊が買ったかどうかは定かではないが、個人投資家が積極的に買ってきたとは言えそうだ。

上昇の目立ったセクターは半導体・部品、電子部品、PC関連、通信、通信設備など、追加関税率引き上げの影響のあるなしにかかわらず、追加関税がかけられているところが総じて買われている。証券、保険も大幅高である。短期的な相場の戻りを予想する投資家が多いと言えよう。また、国防軍事関連も大きく上げている。ここは、米中間の軍事的な緊張の高まりにより、恩恵を受けるセクターである。

全面高ではあるが、上昇率の低いセクターをみると、農業、銀行、鉄鋼といったあたりである。国家隊好みの銀行株の動きをみると、後場寄り直後をみても、特に強烈な買いが入ったといった様子は見られない。急落がもっと長く続いたら、国家隊の買いもあったかもしれないが、この日に限っては、そういうことはなかったのではないかと考えられる。

Next: 中国企業が強くなったのは、中国補助金政策の影響なのか?



中国の民営企業とアメリカの一部組織の関係性

国内投資家たちも多くの欧米市場の機関投資家と同じように、いつかは合意に達するだろうと思っているのだろう。

“株価は戻るに決まっている。乗り遅れたくない”と思う投資家が多いから、急落がチャンスと映り、買いに入ってしまう。そうした投資家が多いのであれば、事態が改善しなければ、短期筋の売りが入り、急落するだろうが、合意に達しそうになれば、一気に資金が流入しそうである。長期投資家は傍観した方がよさそうだ。

もし資金があるなら、自分のリスク許容度次第で、今後もあるかもしれない急落時を狙い段階的に買いに入るか、合意達成直後に一気に買いに入るかのどちらかだろう。

ここからは、少し長期の話をしたい。

トランプ政権、特に対中強硬派は、中国の補助金政策を批判している。しかし、補助金政策があるから中国は強くなったのだろうか?

先週の当メルマガからの続きでもあるが、アリババ、テンセント、華為技術、小米、百度、京東といった民営企業が中国のイノベーションを牽引し、中国経済を発展に導いている。それは、経営者たちのアニマルスピリットによるところが大きいのはもちろんだが、それと同じくらい、アメリカの大学、ベンチャーキャピタル、投資銀行などの影響が大きい。アメリカの一部の組織は中国の民営企業を助けることで、大きな利益を得ている。いわゆる中国の民営企業とアメリカの一部組織はウインウインの関係を築いているのである。

こうした関係は民営企業に限ったことではなく、国有企業にも言えることだ。結論を先に書けば、中国の国有企業改革にもっとも大きな貢献をしたのはアメリカをはじめ、欧米の金融機関である。彼らも中国の国有企業改革を助けることで莫大な利益を上げたのである。

国有企業改革が行われる前の国有企業はどのような経営組織だったのか。1990年代の株式会社化する前の国有企業は、その多くが、中央政府の主管部門、あるいは地方政府の関連組織の一部のような存在であった。さすがに、中央や地方の当局が、企業の生産計画、売り上げ目標、価格、従業員の賃金などを決め、企業はその指令に従うだけというような完全な計画経済からは既に脱却していた。国有企業内で経営計画が作られるようになっており、先進国の企業組織に近づいてはいたが、大きな違いが一つあった

それは、経営者である工場長が責任をもって作る計画は、当局と相談しながら作るものであり、当局から承認されるべき計画であった。そして重要なのは、その計画を立てたら、よほどのことがなければ達成しなければならない。工場長が結果にコミットするシステムであった。

当たり前のことであるが、計画はどんなに周到に、綿密に作ったとしても、市場環境の変化によって、最適なものではなくなることが多い。そうした実態を無視して、工場長は何としても目標を達成しなければならなかった。なぜなら、達成できなければ責任を取らされるからである。

このやり方は、明らかに市場経済には適さない

Next: 中国の国有企業はどのようにして現在のようになったのか?



国有企業の香港市場上場を欧米投資銀行が手助け

1992年に行われた鄧小平による南巡講話を経て中国は、市場経済を最大限に取り入れた社会主義体制、すなわち社会主義市場経済体制を目指すことになった。この方針に基づき、国有企業をいわゆる先進国の株式会社に改組する大改革が始まった

国有企業を世界標準の法人にしなければならない。そのためには、国家と企業の間で、資産の別をはっきりさせ、権限、責任を明確にし、政治と企業を分離しなければならない。その上で、科学的で近代的な経営システムを作らなければならない。

欧米の機関投資家が売買の主体となっていて、アジアで有数の進んだ金融システムを有する香港市場に国有企業を上場させる。そのためには、欧米の機関投資家の売買に耐えられるだけの近代的な株式会社にしなければならない。それを全面的に手助けしたのが欧米の投資銀行である。

対象となる国有企業は、重要産業の大型企業が選ばれた。こうして上場する企業は香港のHを取って、H株と呼ばれ、1993年7月の青島ビール<00168>がその第一号となった。そして、不良債権の規模が大きくその分離作業が困難を極めた中国農業銀行<01288>が上場した2010年7月、株式化を通じた国有企業改革は一応の終わりを迎えている。

一連のH株上場に関して、ほぼすべての主幹事が欧米の投資銀行によって占められることになった。グローバルでみて規模の大きな企業のIPOを手掛けることで、彼らは莫大な引受手数料を得ることができた。主要顧客にそれらを販売し、さらに主要顧客が彼らを通して売買することで、彼らは安定して大きな手数料を得ている

ゴールドマン・サックスは2003年秋、投資家向けレポートにおいて、BRICSというわかり易い言葉を使って投資家を啓蒙し、新興国ブームを作り上げた。それは日本にも伝わり、新興国ファンドの一大ブームを巻き起こした。欧米の投資銀行の輝かしいその成功の歴史は中国国有企業改革の成功の歴史でもある。

中国企業がここまで成長してこられたのは、企業組織が世界標準となったからであり、共産党が補助金を支給して国有企業の経営を助けたからではない。対中強硬派は、国有企業の補助金支給に文句を言う前に、中国の成長を糧に膨大な収益を上げた、国際化、自由化の急先鋒である欧米の投資銀行の過去の行動を責めるべきであろう。

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image by : Joseph Sohm / Shutterstock.com

中国株投資レッスン』(2019年5月17日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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TS・チャイナ・リサーチの田代尚機がお届けします。中国経済や中国株投資に関するエッセイを中心に、タイムリーな投資情報、投資戦略などをお伝えします。中国株投資で資産を大きく増やしたいと考える方はもちろん、ただ中国が好きだという方も大歓迎です。

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