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日経平均株価3つのシナリオ~1万7,040円から2万827円まで4,000円幅=日暮昭

米国FRBが利上げに踏み切りました。近時の日経平均の荒っぽい動きは背景に米国の利上げがあることは否定できません。

為替については日米金利差の拡大によって基本的にドル高・円安の要因になりますが、今後の新興国経済の動向やグローバルな資金移動への影響は読みきれず、株式相場の先行きは不透明です。

こうした先行きの不確実性、すなわち投資リスクの高まりが、業績などファンダメンタルズに目立った動きがない中での株式相場の不安定な動きをもたらしていると言ってよさそうです。

そこで、今回は投資リスクの大きさを具体的に折り込んだ形で株式相場の形成を捉える考え方をご紹介し、併せてリスクの評価によって相場がどのような影響を受けるかを試算します。(『投資の視点』日暮昭)

日経平均株価は市場のリスク評価次第で上下4,000円の変動幅

投資リスクの評価は会社価値の把握から

株式相場に対するリスクの影響を量るには、株価は会社の価値を反映したものである、という基本に戻り、まず、会社の価値を捉えることからスタートします。

ここでは、基礎から積み上げる方法で会社の価値を求めます。

会社価値の最もコアとなる部分は会社の総資産から借入金などの債務を全て差し引いた残りとなる“純資産”です。

と言いますのは、最悪の場合、会社が倒産して清算する時に最後に株主の手元に残るのが純資産だからです。

しかし、会社は成長することを前提としていますから、実際の会社の価値は、この基本部分に今後の増加分を加えて評価します。

この増加分は会社が挙げる最終的な利益である当期純利益で捉えられます。当期純利益(以下、純利益)は一部を株主に配当し残りは内部留保として純資産に積み増されますが、株主にとっては配当は当期に得る資産であり、内部留保は会社の純資産の増加分としてやはり株主の資産の増加となるためです。

したがって、株主にとっての会社の価値は次のように表せます。

会社の価値=直近の純資産+将来得られる純利益の合計

ここで、将来得られる収益は金利の分だけ目減りするという事実を折り込みます。

例えば今、金利が5%であるとすると、手許にある1万円を銀行に預ければ1年後に1万500円になります。これを逆に見ると、1年後の1万円は現在の9,524円(=1万円/1.05)に相当します。同様に2年後の1万円は、1万円を1.05で2回割って9,070円となります。

したがって、会社の価値は以下のように示せます。

会社の価値=直近の純資産+{将来得られる純利益/(1+金利)}の合計

また、会社の価値を量る場合は金利の他にリスクを考慮する必要があります。

会社が挙げる将来の収益が確実であれば、会社の価値は上式で決まりますが、実際には会社が将来どの程度の収益を得るかは分かりません。そこで、株主にとってはこの不確実性、すなわちリスクも考慮に入れなければなりません。

不確実性が高ければそれだけ資産の価値が目減りすると考えられますから、金利と同じように収益を割り引くことになります。

したがって、会社の価値は以下にように表すことが出来ます。

会社の価値=直近の純資産+{将来得られる純利益/(1+金利+リスク)}の合計

ここで、収益の割引率である金利とリスクの合算値は、一方で投資家にとって期待する、あるいは要求するリターンに見合う事になります。リスクと金利で割り引いた結果が要求するリターンで割り引いた結果と等しければ投資家にとって不満はないからです。逆に言うと、リスクは要求リターンから金利を差し引いた値として求められます。

また、会社側にとってみると、この割引率、すなわち株主が要求するリターンは、株主がリスクを覚悟して供出した資本に対する対価として当然負わなければならない負担、すなわちコストと考えられますので“資本コスト”とも呼ばれます。

もうひとつ、株主にとって会社の価値を評価する際には将来の収益のうち、この資本コストに見合う分はリスクを負うことに対する当然の報酬ですからその分を差し引いた分が会社の価値の増加分になると考えられます。

すなわち、会社の価値は結局以下のように表すことができます。

会社の価値=直近の純資産+{(将来得られる純利益─資本コストに見合う収益)/(1+資本コスト)}の合計

ここで、資本コストは株主が求める投資リターンである、と言うことから、資本コストを次のように求めます。

株主がどの程度のリターンを求めるかは時々の投資環境によって様々ですが、少なくとも過去の平均的リターンは実現したい、と考えるのは妥当な見方と言えるでしょう。ということで、過去の投資リターンの平均を要求リターン、すなわち資本コストとします。

ここで、投資リターンは純資産に対する純利益の比率で捉えるのが一般的です。上記のように純利益は株主に帰属する収益であり、純資産は株主に帰属する資産ですから、この比率は株主にとって投資によるリターンを直接表すからです。

この比率は一般に自己資本利益率とも言われ、ROE(Return On Equity)と略されて表記されます。以下、当比率をROEと表します。

すなわち、資本コストの想定値としてROEの過去の実績の平均値を用いることが妥当ということになります。

また、上の式にある“資本コストに見合う収益”は投下した資本に対する、資本コストに見合う収益と言えますから、純資産に資本コストをかけて求めることができます。

ということで、最終的に会社の価値は以下のように表すことができます。

会社の価値=直近の純資産+{(将来得られる純利益─資本コスト*純資産)/(1+資本コスト)}の合計

“日経平均会社”の価値を求める

さて、上記の会社価値の決定方式をもとに、日経平均株価のもとになる“日経平均会社”の価値を求めてみましょう。

ここで、詳細は省きますが、金利とリスク、そして将来の純利益を一定と仮定すると、上記の会社価値を求める式は以下のようになります。

会社の価値=直近の純資産+{(直近の純利益─資本コスト*純資産)/資本コスト}

この式の最大のメリットは、将来の純利益、リスクなどがなくなっており、実際に計測することが可能な形になっていることです(※ここでの会社価値の求め方は「EBOモデル」と呼ばれる、米国のEdward、Bell、Ohlsonという3人のファイナンス研究者の研究成果に基づくものです)。

Next: 1万7,040円から2万827円まで、上下4,000円の変動幅に



さて、上の式において、日経平均ベースの純資産と純利益、そしてその比率であるROEを求めれば日経平均会社の価値を得ることが出来ます。

これらの指標、および日経平均は、これまで当講座で説明してきましたように以下のように求めることができます。

下図は上の指標が連続して得られる最も古い期である2009年5月から直近の2015年12月までの月次終値ベースのROEを求め、併せてこの間の平均値を示したものです。(2015年12月は18日終値)

日経平均ベースのROEの推移と平均値(月次終値ベース)―2009.5~2015.12(2015年12月は18日)―

ROEはリーマン・ショック後の2009年時点の3%台から、アベノミクスを経て2013年以降は安定的に8%台を維持しています。図中の紺色の横線がこの間のROEの平均を示しており、7.06%となっています。

資本コスト(リスクの評価)の変化によって日経平均はいくら振れる?

さて、直近の2015年12月18日の日経平均会社の純資産と純利益、ROEは当日の各指標を当てはめることで、それぞれ以下のように求まります。

以下で、今後の投資環境に対応してリスク、すなわち投資家の要求するリターンである資本コストが、(1)現状が続く場合(2)10%高まる場合(3)10%低まる場合――の3つのケースについて日経平均会社の価値、すなわち日経平均がどのように変わるかを見てみましょう。

ここで、直近時点の1株当り純利益は上記のように142円84銭ですが、来期以降、足元、市場で有力視されている5%程度の増益を想定し、資本コストはROEの平均値7.06%とします。

これらを上の日経平均会社の決定式に当てはめると、現在の資本コスト(リスクの評価)のもとでは、日経平均会社の価値は2,123円となります。これに日経平均倍率である8.826を掛けると日経平均は1万8,744円と求まります。

12月18日当日の実際の日経平均より若干低い値となっています。

この現状に対して、先行きのリスクが10%高まる場合は、ROEに引き直すと7.77%となります。この場合の日経平均は1万7,040円とほぼ1万7,000円まで落ち込みます。

一方、リスクが10%低まると見るとROEは6.36%となり、日経平均は2万827円と2万円を超えることになります。

ファンダメンタルズの変化に関係なく市場のリスクの評価次第で日経平均は上下で4,000円程度変動することが示唆されます。

下図は2014年1月から直近までの月次終値ベースの日経平均と、併せて、上述の3つのケースの日経平均の位置を示したものです。便宜上、想定値の日付を2016年1月としています。

リスク評価の差によって変動する日経平均(月次終値)-2014.1~2015.12(2015年12月は18日)-※リスク評価の変動による想定値は期を2016年1月として表記

リスク見通しの差によって相場がどの程度の影響を受けるのか、数値的にメドをつけておくことは、外部環境が不安定な時に相場感をふらつかせないための有力な武器になると思われます。

皆様の相場見通しの参考にしていただければ幸いです。

筆者プロフィール:日暮昭
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を用いた客観的な投資判断のための市場・銘柄分析を得意とする。

【関連】FRBの「無慈悲な利上げ」を市場が悟る時、悲劇的なマネー逆流は始まる

投資の視点』(2015年12月24日号)より一部抜粋

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