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PayPay?LINE?キャッシュレスの勝者は意外な◯◯!中国アリペイの成功から見えた未来図=栫井駿介

QRコードを使用したキャッシュレス決済が盛り上がっています。ヤフー<4689>のPayPayは「100億円あげちゃうキャンペーン」で大盤振る舞いし、対抗するLINE<3938>LINE Payは「300億円祭り」を開催。まさにお金をばらまいている状況です。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

アリペイはどう稼いでる?日本を制する本命・対抗・大穴を分析

QRコード決済で儲けるのは難しい

キャッシュレスの手本となっているのが、中国でしょう。

中国では、アリペイウィチャットペイを二大勢力とするQRコード決済が世界に先駆けて浸透しました。今では現金が使えず、スマホ決済だけという店も少なくありません。

道端で物乞いをする人ですらQRコードを掲げるというのですから、その浸透度合いが分かります。

最近では顔認証で決済するシステムも開発され、財布を持たずに買い物に行けてしまいます。この分野に関しては、中国は明らかに先を進んでいるのです。

訪日外国人数が急速に増加する日本でも、アリペイやウィチャットペイが利用できる店舗が増えています。それでも、これまではあくまで中国人のためのサービスで、日本の消費者には縁遠いことだと思われていました。

その流れを大きく変えたのが、昨年10月のPayPayの登場です。20%キャッシュバックという、常識では考えられない還元率を打ち出し、社会現象を巻き起こしました。他社も遅れまいと、次々にキャンペーンを打ち出します。

※下記画像はすでに終了したキャンペーンのものです。

※上記画像はすでに終了したキャンペーンのものです。

これだけ各社がこぞって参入するのだから、QRコード決済はさぞ美味しいビジネスなのかと思いきや、実はそうでもありません

一般的に、決済サービスは店舗から手数料を取ることで成り立っています。例えば、クレジットカードなら、店舗はクレジットカード会社に対し売上高の3〜5%程度の手数料を支払っています。これが決済サービスの収益の源泉となるのです。

ところが、QRコード決済の多くは、店舗側の手数料を無料にしています。期間限定となっていますが、一度0円で導入した手数料を引き上げることは難しいでしょう。引き上げと同時に、他社が割り込んでくる可能性があるからです。

もちろん、消費者から手数料を取るのは至難の業でしょう。それなら、現金や手数料無料のクレジットカードを持てば良いだけの話です。

すなわち、決済そのものだけでは、ビジネスとしては成立しないのです。まずこのことを頭に入れる必要があります。

Next: 中国で爆発的に普及した「アリペイ」はどうやって儲けているか?



アリペイはどうやって儲けているか?

ここで、本家の中国を見てみましょう。本家も決済で利益を出しているわけではありません。むしろ、手数料を無料にしたからこそ、これだけ爆発的に普及したと言えます。

それではどうやって儲かっているのか。それは、決済以外の収益源があるからです。アリペイの例で見てみましょう。

<資産運用(余額宝)>

中国のQRコード決済は、基本的にデビット機能です。まず口座に現金を預け、そこに入っている分だけ買い物をすることができます。つまり、お金を預けてから決済するまで、未決済の残高が「プール」されるのです。

アリババのそのプールに目をつけました。お金を銀行に預けていてもわずかな金利しか付きませんから、それを投資信託(MMF)に投資させることで、消費者は銀行金利より高い金利を得ることができるようになったのです。

これを導入したことで、アリペイは実質的に銀行と運用会社の両方の機能を有するようになり、投資信託(余額宝)は瞬く間に世界最大のMMFファンドとなりました

<消費者金融(花唄、借唄)と信用格付(芝麻信用)>

QRコードで決済することで、決済履歴が残ります。その人が何を買って、どんな生活をしているのかが一目瞭然です。大量の決済データが積み重なることでビッグデータが出来上がり、その人の信用力が「スコア」となって表れます

ある人がお金を借りたいと考えているとしましょう。銀行で借りようとしたら、その人の勤務先や家族構成、保有資産などをつぶさに調べる必要がありす。これは大変手間のかかる作業です。

日本では、そこをざっくりと「サラ金」としてまとめてしまいましたが、中国では返済率が低く、同じ仕組みは合理的ではありませんでした。貸し手にとってはリスクの高すぎる方法だったのです。

しかし、ここで借り手がスコアを持っていれば、ビッグデータにより貸し倒れ確率を算出することができ、リスクに応じた適正な金利でお金を貸すことができるようになったのです。スコアの高い人なら、低金利でお金を借りることができます

金融は最終的には「信用」が命です。中国という国で信用を得ることは容易ではありませんが、個人情報をアリペイにさらすことで、適正な信用を得られることが可能になったのです。まさに革新的な出来事と言えるでしょう。

スコアは金融だけにとどまらず、ホテルなど日常で受けるサービスでも優先度に差が出るなど、大きな影響を及ぼしています(芝麻信用)。ここまで来ると流石に怖いところがあります。

Next: まだあるアリペイの稼ぎ頭。日本で勝者になるのはどこ?



<広告>

決済履歴が残るということは、その人が欲しいものもおおよそ分かります。例えば、ランドセルを買ったら、次は文房具が必要だろうという具合です。

これをオンラインの世界で真っ先に構築したのがAmazonです。Amazonで商品を買うと「関連商品」を提案してきます。ついポチッと購入してしまった経験がある人も少なくないのではないでしょうか。

Amazonはオンラインですが、これをオフラインの世界にも持ち込んだのがアリペイです。アリペイは中国最大のオンラインショッピングモールであるアリババの「Tモール」とつながっていますから、オンライン・オフライン問わずよりその人に合った広告を打ち出すことができます

この場合、アリペイは広告主から広告料をもらうことができます。この場合も、膨大な購買履歴をビッグデータで分析することになります。より購買可能性の高い人に広告を出せるため、効果が高いと言えるでしょう。

日本でキャッシュレス決済の勝者になるのは?

ここまで見ていただくとわかるように、QRコード決済は、他のサービスと結びつくことで初めて収益化が可能となります。その点において、すでにそれらの機能を有している会社の方が将来が有望視されるのです。

<本命:PayPay>

本命はPayPayでしょう。何より、資金力が違います。国内有数の収益力を誇るヤフー<4689>の莫大な資金を使い、他社を蹴落としにかかっています。それだけではなく、グループ会社のソフトバンク<9434>の携帯ネットワークや、場合によっては10兆円ファンドの資金を持ち出すかも知れません。

関連事業も充実しています。子会社にジャパンネット銀行を有していますから、その気になれば消費者金融などに乗り出すこともできるでしょう。銀行を持っていれば、金融関連でできることの幅は大きく広がります。

加えて、最近はショッピングにも力を入れています。店舗の出店料を無料にして、規模の拡大を図っているのです。ここの収益源は広告ですから、QRコード決済の広告との相性はとても良いと言えます。

<対抗:楽天ペイ>

関連事業の充実という観点では、上を行くのが楽天<4755>です。ショッピングはもちろん、銀行、証券、クレジットカードなど、業界でも大きな力を持つ企業群を抱えています。

楽天は今のところQRコードの普及にはあまり熱心ではないように見えます。それは、国内最大の発行枚数を誇る楽天カードを持っているからでしょう。

それでも、その気になれば対抗できるだけの資金力と周辺サービスを持っています。今は様子見なのかも知れません。

Next: 大穴はLINE Pay? 日本市場で鍵を握るのは「クレジットカード」だった



大穴:LINE Pay

大穴と言えるのがLINE<3938>です。知名度とダウンロード率では屈指の高さを誇りますが、銀行は設立準備中、ショッピングサイトはパッとしない状況です。何より、本業であまり収益を生んでいないので、資金力が限られます。

そこで直近で打ち出したのが、送金機能を利用した普及です。5月20日から、友だちに1,000円を無料でプレゼントできる「300億円祭り」を開催しています。受け取った人は、本人確認を済ませれば買い物に使うことができます。

これは、LINEならではの送金機能を利用して、1人でも多くの人にLINE Payを使ってもらう試みでしょう。とりあえず、使い方がわかるという点では効果がありそうです。しかし、もらった1,000円以外に使うためには、やはり何らかのメリットが必要になります。

日本のキャッシュレスの本質は「クレジットカード」

結局のところ、消費者にとってメリットとなるのはポイント還元率の高さではないでしょうか。これ以外に、わざわざスマートフォンを取り出して、アプリを開いて決済するメリットはあまり見いだせません。

そもそも、中国でQRコード決済が普及したのは、その環境によるところが大きいのです。

中国では多くの人がクレジットカードを持つことができず、また店舗側も読み取り端末を準備する余裕がありませんでした。一方で、現金は現金で偽札や盗難の可能性があり、不満が溜まっていたのです。

そこへスマートフォンが普及し、クレジットカードを持てなくてもキャッシュレス決済が可能になりました。店舗側もスマホひとつで導入でき、偽札や盗難の可能性もなくなったことから、あっという間に浸透したのです。

翻って、日本はどうでしょう。誰でもクレジットカードを作ることができ、ほとんどのお店で利用することができます。紙幣の精度は世界一高く、盗難の可能性も高くありませんから、お店も困っていないのです。

すなわち、日本のキャッシュレス決済は、クレジットカード1枚で完結するのです。そこにわざわざ色々なアプリを入れるのは、手間がかかる割にメリットが少ないのです。

そもそも、QRコード決済のために、多くの人はクレジットカードから入金しています。これでは手間が省けるどころか、より面倒になっているのです。

つまり、もしQRコード決済が浸透したとしても、それはあくまで窓口でしかなく、本質はクレジットカードなのです。これは、SuicaやApple Payのスマートフォン決済を見てもよく分かるでしょう。

Next: 本当の勝者はクレジットカードを取り仕切るVISA・Master・JCB



本質を見極めれば真の勝者が見えてくる

ここまで読めば、キャッシュレス競争の勝者が見えてきます。そう、熾烈な競争を繰り広げる各陣営ではなく、クレジットカードを取り仕切るVISA、Master、JCBなのです。

VISA INC A <V> 月足(SBI証券提供)

MASTERCARD INC A<MA> 月足(SBI証券提供)

見てください、このきれいなチャート!VISAやMasterは、クレジットカード事業だけで、淡々と利益を積み上げ続けています。これは、オンライン決済、すなわちキャッシュレスでクレジットカード決済が増えたことによるものです。

長期投資家は、このような銘柄に目をつけなければなりません。

動きが激しく、話題性のあるテーマは刺激的です。しかし、そこには多くの人が群がり、やがて過当競争が発生します。場合によっては競争に参加した人全員が敗者となる「囚人のジレンマ」も発生しがちです。

賢明な投資家は、不透明な競争の先を読もうとするのではなく、本質を見抜き、より有利な状況にいる企業を見つけ出さなければなりません

本当にいい銘柄を見つけ、その銘柄が安くなった時に、したたかに買いを入れる。長期投資とはそれだけの作業です。


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image by:StreetVJ / Shutterstock.com

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年5月26日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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