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書評『日本株はバブルではない』~ひふみ投信・藤野英人氏の投資戦略=梶本卓椰

ドン・キホーテやジェイアイエヌ(JINS)の将来性に賭けて大成功し、4年連続、R&Iファンド大賞を受賞したファンドマネジャー・藤野英人さんの著書『日本株は、バブルではない』の読みどころを、『稼ぎ続ける短期トレーダーの読書感想文』の梶本卓椰氏が分かりやすくご紹介します。

『日本株は、バブルではない』藤野英人・著 ダイヤモンド社

『日本株は、バブルではない』藤野英人・著 ダイヤモンド社

最近の相場

株式投資の世界で20年以上ファンドマネージャーとして活動してきたが、今ほど業界全体が地殻変動を起こし始めていると感じたことはない。平均2万円からでも、“きちんと会社やファンドを選んで”投資すれば中長期的に高いパフォーマンスが得られる。

待機資金

880兆円という現預金をため込んでいる「国民」、300兆円という内部留保をため込んでいる「企業」。日本には約1700兆円という世界第2位の個人金融資産があり、個人金融資産のうちの現預金の比率は52%。この比率はアメリカでは13%、ユーロ圏で35%ですから、日本が突出して高い。

インフレ対策

インフレ傾向が進む中ではどうしても現金・預金、債券の価値は低下していき、年金の実質的な受給金額(インフレを考慮した価値)は低下していく。不動産と金はある程度インフレ対応力がある、不動産については人口減少の中で価値が低下していくリスクが結構大きい。よく考えながらリスクをとって株式投資と、それらを中心に運用する投資信託を活用する人はますます報われやすい。

リフレ政策

リフレ政策というのは意図的にインフレを起こす政策。リフレ策には2つの狙いがある「景気の活性化」と「債務の実質的な削減」。
インフレのもとでは実質的に、

実質的に国民の預貯金や年金支給額などを減らす政策で、「アベノミクスは、お金をため込んでいる人からそのお金を奪いにいく政策」

アベノミクスは、まだ序の口。マネタリーベースは2倍以上になのに、マネーストックは1.1倍程度。日銀から銀行にはたくさん資金供給しているが、銀行から企業や個人へのお金が流れていない。

成長する企業の特徴

伊藤レポートではデータから見て長期的に高いパフォーマンスを上げている会社にはオーナー系企業が多いということを指摘。日米欧で同じ傾向。オーナー経営者はモチベーションが高く、長期的視点に立った経営を行い、愛着が人一倍強い。また、業績と株価が上がれば自身も持ち株の株価や配当が増えるという業績連動報酬的な恩恵を受けられる。

持続的に高いパフォーマンスを上げている世界中の企業を調べると、CEOの平均就任期間は10年ほど。報酬は日本の主要企業の経営者の平均の数倍で、業績連動部分が多くを占める。

機関投資家

機関投資家は、年金基金、生命保険、損害保険、投資信託などの莫大な資産を運用するプロの投資家のこと。企業経営に対しても大きな影響力を与えることが可能で、それが義務でもある。しかし、日本の機関投資家のほとんどは、そのような役割を果たしてきていていない。それが企業の経営者の怠慢を放置してきた大きな原因。

機関投資家の運用の6-7割がインデックス運用。アクティブ運用のファンドマネージャーに対する評価が四半期ごとと比較的短期でなされ、報酬も運用成績とあまり連動していない。販売会社である証券会社は高い手数料を何度も取るために顧客にかなり短期で乗換えを促すという営業姿勢を続けてきた。

金融庁は機関投資家各社にこの「スチュワードシップ・コード」の受け入れを求め、15年6月までに資産運用会社、生損保、年金基金など191社と国内で活動する機関投資家が受け入れを表明。日経平均採用企業の225社については、すでに202社が社外取締役を導入し、そのうちの3分の2が複数の社外取締役を置いている。2014年には東証1部企業も社外取締役を置いている企業の割合は前年比12ポイントも上昇して74%にまで上がった。独立した社外取締役ということになると、2人以上置いている会社は東証1部で2割程度(2014年8月現在)。

株の期待利回り

世界の投資家の間では資本コストは平均して7%。ROEがそれより1%高い8%ならば、世界の投資家の9割が納得できる水準。7%は10年で約2倍のリターン。世界の主要株式市場の歴史的な平均リターンは約7%であり、そうした意味で歴史的にもデータ的にも裏付けられる水準、株式投資の世界ではコンセンサスになっている水準。

実際には日本企業で今述べたような正常な市場メカニズムが働かず、多くの企業が欧米企業よりかなり低いROEの状態。それは、経営者の怠慢と、監視する役割のある株主の怠慢。ROEの高いアメリカの主要企業は、中央値が8%で平均が24%、欧州は中央値が6-8%で平均が15%。持続的に高いROEを実現するには、リストラやM&Aやイノベーションなど、常にリスクを取ってチャレンジしていくことが必要。

日本上場企業の場合、平均約30%を株主に配当、約70%の資金を内部保留。通常、内部保留は収益基盤の強化(設備投資、研修開発、企業買収など)のために投資されるという前提で許される。株主もそうした前提で内部保留を認めてきた。もし成長投資に使わないならば内部保留された現金は株主に返すべき。日本の企業、特に上場企業の実態は、内部保留をただ現預金としてため込んでいるケースが多い。

Next: 日本の地価が3分の1になる!?/おすすめの投資信託etc.



土地

「日本の地価が3分の1になる!」では、人口動態と地価の関係を詳細に研究。経済活動や地価の価格は現役世代負担率(生産年齢人口に対する高齢者人口の割合)によって大きく影響を受け、これが大きく低下する日本では地価が2010年から2040年にかけて62%下落する可能性があると述べられている。

金は金利を生まず、企業の様に成長しない。世界的な需給状況で値上がりすることはあるが、それ自体が収益を生み出していくものではない。金をはじめとした貴金属はあくまでもリスクヘッジの1つとしての役割はするかもしれないが、資金運用のメインに据えることは、お勧めできない。

株式

資産運用の本命は、株式投資。株式こそ、最もインフレ対応力があり、長期的に成長性の高い投資対象。株、国債、預金、不動産のインフレ考慮後の実質的なパフォーマンスを示し続けていることがさまざまな研究から知られている。

投資信託の過去のデータを見ると、アクティブ投資によって運用されるアクティブ投信は、トピックスや日経平均に連動しているインデックス投信に負けているということが示されている。

EC

現在の日本のEC化比率、つまり消費のうちインターネット経由の割合は4%程度。アメリカとイギリスは10%を超えている。EC化比率は数年程度で米英並みの10%までいくのはほぼ確実。「ひふみ投信」では今でも楽天やスタートトゥデイなどにそれなりのウェイトで投資しているが(15年5月現在)それは以上のような理由。15年に新規上場したばかりのショーケース・ティービーの株を相当買った。それは、発行済み株式総数の12%程度。ショーケース・ティービーはスマートフォン向けのECサイトのコンサルティングと製作の事業をしている。

ロボット

中長期的に予想される2つ目のトレンドは「ロボット普及の拡大」。ロボットは今後の労働人口の減少を補うという期待がある。市場規模は、2015年~2020年の5年間で、製造向けに6000億円→1.2兆円(2倍)、非製造向けに600億円→1.2兆円(20倍)。

排ガス規制

2017年秋に欧州の排ガス規制が大幅に強化される。2017年は電気自動車の本格的な普及元年。日本においては、電気自動車向けの部品、素材、機械関連から値上がり銘柄が出てくると予測。そうした動きをかなり早い段階から読んで、さまざまな戦略を打ってきたのが「日本電産」です。日本電産はM&Aなども行いながら電気自動車に必要なモーターのラインナップを充実させ、その分野の売り上げを順調に伸ばしてきた。本格的に花開くのはこれから。

介護サービス

富士経済の予測によると、介護サービスの市場規模は2014年に1.1兆円だったものが2020年には2.1兆円程度に。2025年には団塊の世代が75歳の後期高齢者を超えることから、2020年以降も介護サービスの市場規模は一段と大きくなる。

企業の選別

期間限定のサブ戦略は、「低いROEが修正されることで株価上昇余地の大きい銘柄を狙う」というもの。

→余剰資産の有効活用によって、ROEと株価を向上させる余地が大きいと思われる。

おすすめの投資信託

投資信託の成績を見るための指標としてはシャープレシオが優れている。シャープレシオというのは、「リターン÷リスク」で計算される指標で、高い数値ほど優秀。「R&Iファンド大賞」というのは、日本経済新聞社グループの信用格付け会社である格付投資情報センター(R&I)が主催する投資信託に対する表彰制度。基準は過去3年間のシャープレシオ。下記はランキング上位に入っている。

  1. 直販投信であるコモンズ投信の「コモンズ30ファンド」
  2. 鎌倉投信が運用する「結い2101ファンド」
  3. 直販投信ではない、大和証券系列の大和住銀投信投資顧問の「大和住銀日本小型株ファンド」
  4. 「SBI中小型割安成長株ファンドジェイリバイブ」
  5. レオス・キャピタルワークスの「ひふみ投信」

ひふみ投信の宣伝でもあると思いますが、実際に、トピックスや日経平均よりも上回る実績を数年間継続しており、尊敬できる著者であります。今後とも、独立系の投資運用会社が世の中に多く出てきてほしいものです。

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稼ぎ続ける短期トレーダーの読書感想文』(2015年12月11日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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2007年1月から、本格的に株式投資を始め、現在では国内株式、先物、オプションの短期、中期トレードを生業としています。利回りは、2007年;34%、08年;163%、09年;25%、10年;14%、11年;84%、12年13%、13年76%、14年42%。 主に経済関連ですが、月に数冊の本を読んでいます。ほとんどが発刊間もない本です。自分自身の理解のためと、忙しくて本を読めない方の参考になればと思い、メルマガの発行に至りました。よろしくお願いいたします。

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