強気の借り入れと驚異的な投資効率により多分野で事業を拡大し続け、2016年4月から始まる電力の自由化でも注目を集めるソフトバンク。孫正義社長が掲げるビジョンや経営上の強み、今後の注目点について公認会計士の平林亮子さんが解説します。(『平林亮子の晴れ時々株主総会』)
ソフトバンクの可能性を“株主総会マニア”の公認会計士が分析
いよいよ始まる電力の自由化、ソフトバンクは「電気割」も?
2016年といえば、なんとなく気になっていることが1つあります。それは「電力の自由化」について。
2016年4月から電力の自由化が始まります。電気は「発電所」で作られ「電力小売会社」が消費者に販売し「送配電会社」が実際の送配電について管理することで消費者に届けられます。
今回、発電と電力の小売りについて自由化されます。誰でも電気を作って売ることができるようになるわけです。
現在、一般家庭では、住んでいる地域によって自動的に付き合う電力会社が決まる仕組みになっています。東京に住んでいれば、東京電力から電気を買うしかない、という具合に。
電力の自由化が始まれば、東京電力以外の電力会社から電気を買うこともできるようになるというわけです。
そんな電力事業に新規参入しようと、色々な企業が名乗りを上げています。その1つがソフトバンク。
なお、2015年7月1日より、ソフトバンク株式会社はソフトバンクグループ株式会社へと社名変更、ソフトバンクモバイル株式会社はソフトバンク株式会社へと社名変更をしていますので、以下、ソフトバンク企業集団全体を「ソフトバンク」、ソフトバンクグループ株式会社(旧ソフトバンク株式会社)を「ソフトバンクG」と表記することにいたしますね。
さて、ソフトバンクが電力事業に参入するとは言っても、ソフトバンクから電気を買うってなんだかピンと来ませんよね。でも、近い将来、ソフトバンクショップで電気の契約ができるようになるかもしれません。
そして、携帯電話の購入をする際、「電気割もありますが、いかがですか?」と薦められる日がくるのではないでしょうか。
ちなみに、ローソンも電力に参入するとのこと。コンビニで電気を買える時代になるということですね。
電力会社切り替えの具体的な手続きなどはまだ分からないことも多いのですが、自由化により電気を取り巻く環境が大きく変わることは確かでしょう。
かつては「電話といえばNTT」だったものが、様々な企業の参入により今ではNTTだけではなくなっているのと同じように、電力会社間の競争が起こることで、サービスが多様化していくのだと思います。
また、現在は国の審査を経て電気料金が決められますが、自由化になれば、販売価格もそれぞれの事業者が自由に決められるようになるとのこと。電気というインフラの問題ですから、「安かろう悪かろう」となっては困りますが、企業努力に電気を安く供給できるようになるのであれば、それはありがたいことです。
これを機会に、電気料金を見直してみるのも良さそうです。新しい電力会社に変えなくても、料金プランを変えるだけで安くなる可能性もあるようですしね。電力自由化に向けて、電気料金の診断をしてくれる企業も出現していますよ!
ソフトバンクGの株主総会(2015年6月19日)を振り返る
というわけで、今回はソフトバンクGの株主総会について。と言いつつ、実は私、もう何年もソフトバンクGの株主なのですが、株主総会に行ったことがありません(笑)ソフトバンクGは3月決算なので、株主総会が行われるのは6月。他の企業の株主総会と重なったりして、どうしても行くことができずにいたのです。
「それなのに、株主総会を語るのか?」という声が聞こえて来そうですが、ソフトバンクGの株主総会は株主でなくても垣間見ることができるのです。株主総会当日は、Ustreamを利用してインターネットで同時中継していますし、株主総会後は、株主総会の動画がウェブサイトにアップされるのです。
ご興味のある方は、是非、ご覧下さいね。1時間40分くらいです。このURLをクリックしていただき、スクロールしていただくと、動画へのリンクが出てきます。
見やすいように編集されていて、質疑応答についてそのまま流れるわけではありませんが、創業者で社長の孫氏のプレゼンテーションはビジネススクールの授業のように興味深く内容には夢もあります。
株主総会という閉鎖的な場を敢えて配信するという情報戦略もさすがです。社外にアピールしたい部分は、思う存分見せる。逆にその裏では見せたくない部分をたくさん隠しているのだと思いますが、情報発信力は本当に見事だと感じます。
動画を見る限り、株主総会の大半は孫社長の独演会なのですが(笑)、社長の言葉で面白いと思ったものをメモしておきます。
Next: ホラで終わるか、実現するか?印象的な孫社長の言葉の数々
ホラで終わるか、実現するか?印象的な孫社長の言葉の数々
「ソフトバンクは決して大企業にはなりたくない。野心的、革新的な起業家集団であり続けたい」
「短期的な利益ではなく、30年、100年という期間で物事を考えたい」
「ソフトバンクがこれから力を入れるのは、IoT、AI、スマートロボットの3分野」
ちなみに、IoTとは「Internet of Things」の略で、インターネットにつながった機器の事やその技術のこと。たとえば、スマートフォンはインターネットにつながっていますが、今後、家電はもちろんの事、靴や下着もインターネットにつながる時代がくるかもしれないと言っていました。
AIは人工知能のこと。スマートロボットとは、人工知能を搭載したロボットのことで、ソフトバンクのPepperはまさにスマートロボットと言えるでしょう。この点について、
「2018年には、ハードウェアのスペックという観点だけで考えれば、人工知能が人間の脳細胞を超える」
「2040年、スマートロボットの台数が世界の全人口を上回る」
とのこと。
「2020年頃には、中国のGDPはアメリカを抜くだろう。さらにその後、インドもアメリカのGDPを抜くだろう」
こんな話をされた上で、ご自身のことを「ホラふき」だとおっしゃっていましたが、これが決して単なる「ホラ」ではないという自信に満ち溢れた表情でお話なさっている姿が印象的でした。
これがホラで終わるのか、ホラでなくなるのかは、将来になってみないと分かりません。でも、「ベンチャー企業はこうでなくては!」とワクワクさせてくれる孫社長はやっぱりすごいな、と思います。そのため、私はソフトバンクの株を保有し続けています。
孫社長のビジョン「ソフトバンク2.0」の中身
ソフトバンクはこれまで、ボーダフォンの買収など、さまざまな企業を買収することでスピーディな成長を実現してきた企業です。借入も非常に多く、いつもさまざまなファイナンス手法を駆使してM&Aを実現している点は、日本企業離れした企業だと私は感じています。
余談ですが、株主からの質問に、「金融事業への参入はあるのか?」という趣旨のものがあったようですが、「関心はある」との答えでした。
さらに、付け加えて「最近の金融のキーワードの1つは『フィンテック』。ファイナンスとテクノロジーを組み合わせた言葉です」と説明されていました。既存の金融機関に頼らない、新しい決済システムの誕生など、フィンテック革命が世界で進んでいると言われています。
そう考えると、ソフトバンクが本格的に金融事業に参入する日は、そう遠くないように思います。
色々な点で日本企業離れしているソフトバンクですが、今後は、日本企業という枠組みさえも取っ払っていくようです。「ソフトバンク2.0」というビジョンを掲げ、海外事業を展開する日本企業という立ち位置から、情報革命で人々を幸せにするグローバル企業へと展開していくとのこと。
そのための1つの鍵として、2015年6月に行われた株主総会では、Googleの幹部であったニケシュ・アローラ氏をソフトバンクGの代表取締役副社長として迎え入れました。ニケシュ氏のGoogleでの年俸は数十億円だそうで、そんな人を口説き落としたところに、情熱を感じます。
孫社長からは、孫社長自身、連日、遅くまで仕事をしているという趣旨の発言もありましたが、創業からずっと突っ走り続けているパワーに驚かされます。
「私はとても幸せだけど、満足はしていない。まだまだやりたいことの数%しかできていない」という孫氏の言葉に、彼の想いが凝縮されているように思いました。
大株主に注目!
筆頭株主は創業者で社長の孫正義氏。それ以外は、個人名や日本企業の名前はなく、株主総会招集通知の情報によれば、44%くらいを外国法人が保有とのこと。取締役にも外国人が多いですし、本当にグローバルカンパニーなのですね。ちなみに、株主数25万人超だそうで、ものすごい株主数です…今年の株主総会には行けますように!
Next: ソフトバンクGの業績メモ/キャッシュフローから妄想できること
ソフトバンクGの業績メモ(百万円未満切捨)
ソフトバンクGの2015年3月期の業績は以下の通り。
売上高8,670,221百万円(8兆6,702億2,100万円、前期30.1%増)
営業利益982,703百万円(9,827億300万円、前期8.8%減)
当期純利益763,682百万円(7,636億8,200万円、前期32.1%増)
総資産21,034,169百万円(21兆341億6,900万円)
資本合計3,853,177百万円(3兆8,531億7,700万円)
自己資本比率約18.3%
執筆時点での時価総額 約7兆3,708億円
<参考>
2015年12月30日時点での日本企業の時価総額ランキング(単位:円)
1位:トヨタ 24,994,925,220,096
2位:三菱UFJ 10,727,239,227,122
3位:NTTドコモ 10,149,057,648,000
4位:NTT 10,138,163,656,920
5位:JT 8,942,000,000,000
6位:KDDI 8,487,069,583,200
7位:日本郵政 8,392,500,000,000
8位:ゆうちょ銀 7,875,000,000,000
9位:ソフトバンク 7,370,853,980,735
10位:ホンダ 7,082,685,161,300
ソフトバンクGのキャッシュフローから妄想できること
営業活動によるキャッシュフロー 1,155,174百万円
投資活動によるキャッシュフロー △1,667,271百万円
財務活動によるキャッシュフロー 1,719,923百万円
キャッシュフローから妄想できることは、
- 営業活動によるキャッシュフローがプラスであることから、本業ビジネスでお金を稼いでいる
- 投資活動によるキャッシュフローがマイナス(△)であることから、投資をしたと推測できる
- 財務活動によるキャッシュフローがプラスであることから、新たな借り入れによる収入があったと推測できる
といったところでしょうか。
なお、ソフトバンクGはIFRS(国際会計基準)適用企業。そのため、決算書上経常利益は計算されることはなく、純資産ではなく資本合計となります。IFRSの適用は、世界的な展開を視野に入れ、外国企業にM&Aを仕掛けていくために必要な選択だったのではないかと推測します。
ところで、ソフトバンクは、M&A資金を借り入れにより調達することが多いと記憶しています。その際、LOB(レバレッジドバイアウト)という手法を使っているものと思います。
LOBとは、買収相手先の資産を担保として借入れを行い、その資金を使って買収先の株式を購入することで、自分達よりも大きな企業を買収することも可能となりますが、返済資金を稼ぎ出すことができなければ返済不能に陥りがちな危険な借り入れになりかねない、とも言えます。
この点、ソフトバンクのこれまでのM&Aの投資利回りは、IRR43%なのだそうで、しっかり稼いで返済を進めているのだと推測できます。IRRとは、内部収益率(ないぶしゅうえきりつ、Internal Rate of Return)のことで、投資額を複利何%相当で運用できたことになるのか、を意味する数値。
これを実現できるとは、企業を見る目があるのだということ。強気の借り入れと驚異的な投資効率。ソフトバンクのM&Aのレベルは高過ぎて怖いです。
今回のお土産
ソフトバンクの株主総会招集通知にはお土産なしと記載されておりましが、実際にはどうだったのでしょうか。もちろん、私はお土産があってもなくても、2016年も色々な企業の株主総会に顔を出す予定です。
さて、次回はどこの株主総会に行くことになるのやら。乞うご期待!
『平林亮子の晴れ時々株主総会』vol.32(2016年1月4日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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ベンチャー企業のコンサルティングを行うかたわら、講演活動やマスコミなどでも活躍。毎月どこかの上場企業の株主総会に個人株主として参加中。