地銀を含む銀行が苦境に立たされている。マイナス金利を続ける国の政策によって3つの壁にぶちあたっており、いよいよ危険なラインまで来ているのだ。(『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』矢口新)
※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』2019年7月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
危ない地銀を避ければ大丈夫?いいえ、日本全体が沈んでいく…
銀行が直面している3つの苦境
週刊ダイヤモンド7月6日号は「銀行危険度ランキング」を特集している。オンライン版にその背景があるので要約してご紹介しようと思ったが、削るところがないほど、良くまとまっていた。地銀を含む、銀行が置かれた苦境がよく理解できる内容だ。
※参考:国を挙げての「ゾンビ銀行」退治の幕が開いた | ゾンビ銀行 全国111行危険度ランキング – ダイヤモンド・オンライン(2019年6月27日配信)
今回は「銀行危険度ランキング」作成にあたって算出したとされる「5指標での総合得点」について解説したい。
まず、銀行が直面している「3つの苦境」の要点を挙げる。
<苦境その1>
最大の要因は「融資事業」という銀行の本業中の本業の不振にある。日本銀行が継続する異次元金融緩和によって超低金利環境が続き、貸出金を急増させても、そこから得られる金利収入が付いてこない。
<苦境その2>
市場運用部門では、債券の運用が低迷。巨額の損失を被った銀行が続出した。一方で、株が右肩上がりの中で持ち合い株などの株の売却益が貢献した。しかし、株の含み益は無尽蔵にあるわけではない。
<苦境その3>
企業倒産が少なく、融資の貸し倒れに備える引当金などの与信コストがこの何年かはほとんどかからなかった。それどころか、引当金が必要なくなって「戻り益」として利益計上できる銀行があったほどだ。とはいえ、景気の曲がり角が意識される中、与信コストも上がってきた。もはやヘソクリ(?)は尽きようとしている。
以下、1つずつ解説する。
1. 銀行の本業「融資事業」が振るわない
日本の政策金利が1%を初めて下回ったのは1995年7月だ。それ以来、1度も1%以上に浮上していない。そして、2016年1月以降は、マイナス金利政策が続いている。
このことは、この24年間、日本経済は金利を上げられる状態にはなかったことを意味している。
とはいえ、この間にも曲がりなりにも景気拡大の局面はあったのだが(実際に安倍首相はいまも戦後最長の経済成長だと誇っている)、日本の金融政策は銀行が金利収入を増やすことを許さなかったのだ。
これは地銀に限ったことではない。大手銀行は過大な海外リスクを取ることで凌いでいる。
24年間は長い。長過ぎる。この期間に多くの銀行が破綻したがまだ序の口で、これからが本番だということだ。
Next: 昔買った株式を売って耐えるしかない銀行、保有株が底を付いたら…
2. 昔買った株式を売って耐えるのみ。株式資産が底を付いたら…
冒頭で紹介した記事では、不慣れな債券運用で大損を出したとされている。
政策金利が1%に満たない超低金利で、動きを止められたなら、債券投資で利益を上げるのは極めて難しい。最も効率的な運用である「波動の山谷を取る」ことをしようにも、鏡のように凪いでしまったなら、やらない方が無難なのだ。
コアとなる国債運用からの利益が見込めない状態で、為替リスクのある外債運用は、過大なリスクを取ることにもなりかねない。
そこで、昔買った株式を売り続けているのが実情だ。私が記録を残している2005年以降、銀行が株式を買い越したのは2006年の1573億円の1度だけ。後は一貫して売り越しだ。
生保も似たような状態で、買い越しは2007年の679億円の1度だけ。株価が上げ始めた2013年などは、1兆円以上も売り越している。もっとも、生保の本業は与信(貸出)ではなく保険なので、銀行ほどには追い詰められていないのだが。
このことが示唆しているのは、超低金利政策が続く限り、金融機関による株売りが続くということだ。
売れるものがあるうちはまだいい。この状態で保有株が底をついたり、大きな値下がりで売れなくなった時には、本当の危機が訪れる。日銀が株式の売り手に回った時は、要注意だ。
またこの状態で、年金だけが上手く運用しているとは考えない方が無難だろう。
3. 企業倒産をぎりぎりで防いできた銀行、支えられなくなったら…
企業倒産が少ないのは、銀行が「ゾンビ企業」を支えてきたためでもある。
その銀行がゾンビとなり、経営統合などで不良資産を整理すれば、ゾンビ企業が成仏することになる。
ゾンビの成仏は経済の将来にはいいことなのだが、生きた人間がゾンビの外に追い出されることになるのが問題だ。
統合銀行と赤字企業から、どれだけの労働力が整理されるのだろうか?
Next: 危ない地銀を避ければ大丈夫? いいえ、日本経済全体が沈んでいく…
自助努力が必要なのは日本政府
これが日本経済の実態だ。危ない地銀を避けていれば、自分は無事だと言うようなものではない。
そして、それを支えるべき日銀は、年間GDPを超えるバランスシートを持ち、マイナス金利政策で、24年間の失敗を取り返そうにも打つ手がない。
さらに、それを支える日本政府は民間以上の大赤字で、それが30年も続き、財政再建や債務返済には民間の資産を当てにするしかない状態だ。日本の対外資産の大きさを喧伝したり、財政赤字は問題ないなどという意見は、すべてそうしたことを示唆している。
日本政府に自助努力する気があるのなら、景気拡大が税収増に結び付く、1989年以前の税制に戻すべきだろう。
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・「銀行は潰す」という、国の政策(7/1)
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『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2019年7月1日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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