与党の勝利に終わった参院選。出口調査によると、全体の自民党得票率35%に対して、20〜30代からの得票率は40%を超えたと言います。これに危機感を覚えます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2019年7月31日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
若者は何を評価?政府の広告塔メディアは真実を伝えていない…
20代・30代は「40%超の支持」
先の参議院選挙では勝敗ラインを非改選も含めて過半数の123と、思い切りハードルを下げた安倍総理。非改選議席は与党で70あったので、改選分では自公で53議席取ればよい、という計算です。
公明が13議席確保するとすれば、自民党は前回選挙から20少ない40議席で良い、という「甘い」目標を掲げていました。。
これだけハードルを下げた背景には、老後に2,000万円必要という年金問題がよほど政府に危機感を煽ったようです。
その割に自民57、公明14、合わせて71議席を取ったことに安倍総理は安ど感を覚え、「若い人たちから多くの支持をいただいたおかげ」と述べています。実際、出口調査によると、全体の自民党得票率35%に対して、20代・30代からの得票率は40%を超えたと言います。
なかでも若い男性に限ると、70%の高い支持になると言います。街頭インタビューでも若い男性からは「安倍さんは言ったことを実行してくれそうだから」と、その実行力に期待する声が聞かれました。
もっとも、全体の投票率は48.8%と低く、その中の35%の票を得たということは、日本全体でみると自民党は6人に1人の票しか得ていないことになります。特に10代の投票率は10%以上も低下し、若手の投票意欲は大きく後退しています。
改憲の信を得たのか
予想以上の勝利に酔いしれている場合ではありません。
特に、改憲発議を可能にする3分の2までもう一息というところまで来たので、国民民主党の玉木代表に接近、彼らを取り込めば改憲論議が進みやすいと見ているようです。
しかし、そもそも公明党を改憲勢力にカウントしているのはどうかと思います。与党には参加していますが、改憲には慎重です。特に9条については。
自民党は今回の選挙戦で、憲法改正を公約の最後に入れ、改憲論議を進める党かそうでない党かの選択と言いましたが、国民は憲法改正の問題だけで自民党を選んだわけではありません。
野党に入れるところがないなど、別の理由で選んだ人も多いはずで、別の世論調査では改憲に賛成は3割程度で、反対のほうが多い状態です。
それと、これまでも当メルマガで述べましたが、憲法は他の法律と異なり、為政者の行動を縛るための法律で、政府の暴挙を防ぐための歯止めにもなります。
従って、国民の側から今のままではまた戦争に誘導されかねないとか、逆に今のままでは防衛ができないと感じれば、国民のほうから声を上げるのが筋で、為政者から憲法が窮屈だから改正したいというのはお門違いです。
議論は結構ですが、おりしも米国から日米安保の不公平、破棄の可能性を示唆されている中で、日米安保、日本の防衛などと一緒に議論をし、国民の判断を仰ぐ必要があります。また在韓米軍に続いて、在日米軍を引き揚げるプランもあると言います。
だとすれば、沖縄の辺野古に基地を作る意味はなくなります。政府自民党にこれらを受け入れて議論する覚悟はあるのでしょうか。
Next: 若者は雇用拡大を評価?政府の広告塔メディアは不都合な事実を伝えない…
不都合は国民に知らせない
若い人が安倍政権を支持する背景に、政府の雇用拡大を評価し、自分も職にありつけた点を挙げる人が少なくありません。
これは否定しませんが、安倍政権は都合の悪いことはあえて国民に伝えない、ないしは隠すようにしています。特に使途を問われない官房機密費をふんだんに使い、メディアをコントロールしています。このため、NHKをはじめ、主要メディアのなかには政府の広告塔になっているものが少なくありません。
つまり、政府に都合の悪いことは報道せず、政府に良いことだけ伝える傾向があり、情報に偏りがあります。
実際、政府は雇用賃金の増加を盛んに強調していますが、雇用創出の過半は「非正規雇用」によるもので、非正規は今や全体の4割近くに達しています。その平均年収は170万円余りで、正社員のおよそ3分の1でしかありません。しかもその多くは会社が社会保険料を負担していません。
社会保険料負担も含めて、企業の人件費負担を軽くするような雇用制度を政府が率先して進めてきました。この結果、職には付けたものの「ワーキング・プアー」をたくさん生み出し、将来の無年金者を大量に排出しています。将来の年金不安を政府自ら作り出している面があります。賃金は統計が操作されていて、実際には実質賃金が何年もマイナスとなっています。
企業は最高益を更新するなど富み、労働者は実質賃金の低下、労働分配率の低下を余儀なくされ、年金の実質減額で高齢者の生活も貧しくなっています。これらは一般メディアが報じません。
外交の失敗、有志連合への参加
世に「外交の安倍」「トランプ氏と話せる唯一の総理」とか持ち上げる声がありますが、現実は異なりそうです。
年間に何度も外遊をし、トランプ大統領とは3か月で3回も会談し、ロシアのプーチン大統領とも数えられないほどの回数、会談しています。
それでいて、日米通商交渉では自動車や農業での米国の厳しい要求を飲まされ、日米安保は米国にとって不公平だと言われっぱなしで、米軍基地の問題や地位協定の不公平など、日本から見た不公平についてはモノが言えない関係のままです。
ロシアからは一向に北方領土問題の交渉が進まず、いまだにロシア国民は「北方領土返還に反対」を貫いています。
韓国とは外交の失敗から、レーダー照射、旧徴用工問題などで「堪忍袋の緒が切れた」として感情的に反韓国ムードを煽っています。中には韓国との国交を断てとの議論まであり、第二次大戦につながった戦前の対中国強硬論と似た面があります。
そのすきを縫って、北朝鮮は短距離ミサイル発射で日韓を揺さぶり、中国ロシア軍も尖閣から日本領空を脅かしています。
米国はホルムズ海峡などでの船舶護衛に、有志連合への参画を日本に求めています。韓国はすでに軍の派遣を決めましたが、日本は自衛隊を派遣し、長年の友好国イランとの交戦も辞さないのか、重大な判断を求められています。
日本の外交はいよいよ危機に直面しています。
Next: 事実を知った若者を何を想うか?伝えないメディアにも責任がある
メディアの責任も重大
政府は不都合な情報は隠蔽し、見た目の「成果」を強調して国民の支持を得た形になり、中でも将来を担う若者が安倍政権を信じ、支持しています。
見た目と現実のギャップの大きさに気づいたときに彼らはどう思うのか。
こんな形で選挙に勝ち、改憲論議を進めても、将来の危険を感じ取れば、国民は憲法改正にも同意できず、改めて政府は行き詰まります。
人事権を握られた政府に忖度する官僚も困りますが、政府に抱き込まれて「不都合な真実」を報じないメディアの責任も重大です。
日本の民主主義を破壊していることに早く気付いてほしいと思います。
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『マンさんの経済あらかると』(2019年7月31日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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