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いまこそ日銀が検討すべき「マイナス金利政策先送り」の選択肢=久保田博幸

イエレン米FRB議長は11日の議会証言で、マイナス金利については検討はしているが、米国の制度に照らし合わせて機能するか考えなければならないと慎重な見方をしている。日銀は果たして、マイナス金利が制度に照らし合わせて機能するかをしっかり調査してマイナス金利政策を決定したのであろうか。(『牛さん熊さんの本日の債券』久保田博幸)

16日から始まるマイナス金利適用は拙速の恐れ、先送りも選択肢

日銀のマイナス金利政策を先取りした株価下落

2月12日の東京株式市場で日経平均は15000円を一時割り込んだ。これはNHKでも臨時ニュースとしてテロップで流された。11日は建国記念日で東京市場は休場となっていたが、この日、海外市場でドル円は一時110円台にまで下落した。

10日の議会証言でFRBのイエレン議長は、中国の経済見通しや為替政策をめぐる不透明感により、世界の成長に対する懸念が増幅され、原油など商品の直近の価格下落につながった、と指摘した。

中国など新興国経済の減速とそれを背景とした原油安は資源国の経済財政を直撃することになり、新興国などからの資金の逆流も意識された結果、リスク回避の動きが強まった。

ここに新たに加わったものが銀行への懸念であった。この背景には欧州でのマイナス金利政策の影響もあった。

スウェーデンのリクスパンクは11日に政策金利を引き下げマイナス0.50%とした。これはECBが3月の理事会で追加緩和を決定する可能性があるため、自国通貨の上昇を抑制するために先んじて利下げを行ったとみられる。

マイナス金利は銀行の利ざやを縮小させ、さらに国債などでの運用がしづらくなる。このため収益力が落ち、石油関連企業への融資などへの懸念も出てくることで、特に欧州の銀行の株価が下落し、欧州の株式市場下落の大きな要因となった。

これは米国の銀行株の下落にも繋がった。

日本でも世界的なリスク回避の動きにより円高株安となった面もあるが、欧米の銀行株の下落と同様に日本の銀行の株も大きく売られたことが、ここにきて株価下落が加速したひとつの要因になっている。

特に地銀の株など大きく売られており、この背景にあるのは16日から開始される日銀のマイナス金利政策の影響を先取りした動きとみられる。

銀行株の動揺があらためてリスク回避の動きを強めさせた結果、日経平均は15000円割れ、ドル円は一時110円台となったとの見方もできよう。

Next: イエレン米FRB議長はマイナス金利に慎重な見方/日銀は?



イエレン米FRB議長はマイナス金利に慎重な見方

イエレン議長は議会証言後の質疑応答で、マイナス金利に関して次のような発言をしていた。

われわれは2010年に、マイナス金利について検討し、緩和促進に向けて上手く機能しないとの結論に至った。すでに実施している欧州諸国などの経験から、われわれはマイナス金利について見直している。なぜなら追加緩和を行う必要が生じた場合に備えておきたいからだ。われわれはまだ評価を終えていない。米国の制度に照らし合わせて機能するか考えなければならない。自動的なものではない。多くの検討事項がある。可能性は排除しないが、機能するかどうか判断するにはやるべきことがある。

イエレン米FRB議長の議会証言要旨(11日) – ロイター

マイナス金利については検討はしているが、米国の制度に照らし合わせて機能するか考えなければならないと慎重な見方をしている。今回の欧州や日本の銀行に与える影響なども評価対象になるとみられる。

いったん16日からのマイナス金利適用を見送る選択肢も

日銀は果たして、マイナス金利が制度に照らし合わせて機能するかをしっかり調査してマイナス金利政策を決定していたのであろうか。決定が5対4と薄氷の評決となったのもその効果に対して疑問をいだく委員が多かったことをうかがわせる。

もしマイナス金利政策の目的が表向きはデフレ懸念の払拭であったとしても、本来の目的が市況対策であったとすれば、完全に裏目に出たことになる。

先日の「マイナス金利政策の功罪」と題する日経新聞の経済教室では、上中下の三部作すべて「罪」に視点が当てられていた。私が5日に書いた同じタイトルのコラムに対しても「罪」がないようですがとの感想をいただいた。

むろん「功」があるとしてECBはマイナス金利を導入して、日銀は16日からマイナス金利の適用を開始する。しかし、結果としての円安株高、さらに債券市場の機能不全への懸念も強まるなか、日銀はいったん16日からのマイナス金利の適用を見送り、3月の金融政策決定会合であらためて導入の可否を検討するという選択肢はないものであろうか。

【関連】個人預金へのマイナス金利適用が「絶対にないとは言い切れない」理由=久保田博幸

牛さん熊さんの本日の債券』2016年2月12日号より
※記事タイトル・リード文・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部による

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