サイバー・バズ<7069>は、9月19日東証マザーズに新規上場しました。同社の株価は、公募価格2,300円に対して初値は+73.91%の4,000円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化)
本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年10月2日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。
初値は公募価格から73.91%上昇の4,000円でスタート
サイバー・バズをジョブ理論の視点からみる
株式会社サイバー・バズ<7069>は、2019年9月19日東証マザーズに新規上場しました。業務内容は、ソーシャルメディアを通した広告やマーケティングです。
同社の株価は、公募価格2,300円に対して初値は4,000円をつけました。差異率は+73.91%と値をあげました。なお、10月1日時点の株価は4,330円です。
クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。
では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。
ビジネスモデルの特徴
同社グループの主要サービスは、以下の6つです。
(1)NINARYは、主にInstagramにおけるインフルエンサーによる広告やマーケティングを行うサービスです。
(2)Ripreは、ソーシャルメディアにおけるインフルエンサーによる広告やマーケティングを行うサービスです。
(3)ポチカムは、ソーシャルメディアの利用者であれば誰もが参加できるモニターサイトを運営しています。
(4)to buyは、インフルエンサーが自身が愛用する商品やサービスを紹介するWebメディアを運営しています。
(5)SNSアカウント運用は、クライアント企業が公式に運用するソーシャルメディアの運用支援を行っています。
(6)インターネット広告代理販売は、ソーシャルメディア関連広告を中心とした広告商品の代理販売を行っています。同社グループは、これらのサービスの対価として、広告主やメディア等から収益を得ます。
ビジネスモデル的にみれば、同社グループのそれは基本的に、未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品──広告やマーケティング・サービスなど──へと変換する価値付加プロセス型事業です。
同社グループは対処すべき課題の一つとして「自社サービスの強化」を、事業等のリスクとして「事業環境に関するリスクについて」「事業の運営体制に関するリスクについて」をあげています。
Next: サイバー・バズが今後、成長するために取り組むべき課題とは?
思考実験──片づけるべき用事とは
『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。
1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。
2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。
3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。
4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。
5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。
出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)
用事の特定
イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。
今回は、同社グループが課題としてあげる「自社サービスの強化」を取り上げます。同社グループはそれを、次のように認識しています。
当社グループでは、ソーシャルメディアマーケティング事業において、「NINARY」「Ripre」「ポチカム」「SNSアカウント運用」「to buy」といった自社サービスの提供に注力しております。
自社サービスとしてのオリジナルの広告商品の展開を行うことで、当社グループでしか提供できない価値をクライアント企業へ提供し、当社グループの競争力を高めることができるものと考えております。また、自社サービスの販売は、他社サービスの代理販売と比較し、利益率の高い商品であるため、事業上及び財務上の改善に繋がります。
ソーシャルメディアマーケティングの特色としては、その技術進歩が非常に早く、新たなマーケティング手法やサービス形態が日々開発されていることが挙げられますが、当社グループでは、クライアントのニーズを満たすインフルエンサーの発掘・拡充・育成、サービスにおける機能充実、利便性の向上を図ることで、「コミュニケーションを価値に変え、世の中を変える。」という当社グループのビジョンの実現に取り組んで参ります。また、自社サービスの強化として、代理店を経由せず、クライアントへ直接販売する販売ルートを強化するとともに、現状のクライアントの多くが属する化粧品及び日用品業界に加え、様々な業界に属するクライアントと幅広く取引できるよう拡大を図って参ります。
ここで着目したいのは「クライアントのニーズを満たすインフルエンサーの発掘・拡充・育成」という記述です。確かに、インフルエンサーはそれなりの影響力があるのは事実です。しかし、ある意味で恵まれた環境にあるインフルエンサーはときには反感を買うことも少なくありません。そうなれば、彼女たちを雇っているクライアントにとってはマイナスです。
インフルエンサーとは正反対の境遇にあって、これまでつらい経験をした人はどうでしょう。一般消費者の共感が得られることはあっても、あざとさがなければ反感を買うことは少ないでしょう。
こういった状況で顧客──クライアントではなく一般消費者──がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「商品やサービスに関する情報を得る」ということ。感情的側面として「素人らしさ(=信頼性)」「不安の軽減」、社会的側面として「共感」を重視するでしょう。
Next: サイバー・バズはクライアントではなく一般消費者目線になるべき
体験の構築
用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。
一般消費者が広告を雇うとする際に障害となり得るのは、いわゆる「やらせ」です。特にソーシャルメディアではそうした傾向がみられます。また、素人らしさに共感したインフルエンサーがスキルを磨いて「プロ」になることも、広告を雇うとする一般消費者にとっては障害となり得ます。
いずれにしても、こうした障害が取り除かれれば、一般消費者は「自分と同じ境遇にある人に共感する」「前に進む」という、いずれもすぐれた体験ができるようになるでしょう。
プロセスの統合
最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。
社内プロセスの統合という意味で同社グループの課題となるのは、「クライアントのニーズを満たすインフルエンサーの発掘・拡充・育成」ではなく「一般消費者の共感が得られる、つらい身の上にある(あった)人の発掘」です。拡充や育成は、逆効果になるので必要ありません。もちろん、やらせを疑われてはいけません。
では、同社グループはこういった人材を発掘するのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。
ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。
・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。
この指摘を踏まえるのであれば、同社グループはリトル・ハイア──広告が見られた回数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。
【参考文献】
・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』 (碩学舎ビジネス双書)
・有価証券届出書(新規公開時)
本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年10月2日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
image by: Cristian Dina / Shutterstock.com
『イノベーションの理論でみる業界の変化』(2019年10月2日号)より一部抜粋
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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。