セブン-イレブンが約1,000店舗を閉鎖すると発表しました。さぞ業績が悪いのかと思いきや、増収増益が続いていて、業績改善のためではないことがわかります。その根本にはフランチャイズシステムの難しさがありました。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
絶対に本部は損をしない? オーナーだけが苦しいコンビニ経営
業績好調なのに店舗閉鎖?問題は人手不足にあり
10月10日、セブン-イレブンは不採算店約1,000店舗を閉鎖または移転すると発表しました。
セブン&アイ・ホールディングスは10月10日、傘下のセブン-イレブン・ジャパンで不採算店の閉鎖を加速すると発表した。2019年下期以降、約1000店舗を閉鎖または移転する。
出典:セブンイレブン、1000店舗を閉鎖・移転、既存店の収益力を強化 – ダイヤモンド・チェーンストアオンライン(2019年10月11日配信)
「不採算店の閉鎖を加速」となっていることから、業績改善が図られているように思えます。
しかし、決算では必ずしも業績は悪化していません。2019年2月期の国内コンビニエンスストア事業は増収増益、直近の第2四半期も増収増益が継続しています。数字だけ見るとどちらかと言えば好調なのです。
一方で、問題となっているのが人手不足です。現場の人手不足は深刻で、本部の方針に反し24時間営業を取りやめる店舗も現れました。本部でも、24時間営業を行わない「実証実験」が行われています。
この人手不足問題こそが、店舗を閉鎖しなければならない理由になっているのです。その現実は、フランチャイズの仕組みを見るとよくわかります。
深夜におにぎり1個でも売れれば本部は儲かる
フランチャイズに加盟すると、個人事業主であるオーナーはセブン-イレブンの店舗を開くことができます。その代わりに、本部に対して「ロイヤリティ」を支払わなければなりません。
ロイヤリティは、各店舗における「売上総利益(粗利益)」に対する比率で計算されます。数字は公表されていませんが、他社の水準等から推測すると60%程度とみられます。
例えば、100円のおにぎりの原価が60円だとしたら、売上総利益は40円です。ロイヤリティはこの60%ですから、24円がロイヤリティ、残りの16円がオーナーの取り分ということになります。
ただし、問題はロイヤリティの基準が売上「総」利益であることです。ここにはバイトなどの人件費は考慮されません。おにぎりの例で言えば、オーナーは残りの16円からさらに人件費を捻出しなければならないのです。
裏を返せば、本部はいくら人件費が高騰しようと、受け取るロイヤリティに変化はありません。極端な話、深夜営業をして人件費がどれだけかかったとしても、その間におにぎり1個でも売れれば、本部としては懐をまったく痛めることなく「利益」を出すことができるのです。
フランチャイズの仕組みとは、本部が損をしないようにできているのです。
もちろん、こうなるとオーナー側は大赤字です。だからこそ、24時間営業に反対するオーナーが出てくるのです。これは間違いなく、本部とオーナーの間に生じる利益相反と言えます。
Next: オーナーの手取りは月26万円!? フランチャイズの実情
オーナーの手取りは月26万円!? フランチャイズの実情
それでは、実際に店舗の月間収支がどのようになっているか推定してみましょう。
開示資料によると、セブン-イレブンの日販(1日あたりの売上高)は平均65.6万円です。1ヶ月を30日としたときの売上高は1,968万円となります。これだけ見ると「めっちゃ儲かってるじゃん」という気になりますね。
しかし、これはあくまで売上高です。商品には原価がかかります。原価率はおよそ70%と言われ、1ヶ月の売上高を2,000万円とすると、1,400万円が原価となり、残りの600万円が「売上高総利益」です。
以下のサイトを参考にすると、売上高総利益が600万円なら、ロイヤリティが384万円(平均64%)、オーナーの取り分が216万円となります。
※参考:大手コンビニ3社の加盟料・ロイヤリティ徹底比較 – フランチャイズ007
無事オーナーにも216万円が残り、めでたしめでたし……とはいきません。ここから、オーナーにとって鬼門となる人件費を支払わなければならないのです。
バイトの時給を1,000円としましょう。2人体制で24時間回したとして、1日あたりの人件費は4.8万円、30日間で144万円となります。これで、オーナーに残る金額は72万円となりました。
まだ終わりません。オーナーは売れ残って賞味期限が切れた食品などの廃棄を負担しなければなりません。これがおよそ40万円とします。さらに、24時間営業の電気代も馬鹿にならず、約30万円(うち8割は本部負担)かかるとされます。
さて、オーナーには最終的にいくら残ったかというと、
72 – 40 -( 30 × 20% )= 26万円
何とオーナーの月収は26万円という計算になります!仮にも「経営者」とされる人が、わずかこれだけの金額で働いているのです。普通の会社員と比較してまったく割に合わないことがわかります。
コンビニのフランチャイズオーナーになろうとしている人は、これを読んでじっくり考え直したほうが良いでしょう。
深夜の人手不足を担っているのは「オーナー」
都市部ではアルバイトの時給が高騰しています。
上記試算では時給を1,000円としましたが、これが1,100円になったとすれば、毎月の人件費は14.4万円上昇します。すると、オーナーの利益は11.6万円という、大卒初任給すら下回る結果となってしまいました!
この結果を見れば、人件費の高騰がいかに深刻で、オーナーがいかに苦しんでいるか、おわかりいただけるでしょう。
現実としては、バイトの時給を上げても人が集まらないので、オーナー自ら店頭に立って働いていると想定されます。
例えば、1日8時間店頭に立てば、時給1,000円換算でも月間24万円の人件費が浮きます。これはそのままオーナーの利益になるのです。
このように、多くのオーナーは自ら店頭に立って働くことによって生計を立てているのです。もっとも、それなら自らコンビニのバイトをするのと変わりません。
金額もさることながら、深夜に店頭に立つのは身体的に辛いものがあります。近所のセブン-イレブンオーナーのおじさんも、朝方口調がおぼつかない感じでレジに入っています。
だからと言って、バイトに深夜勤務を無理強いするのも時代の流れに反しています。私も大学時代にコンビニでバイトしていたときは深夜勤務を強く要望されました。結局それが嫌で辞めたということもあり、人のいいオーナーほど自ら泥をかぶることになるでしょう。
24時間営業をやめることは、何よりオーナーにとっての働き方改革に他ならないのです。
Next: オーナーだけが苦しいコンビニ経営。本部は「システム」の再構築を
本部は「システム」を再構築しなければならない
セブン-イレブンの本部はどうすべきでしょうか。
単純に利益だけを考えれば、このまま24時間営業を何としてでも続けさせ、コンビニの数も増やし続ける必要があります。少しでも売上が増えるようならそれは全て利益に直結するからです。
しかし、あまりにオーナーをないがしろにし続けると、反旗を翻す人は日ごとに増えていくでしょう。もし裁判となり、本部に不利な判決となればビジネスモデルに穴があきかねません。
今回1,000店を閉鎖するのは、予防措置でしょう。不採算店のオーナーほど不満を抱きやすいでしょうから、これを機に「閉店」してもらえば、不満分子を取り除けるということになります。
ただし、これは対症療法にすぎないと思います。人件費高騰は全てのオーナーを苦しめていて、そこから逃れるためにはロイヤリティか人件費を下げることが最も効果的です。
ロイヤリティを下げることは、そのまま本部の減収につながりますから、簡単には受け入れられないでしょう。そうなると、人件費を削る策を考えなければなりません。
現在も実験を行っているようですが、省人化店舗の導入はその解決策になります。ユニクロで使用が始まったRFIDタグによる無人レジやAI監視カメラによって1人体制が可能になれば、人件費が相当抑えられるはずです。
※参考:ユニクロのセルフレジを体験し、その圧倒的優位性に驚く – GASKET(2019年7月1日配信)
本部としても、これらを加盟店に売れば、自らの利益にもつながります。まさにWin-Winの関係になるのです。
フランチャイズは本来「システム」を加盟店に売ることで利益をあげる仕組みです。すなわち、本当の「顧客」は「オーナー」ということになります。今、そのシステムに大きなほころびが見えています。これを根本的に解決しない限り、次の成長に踏み出すことは難しいでしょう。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年10月24日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。