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トヨタ頼みの日本経済に警鐘。加速する業界再編で下請け企業ほかあらゆる産業が沈む?=斎藤満

日本経済において自動車が占める地位は極めて大きい。鉄鋼も電気も化学も自動車に関わる部分が大きく、さらに下請け企業まで広げると「自動車がこければ皆こける」ことにもなりかねない。その自動車業界で提携再編が急ピッチで進んでいる。自動車依存の日本経済では将来は危うい。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

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※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2019年12月11日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

下請け企業は生き残れない?自動車依存型の日本はかなり危うい

生き残りをかけ、提携再編が急ピッチ

トヨタ自動車だけで2兆円もの最終利益を上げる自動車業界。一見好業績のように見えて、世界中で業界再編が急ピッチで進んでいます。

好調のトヨタ自体、2017年にマツダと資本提携し、その後もスズキと資本提携し、スバルにも追加出資しています。今や日本の自動車業界は、独立系のホンダ日産三菱と、このトヨタグループの3つに集約されつつあります。

海外でも再編が進み、すでにVW(フォルクス・ワーゲン)は、ポルシェ、アウディ、ベントレーなどを抱えています。そしてフィアット・クライスラーは、フランスのプジョー・シトロエン・グループと経営統合で基本合意しました。

従来、技術面での共有が難しく、提携合併になじまない、とされた自動車業界で、にわかに再編が進んでいます。それも急ピッチで。

トヨタ自動車の豊田社長は、これだけ積極的に再編に動いていながら、それでも「我々にはまだ危機感が足りない」とこぼしています。

業界を巡る環境は急速に変わろうとしているためです。

自動車は高すぎる?

自動車業界に転機をもたらしている要因は、大きく分けて2つあります。

1つは、自動車の価格が所得対比で割高になっていること。もう1つが、EV(電気自動車)化と自動運転化の進展です。そして、この2つは密接にリンクしています。

自動車業界と家電業界は「対称的」です。自動車業界はひたすら「値上げの歴史」で来たのに対し、家電業界はひたすら「値下げの歴史」でした。

このため、両業界での主力商品間の相対価格は大きく変わりました。

例えば、25年ほど前に見られた大型液晶テレビやプラズマテレビは、40インチ程度の価格が1台70万円前後しました。当時のトヨタの主力、カムリは200万円強でしたから、車は薄型テレビの価格の3倍ほどでした。

ところが現在、液晶テレビは30インチ以上でも現在4万円前後に低下した一方、トヨタのカムリは1台400万円前後になっています。25年程度の間に、車の値段はテレビの3倍から100倍に上昇しています

所得対比でも、かつてのカムリは、サラリーマンの年収の半分くらいでしたが、現在のカムリは、非正規労働者の年収の2倍以上、年金の平均受給額の1.5倍、正規雇用の年収の8割近くになります。

年金世帯が全体の5割を超え、非正規雇用が雇用全体の4割近くを占めるなかで、自動車を購入できる購買層は限られてきました

車を買って維持費を払うことは難しく、自動車を利用するなら、シェアで、という人が増えています。

Next: 下請け企業は生き残れない?値上げの歴史から「値下げ」の電気型へ



値上げの歴史から「値下げ」の電気型へ

もう1つの要因が、ガソリン車から電気自動車にシフトする動きが広がり、各社とも自動運転技術の開発に余念がありません。

ガソリン・エンジン車と電気自動車とでは構造、部品数、コストが大きく異なり、さらに自動車業界とともにある部品業界の「縦割り型」の関係も大きく変わることになります。現在、デンソーアイシンはトヨタの系列ですが、電気自動車になるとこうした系列が崩れます。

もともとトヨタのエンジンと、「中島飛行機」由来のスバルのエンジンや、マツダのかつてのロータリーエンジンは、まったく技術の基盤が異なるもので、これらの企業が一緒になることは考えられないものでした。

ところが、電気自動車主体となれば、モーターもバッテリーも共有できるようになり、規模の経済が働いてコストダウンが可能となります。

しかも、自動運転技術が進み、車はただの移動手段で、運転することよりも車内でネットを楽しんだり、飲食をするスペースに変わる可能性があり、「移動するだけの箱」は安いに越したことはなく、コストダウンによる低価格化は重要な要素になります。

自動車は「輸送機械」から「電気機械」に変貌し、これまでの「値上げの歴史」業界から「値下げの歴史」業界に変わることになります。

下請け企業は生き残れない?

当然、下請け企業も変わります。

モーターやバッテリーの主な供給者は中国にとってかわられる可能性があり、現在の自動車部品メーカー、下請け企業は、系列を離れて全方位の取引に変える必要が出てきます。

それも中国や東南アジア企業とのし烈な競争にさらされ、廃業に追い込まれるところも多数出てくると見られます。

電気自動車になると、長年自動車業界をリードしてきた企業(GMやトヨタなど)でなくとも、電気通信企業でも作れます

中国でも後発のメーカーが電気自動車やバッテリーの生産分野で急速に台頭しています。日本の地方都市ではすでに中国の電気自動車バスが走っています。

ガソリン自動車の技術の蓄積はなくとも、車が作れる時代になりました。

Next: 自動車依存型の日本経済に警鐘。このままでは一緒に沈んでいく



変化する自動車業界の収益構造

自動車業界の収益構造は大きく変わります。

運転を楽しみたいというユーザー向けの自動車は残るでしょうが、利益に貢献するほどの市場シェアはなくなります。

主流は単純な動力構造のEVになり、そのマージンは限られます。数をこなすための「市場シェア」が重要になります。

現在の急ピッチでの業界再編は、この流れを先取りしたものと考えられます。

自動車依存型の日本経済に警鐘

現在、日本経済において自動車が占める地位は極めて大きくなっています。

製造業のなかで2割を占めると言いますが、鉄鋼も電気も化学も、自動車に関わる部分が大きく、さらに下請け企業まで広げると、「自動車がこければ皆こける」ことにもなりかねません。

そして、それぞれの自動車企業が、企業城下町を形成しています。

しかし、これが電気自動車化し、自動運転車が主流になってくると、産業ピラミッドは大きく崩れ、横に水平展開する生産構造になります。

愛知県、広島県などの「自動車の町」は大きく変貌します。

モーターとバッテリーと通信技術があれば、誰がどこでも車を作れるようになります。日立が自動車メーカーになるかもしれません。

自動車業界の競争は激化

その分、自動車業界の競争は内外ともに激しくなり、競争の中でマージンは縮小し、利益率は低下しやすくなります。

昨年の自動車生産のシェアをみると、VWがトップで、僅差で日産・ルノー、トヨタが続き、いずれも1,000万台強の生産をしています。その後にGM、現代自動車、フォード、ホンダが続きますが、この構図が大きく変わる可能性があります。

中国インドなど、コストの安いところが優位に立ち、経営統合など業界再編で寡占化が進み、規模の利益でコストダウンできるところがシェアを拡大する可能性もあります。

あとは居住性、移動体としての機能、安全性で客を引き寄せる企業が生き残ります。もはや年収を超える高価な車は例外的で特別な車となり、主体は大量生産に耐える低価格モデルになります。

Next: 日本は生き残れるか? 自動車業界は激動の時代に突入した



自動車業界は激動の時代に突入した

今後10年くらいで自動車業界はEV中心で様変わりとなり、車は住宅と家電の機能も備えた新たな移動体として、しかも非正規雇用や年金生活者にも受け入れられる、低価格化も求められます。

エネルギーも化石燃料から電気にシフトし、自然エネルギーへの転換も可能になります。バッテリーの素材も多様化し、小型で走行距離の延長も試されます。

自動車業界にとっては生き残りをかけた激動の時代となりますが、多くの素材メーカー、情報通信会社には、EV向けの新たな市場の開発が期待できます。

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マンさんの経済あらかると』(2019年12月11日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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