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新規上場の恵和は、ワークマンで注目高まるアウトドア用新素材開発でさらなる成長へ?

恵和<4251>は、2019年10月30日東証2部に新規上場しました。同社の株価は、公募価格770円に対して初値は+33.25%の1,026円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化

本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月7日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。

初値は公募価格から33.25%上昇し、1,026円でスタート

恵和をジョブ理論の視点からみる

恵和株式会社<4251>(以下、同社)は、2019年10月30日東証2部に新規上場しました。業務内容は、光学シートおよび包装・産業資材の開発・製造・販売です。

同社の株価は、公募価格770円に対して初値は1,026円をつけました。差異率は+33.25%と値をあげました。なお、1月6日時点の株価は2,329円です。

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。

では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社グループは、光学シート事業および機能製品事業の2つの事業を展開しています。光学シート事業は、国内外の顧客企業に対し、スマートフォンなどの液晶ディスプレイに利用される光拡散フィルム等の光学シート部材を販売し、その対価として収益を得ます。

機能製品事業は、国内外の顧客企業に対し、防湿性・耐熱性・耐久性・対候性等の特定の機能を付加した包装資材、産業資材を販売し、その対価として収益を得ます。

ビジネスモデル的にみれば、いずれの事業のそれも、未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品(光学シート部材や包装・産業資材)へと変換する価値付加プロセス型事業です。

同社グループは、対処すべき課題の一つとして「新規事業の創出」を、事業等のリスクとして「販売価格の変動」「原材料等価格の変動」「為替相場の変動」「有利子負債比率と金利変動」等をあげています。

Next: 恵和が今後、成長するために取り組むべき課題とは?



思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。

2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。

3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。

4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。

5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社グループが課題とする「新規事業の創出」を取りあげます。同社グループはそれを、次のように認識しています。

光学シート事業では、機能製品事業で培った技術やノウハウを応用し、他分野での新製品開発及び新顧客の獲得により、既存事業の市場環境等に左右されにくい事業の創出を進めてまいります。機能製品事業は、既存顧客との関係性をさらに強化し、その中で新たな販路や製品開発をすることにより、新規事業を見出してまいります。

ここで着目したいのは、同社が有するラミネーティング技術とコーティング技術です。同社グループの説明によれば、ラミネーティング技術は「プラスチックフィルム、紙、合成樹脂等を積層する技術であります」、コーティング技術は「シート状の基材にコート剤を塗布する技術であります」。これとつなぐのは、アウトドア。つまり、ウエアやテントなどのアウトドア商品への応用です。

こういった状況でウエアを雇うとする顧客がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「暑さ寒さから身を守る」ということ。感情的側面として「品質」「バラエティ」「デザインや美観」「コスト削減」、社会的側面として「流行」といったことを重視するでしょう。

なお、同社グループは、現状を次のように認識しています。

当社グループは、売上高の多くを輸出により得ている関係上、グローバル経済の状況が当社グループの財政状態及び経営成績に大きな影響を与えます。特に為替相場の変動、大きなマーケットとなった中国の国内経済の動向、成長する海外競合メーカーへの対応等多くの課題が存在します。

Next: 恵和がすべきは、アウトドア用ウエアに適した素材の開発



体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

顧客がアウトドア用ウエアを雇うとする際に障害となり得るのは、一つには、長い間屋外で使っているうちにウエアが変形、変色、劣化等の変質を起こすことです。その点、同社グループは、対候性の機能を付加した包装資材、産業資材を開発するノウハウを有しています。これを、ウエアなどの素材開発に応用すればいいのです。

いずれにしても、こうした障害が取り除かれれば、顧客は「手頃な価格で高機能なアウトドア用のウエアやテントなどを長い間使い続ける」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

同社グループにとって、新たな販路の開拓の一つとして、アウトドア向けの衣料を扱う新型店「ワークマンプラス」の展開を加速させているワークマンがいいかもしれません。その際、顧客の指名買いを促すという意味でも、「ゴアテックス」のように登録商標を取得して商品にタグをつけることは得策となり得ます。

では、同社グループがこうした新規事業に取り組むのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社グループはリトル・ハイア「顧客が同社グループのウエアを着た回数」を業績の評価基準とするのが得策だということになります。なお、同社グループの商品にゴアテックスのようにタグがついていれば、定点観測である程度はリトル・ハイアを確認することはできます。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
快走ワークマン株、「プラス」大ヒットゆえの悩み‐日本経済新聞(2019年12月30日公開)
ワークマンの新型店「プラス」 創業の群馬で展開加速‐日本経済新聞(2019年11月14日公開)
・TBS「がっちりマンデー」(2019年5月12日放送)
・Wikipedia(耐候性)
・Wikipedia(ゴアテックス)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月7日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

image by:Jacob Lund / Shutterstock.com

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2020年1月7日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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