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「トランプの独断」は嘘? 日本では報道されないイラン情勢の真実と次なる標的=高島康司

ソレイマニ司令官の殺害について、日本では「気まぐれなトランプの独断」であるかのような報道が多い。果たしてそうだろうか。報道されない真実を解説したい。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)

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※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2020年1月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

本当に気まぐれなトランプの独断か?事前に存在していた計画とは

イランとの全面戦争になるのか?

「イラン革命防衛隊」、「コッズ軍」のソレイマニ司令官が米軍のドローンによって、バグダッド国際空港近くで攻撃され、殺害された。これに対して怒ったイランは、かならず報復すると宣言した。中東にあるすべての米軍施設が攻撃対象になる可能性もある。

情勢は緊張した。もしこれに対して、イランを標的にしたアメリカの本格的な報復攻撃があれば、大規模な戦争に突入する可能性もある。さらに、イラン系シーア派の民兵組織、「ヒズボラ」は、もしアメリカの報復があれば、イスラエルも標的にするとしている。

そして1月8日、報復は行われた。イラク北西部の「アイン・アサド基地」と「エブリル基地」という2つの有志連合の基地に対し、イランから22発のミサイル攻撃があった。同基地にはイラク軍のほか、米軍も駐留している。

しかし、米兵のみならず、イラク軍や有志連合の兵士にも死者は出ていない。「イラン革命防衛隊」は22発の短距離ミサイルを発射し、17発が「アイン・アサド基地」、5発が「エブリル基地」を標的にした。だが、17発は着弾したものの不発だったか、または標的に到達する前に落下した。「エブリル基地」を標的にした5発だけが爆発した。

一方、2つの基地は空軍基地なので迎撃システムが配備されている。だが、それが作動し、ミサイルを迎撃した形跡がない。人員は早期警戒システムの警告で数時間前には避難していた。

全面戦争を回避したいイランとアメリカの絶妙な共同作業?

もしこの攻撃に対して、アメリカが規模の大きい報復攻撃を行うと、泥沼の報復の連鎖になる可能性があり緊張したが、危機はぎりぎりで回避された。

日本時間の9日早朝、米トランプ大統領はホワイトハウスで声明を発表し、軍事的な報復はしないことを明言した。厳しい経済制裁を発動して、報復するとした。またイランに「IS」の掃討での共闘を呼びかけ、歩み寄る姿勢をも見せた。

このように。イランとアメリカが衝突する危機は当面は回避された。

イランの報復は、一切の死者が出ないように意図的に調整されたものであり、また攻撃の標的になったアメリカも、あえてミサイルを迎撃せずに報復を成功させ、イランの面目を立てた可能性が高い。

全面戦争を回避したいイランとアメリカの絶妙な共同作業であった可能性は否定できない。

しかし、そうではあっても依然として情勢は緊張している。イランや親イラン系の武装組織から新たな報復があるかもしれない。

Next: 日本では報道されていない事実、ソレイマニ司令官とは何者か?



経緯の確認

情勢が複雑になっているので、状況を理解するために、これまでの経緯を簡単に整理しよう。

昨年の12月27日、イラク北部キルクークで、イラク軍の基地のロケット弾による攻撃があり、民間の契約業者のアメリカ人1人が死亡し、アメリカとイラクの複数の軍人が負傷した。

12月29日、アメリカはこれの報復として、イラクとシリアでイランを後ろ盾として活動するシーア派組織、「カタイブ・ヒズボラ」の拠点5カ所を空爆した。25名程度の死者が出た。

12月31日、この報復に抗議し、イラクの首都バグダッドで米大使館の敷地内に群衆が乱入する事件が発生した。米大使館の警備員が催涙ガスや銃を使用し、抗議活動は直ちに沈静化したが、数十人は大使館周辺に設置したテントに立てこもった。

これに対してエスパー米国防長官は、約750名の米軍部隊を同地域に「直ちに展開する」との声明を出した。派遣される部隊は、即応部隊である第82空挺師団の一部であるという。

そして、2020年1月3日、イラン国外で特殊作戦に従事する「コッズ部隊」の司令官、ソレイマニ将軍が暗殺された。

ソレイマニ司令官は車列でバグダード国際空港そばを走行中に米軍の無人攻撃機の「MQ-9 リーパー」による攻撃を受け、「カタイブ・ヒズボラ」の最高指導者であり、シーア派武装民兵組織の「人民動員隊(PMF)」の副司令官でもあったアブー・マフディー・アル=ムハンディスを含む4人とともに死亡した。

ソレイマニ司令官は、シリアやイラクに展開する多くの親イラン系武装勢力を全面的に統括する「イラン革命防衛隊」、「コッズ軍」の司令官だ。少将である。イランでは「イランのチェ・ゲバラ」として尊敬され、人気が非常に高い。そのためソレイマニ司令官の死は、アメリカへの報復を誓う大きなうねりをイラン国内に作り出した。

ハメネイ師をはじめイランの最高指導部は、30カ所以上の米軍事施設に対して攻撃を実施すると宣言した。これに対してトランプ大統領は、アメリカはイランの文化施設を含めた52カ所を攻撃すると反応した。するとさらにイランは、300カ所を攻撃すると声明し、これから報復の連鎖が続くことを示唆した。

そして1月8日、イラク北西部にある2つの有志連合基地への「イラン革命防衛隊」による攻撃になった。これに対し、トランプ政権がどのように反応するのか関心が集まった。

また1月5日に招集されたイラク議会は、同国に駐留する米軍やその他の外国部隊の撤退を求める決議を可決した。トランプ政権は撤退はしないとしているが、これが実現した場合、アメリカは中東における重要な軍事拠点を失うことになる。

報道されていない事実、ソレイマニ司令官とは?

これが、日本や欧米の主要メディアで報道されている内容だ。しかし、報道されていない情報があまりに多いのも事実だ。

まずソレイマニ司令官殺害の理由だが、欧米や日本の報道では、ソレイマニ司令官がイラク国内の米軍基地や関連施設の一斉攻撃を計画していたからだとしている。その可能性は否定できないものの、それとは異なる情報も多い。

1月8日、イラクのマハディ首相は、1月3日の午前にバクダッドでソレイマニ司令官と会談する予定になっていたことを明かした。マハディ首相によると、イラクはトランプ政権の要請によって、イランとサウジアラビアの緊張緩和に向けた対話を仲介していたという。サウジアラビアからイランになんらかの働きかけがあり、ソレイマニ司令官はそれに対するイラン政府の返答をマハディ首相に伝えるために、バクダッドを訪問した。

ソレイマニ司令官はこのような外交的な役割を担っていたため、イラン政府が発行する外交官用のパスポートでイラクに入国した。アメリカがイランとサウジアラビアの緊張緩和を働きかけたにもかかわらず。

トランプはそれを知ってか知らずかこれを無視し、ソレイマニ司令官を殺害した。

アメリカのポンペオ国務長官はこれを完全否定したものの、マハディ首相が明かにしたこうした経緯は、イラン国民の怒りにさらに油を注ぐ結果になった。

それというのも、ソレイマニ司令官が外交官用のパスポートを携帯し、イラン政府の文書を携えていたとするなら、ソレイマニ司令官はイラン政府の正式な代表として活動していたことになる。

そうした人物を殺害したことは、国家としてのイランに対する最大限の屈辱であることになる。

Next: 本当に気まぐれなトランプの独断か?事前に存在していた計画とは



気まぐれなトランプの独断

もしこうした情報が事実であるなら、これは日本や欧米の報道を確証することにもなる。

それらの報道では、今回のソレイマニ司令官の殺害は、側近や国防総省の強い反対を押し切って、トランプが独断で決定したとされている。経緯をまったく知らないトランプの気まぐれの決定だったことになる。

ブッシュとオバマ政権の過去20年間、ソレイマニ司令官の殺害計画は存在していた。しかし、どの政権もソレイマニ殺害が引き起こす報復の連鎖と、それによって中東が制御不能な混乱に陥ることを恐れ、殺害が断念された人物である。

またオバマ政権からは、「国民動員隊(PMF)」などソレイマニ司令官の指揮下にあるシーア派系武装民兵組織はイラクから「IS」を掃討する作戦では非常に大きな力を発揮し、やはり「IS」の掃討を行っているアメリカを中心とした有志連合とは共闘する関係にあった。アメリカから見てソレイマニ司令官は、明白な敵とは言い難い存在であった。これもソレイマニ司令官の殺害が実行されない理由のひとつだった。

しかし、気まぐれで即物的に反応するトランプは、こうした背景をすべて無視し、殺害の影響を一切考慮することなく実行してまった。要するに今回の殺害は、トランプが周囲の反対を押し切って実行した気まぐれの決断だった、という報道だ。

事前に存在していた計画

しかし、最初の出来事が起こる20日近く前の昨年の12月9日、イランとの戦争が近いとする情報が方々からあった。

そのひとつは、イギリスの元外交官で、いまは中東専門の調査ジャーナリストとして活躍しているアラスティア・クルックの記事である。

それによると、昨年の11月末に米国防総省の高官がイスラエルを訪れ、「アメリカーイスラエル安全保障条約」の締結に向けて、合意したとのことだった。この条約は以前から提案されていたものの、アメリカとイスラエルの両国で、双方の戦争に巻き込まれる可能性が高いとして反対意見が多かったものだ。

だが今回は、ある条件を加えることで安全保障条約の締結が合意されたという。

その条件とは、安全保障条約の適用範囲をイランに限定するというものだ。つまり、イスラエルかアメリカのどちらかがイランの攻撃を受けた場合、一方の国もイラン攻撃に共同で対処するということだ。

こうした内容の「アメリカーイスラエル安全保障条約」の締結に向けて動き出したことは、ロイターなどの主要メディアの報道でも確認できる。そして、昨年の12月4日から5日にかけてポンペオ国務長官はポルトガルの首都、リスボンでネタニヤフ首相と会談を行い、「アメリカーイスラエル安全保障条約」の締結を目指することで合意したという。

アラスティア・クルックの記事では、ネタニヤフ首相の側近の1人が「これはイランを攻撃する絶好の機会となる」と発言したことを紹介し、半年以内にイランとの戦争が始まる可能性が非常に高いとして、注意を喚起した。

Next: 失敗した政権転覆とイランの体制転換。戦争したいのは誰なのか?



失敗した政権転覆とイランの体制転換

もし今回のソレイマニ司令官の殺害でイラン攻撃が始まるとすれば、それは気まぐれなトランプの後先考えない決定が原因ではなく、事前に存在してい計画を実行したことになる。

それではなぜいまの時期に、こうした計画が実行されたのだろうか?

上のアラスティア・クルックの記事によると、イスラエルの関係筋の情報として、それはイランの体制転換の計画が失敗したからだという。

イスラエルはかなり以前からイランの体制転換を計画し、そのための要員を養成し訓練していた。このいわば体制転換のためのクーデターは、今年の春ころに実行される予定だった。

しかし昨年の11月、イラン政府がガソリン価格を2倍に引き上げたことに反発して、イラン全土で広範囲の抗議運動が起こった。イランでは2009年以来何度か激しい抗議運動が起こっているが、それはテヘランなどの大都市圏の中間層に限定され、地方の抵所得層はむしろイランの現体制を支持していた。

ところが今回は、地方の低所得層を含めた全国的な抗議運動に拡大した。これをイランの体制転換を実現する絶好の機会と捉えたイスラエルは、計画を前倒しして、準備が十分に整わないまま、体制転換のための行動を開始した。抗議運動の暴力化を扇動し、それを利用して全国的に反政府運動を拡大させる計画だった。

しかし、計算通りには進まなかった。ガソリン価格の上昇への抗議として始まった運動は、基本的の平和的なものであり、暴力化することなく、11月中には終結する方向に向かった。

体制転換を目的に活動していたイスラエルは、いわば梯子を外された格好になった。その結果、自分たちだけで体制転換の反政府運動を引き起こそうと、一か八かの破壊的な賭けに出た。

しかし、平和的なデモの後に始まった新たな暴力的な反政府運動はイラン治安部隊の標的となり、徹底して鎮圧され、大勢の死傷者が出た。イスラエルが計画したイランの体制転換は完全に失敗した。

「アメリカーイスラエル安全保障条約」がテコ

これが、調査ジャーナリストのアラスティア・クルックや、ブラジルの著名なジャーナリスト、ペペ・エスコバルなどの人々がイスラエルの関係筋から得た情報として紹介しているものである。

そして、この計画が失敗したイスラエルは、「アメリカーイスラエル安全保障条約」の締結をテコにして、アメリカを引き込んでイランと戦争状態になり、イランの本格的な体制転換を実施するという方向に転換した。

すでに前述のアラスティア・クルックの記事が出た12月9日の段階で、ネタニヤフ首相側近の関係筋の話として、今後半年以内に戦争が始まるとしていた。その後に掲載されたアラスティア・クルックとペペ・エスコバルの対談では、イラン戦争が迫っている可能性が高いとしていた。

だが、イランとの戦争が始まれば、かつてのイラク侵略戦争以上の泥沼になる可能性は大きい。

しかし、「アメリカーイスラエル安全保障条約」を推進しているイスラエルと米国防総省の強硬派は、そのようには考えてはいない。イラン国内にある8カ所の核関連施設、及び軍事施設を、地下まで届く爆弾、「バンカーバスター」で攻撃すればイランは軍事的に無力化できると見ているようだ。かなり簡単に考えている。

もちろん、このように簡単にことが進むとは到底考えられないが、「アメリカーイスラエル安全保障条約」をテコにしながら戦争を始める計画は、実際に存在しているようだ。

ということでは、この条約が締結されると、イスラエルは自国の軍事施設を自作自演で攻撃し、これをイランの仕業として攻撃を始めることも考えられる。この条約の元では、アメリカも自動的にこの戦争に引き込まれる。

将来このようなことが、本当に起こるのかもしれない。

Next: トランプの気まぐれじゃなかったソレイマニ司令官殺害、今後の展開は?



ソレイマニ司令官の殺害の意味と今後の動き

さて、このように見ると、「イラン革命防衛隊」、「コッズ軍」のソレイマニ司令官の殺害は国防総省の反対を押し切って、事情を知らない気まぐれなトランプが勝手に下した決定という、日本や欧米の主要メディアの報道とは、かなり異なっている可能性が高い。

12月初旬に出たアラスティア・クルックやペペ・エスコバルなどの記事が事実だとすれば、イランとの戦争はすでに計画されていたと見た方が妥当だ。

すると、ソレイマニ司令官の殺害は、戦争に向かう最初のスイッチだった可能性が高い。

ただ、おそらく今回のスイッチは全面戦争を意図したものではないだろう。もし全面戦争が目標なら、トランプ政権はイランの報復に対して、大規模に報復して、一気に戦争へと突入していたはずだ。

そうではなく、今回のソレイマニ司令官の殺害は、イランとの緊張を最大限に高めるねらいがあったと思われる。司令官の殺害で、イランとアメリカ、そしてイスラエルとの関係は、最高度に緊張する。いつ、なにが起こってもおかしくない状態になるだろう。

そのような状況で、「アメリカーイスラエル安全保障条約」が締結されたとしよう。高度な緊張状態にあるので、イランによるイスラエルやアメリカの基地に対する攻撃はいつ起こってもおかしくない。

国際社会はイランの攻撃があっても、不自然だとは思わないだろう。反撃を自然の成り行きとして見ることだろう。もし安全保障条約があった場合、イスラエルとアメリカはこの条約に基づき、共同でイラン攻撃に踏み切ることが自然にできるようになる。もちろん、攻撃はイスラエルによる自作自演であってもかまわない。イランの責任だと主張し、報復するだろう。

もちろんこれは仮説である。このような仮説から見るならば、「アメリカーイスラエル安全保障条約」の締結がこれから行われるかどうかが焦点になる。

それが実現するなら、今度は本格的なイラン攻撃も視野に入ってくる。これは注目しなければならない。

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