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新規上場したトゥエンティーフォーセブンは、新鮮な体験ができるジムへ転換できるか

トゥエンティーフォーセブン<7074>は、2019年11月21日東証マザーズに新規上場しました。同社の株価は、公募価格3,420円に対して初値は+11.11%の3,800円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化

本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月14日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。

初値は公募価格から11.11%上昇し、3,800円でスタート

トゥエンティーフォーセブンをジョブ理論の視点からみる

株式会社トゥエンティーフォーセブン<7074>(以下、同社)は、2019年11月21日東証マザーズに新規上場しました。業務内容は、パーソナルトレーニングジムおよびパーソナル英会話スクールの運営です。

同社の株価は、公募価格3,420円に対して初値は3,800円をつけました。差異率は+11.11%と値をあげました。なお、1月10日時点の株価は2,845円です。

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。

では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社は、パーソナルトレーニング事業としてパーソナルトレーニングジムおよびパーソナル英会話スクールを全国展開しています。パーソナルトレーニングジムは、顧客に対して直営店舗またはFC店舗を通してサービスを提供し、その対価として収益を得ます。また、プロテインやサプリメント等のインターネット販売も行なっており、その対価として収益を得ます。

パーソナル英会話スクールは、顧客に対して直営店舗を通してサービスを提供し、その対価として収益を得ます。なお、パーソナル英会話スクールはFC展開を行なっていません。

ビジネスモデル的にみれば、いずれも未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品(各種サービスやプロテインなど)へと変換する価値付加プロセス型事業です。

同社は対処すべき課題の一つとして「新規事業及び新商品開発による収益基盤の拡大」を、事業等のリスクとして「広告宣伝における効果」「個人情報の保護」「法的規制等」をあげています。

Next: トゥエンティーフォーセブンが今後、成長するために取り組むべき課題とは?



思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。

2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。

3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。

4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。

5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社が課題とする「新規事業及び新商品開発による収益基盤の拡大」を取り上げます。同社はそれを次のように認識しています。

当社は、急激な事業環境の変化に対応し、競合他社に比して更なる収益の拡大を図るために、事業規模の拡大と新たな収益源の確保が必須であると考えております。このために、消費者の潜在需要をいち早く読み取り、新規事業及び新商品開発に積極的に取り組むことで、更なる収益基盤の拡大を行ってまいります。

ここで着目したいのは、もちろん「消費者の潜在需要」。そして、それとつなげるのは「バク転」です。そういった状況で顧客がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「バク転をする」ということ。感情的側面として「象徴性」「健康」「癒し」「不安の軽減」、社会的側面として「自己実現」といったことを重視するでしょう。なお、「ドキュメント72時間」に登場していた青年は、会社の隠し芸大会で密かに練習していたバク転を披露したところ会場は大盛り上がりで、その翌日から彼をみる周りの目が一変したといいます。

なお、同社は「市場環境・競合」を次のように認識しています。

パーソナルトレーニングジム市場及びパーソナル英会話スクール市場は、成長途中の市場であり、また他業界と比較すると参入障壁が低いため新規参入が増加し、厳しい競合状態になることが想定されます。 このような状況の中で、当社はトレーニングのコンセプトを明確にし、他社との差別化を図っておりますが、今後競合状態がさらに激化した場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

Next: トゥエンティーフォーセブンがすべきは、ほかのジムではできない体験の追加



体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

顧客がパーソナルトレーニングジムを雇うとする際に障害となり得るのは、一つにはトレーニングが長続きしないこと。また、マンツーマンで対応することになる同社のトレーナー・講師と相性が悪いことも障害となり得ます。

いずれにしても、こうした障害が取り除かれれば、顧客は「後ろにくるりと一回転するだけで人生が変わる」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

同社が展開するパーソナルトレーニングのコンセプトは次のようなものです。

最短2ヶ月で理想の体型に導くべく、プロのトレーナーによる完全個室、マンツーマンでトレーニングや食事指導、モチベーションのケアなどを行っております。

これは、明らかにバク転とは異なる指導方法です。したがって、社内プロセスの都合という意味で同社の課題となるのは、まずは企業がしたいことである価値基準にバク転の指導を加えることです。それはもちろん、現場のトレーナーも同じです。そのうえで、顧客と直接接することになるバク転指導のトレーナーを育成する必要があります。また、同じバク転の指導をする競合と差別化を図るという意味では、アウトドアジムを検討してもいいかもしれません。バク転は、基本的にマットがあればできるので、それに適した場所があれば即席ジムが短時間で完成します。

ちなみに、「結果にコミットする」というCMで有名になったライザップでは、現場のトレーナー向けに実践トレーニングを実施しており、給料は月給に加えて顧客のコミット率に応じた報奨金が与えられます。そして、これら以上に重要となっているのは、トレーナーと価値観を共有して職場定着率を高めていることです。

では、同社がこうしたバク転の指導に乗り出すのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社はリトル・ハイア「顧客がバク転に挑戦した回数」を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
ドキュメント72時間 「バク転教室 明日に向かって跳べ!」‐NHKオンデマンド
大和リース、全国6都市の商業施設にアウトドアフィットネス商業施設「コミュニティ パーク」を開業‐日本経済新聞
・TBS「がっちりマンデー」(2018年8月5日放送)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月14日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

image by:Bojan Milinkov / Shutterstock.com

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2020年1月14日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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