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新規上場した名南M&Aのさらなる成長は、直接相談件数をいかに増加させるかが重要に

名南M&A<7076>は、2019年12月2日名証セントレックスに新規上場しました。同社の株価は、公募価格2,000円に対して初値は+45.00%の2,900円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化

本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月15日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。

初値は公募価格から45.00%上昇し、2,900円でスタート

名南M&Aをジョブ理論の視点からみる

名南M&A株式会社<7076>(以下、同社)は、2019年12月2日名証セントレックスに新規上場しました。業務内容は、中堅中小企業を対象としたM&Aの仲介です。

同社の株価は、公募価格2,000円に対して初値は2,900円をつけました。差異率は+45.00%と値をあげました。なお、1月14日時点の株価は4,375円です。

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。

では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社の業務フローは、M&Aの紹介を受ける業務提携先の新規開拓などのM&Aニーズの発掘からはじまります。そして、譲渡先を対象とした個別譲渡相談等と買収先を対象とした個別買収相談等を経たのち、トップ面談・条件調整等を行い、最終的に譲渡契約・取引実行に至ります。そして、同社はこれらの業務の対価として譲渡先および買収先双方から報酬を受け取ります。

ビジネスモデル的にみれば、同社のそれは、基本的に譲渡先と買収先をつなげるネットワーク促進型事業です。

同社は対処すべき課題の一つとして「直接相談案件の増加」を、事業等のリスクとして「同業者との競合」「人材の獲得・育成」「単一事業」「クレーム・訴訟」等をあげています。

Next: 名南M&Aが今後、成長するために取り組むべき課題とは?



思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。

2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。

3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。

4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。

5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社が課題とする「直接相談案件の増加」を取り上げます。同社はそれを次のように認識しています。

当社の受託案件の大半は、金融機関等の提携先からの紹介案件であり、顧客企業から直接当社にご相談いただく案件の割合が低くなっております。紹介案件は、比較的良質な案件を獲得できるというメリットがある一方で、紹介料の負担があり、利益率を押し下げるというデメリットがあります。今後は、紹介案件と直接相談案件をバランスよく受託するために直接相談案件を増やすことが重要な課題であると認識しております。

この課題を解決すべく、ダイレクトメールや電話によるダイレクトアプローチ等、直接相談案件を獲得するための活動を強化しております。

企業譲渡を検討している顧客がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「企業の売却」。感情的・社会的側面として「事業の継続」「後継者不足」といったことを重視しています。一方、企業買収を検討している顧客がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「企業の買収」。感情的・社会的側面として「起業」「のれんを守る」といったことを重視しています。

後継者不足に関してNHKの記事は次のように指摘しています。

中小企業庁によりますと、2025年までの10年間に70歳を超える高齢の経営者は、全国に245万人。この半数に当たる127万人に後継者がいないといいます。そのまま廃業してしまうと650万人の雇用がなくなり22兆円のGDPが消失するとも試算されています。

いずれにしても、後継者不足の解消は喫緊の課題だといえます。

なお、同社は「同業者との競合」を次のように認識しています。

M&A仲介業務は、必要な許認可や資格等が存在するわけではなく、設備投資等の大規模な投資も必要ないため、参入障壁が比較的低い事業であると考えております。中堅中小企業のM&Aニーズが拡大する中で、当社のようなM&A専業会社はもちろん、銀行や証券会社等の金融機関との競合が激しくなる可能性がありますが、当社の東海地方における充実した営業基盤やこれまでの実績、名南コンサルティングネットワーク各社との連携から獲得した専門的なノウハウ等は短期間に模倣することはできないと認識しております。しかしながら、提携先金融機関の取組方針の変化(M&A専業会社との協業から自社単独で仲介業務を実行等)や更なる競合他社の増加により競争環境が激化した場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

これ以外に競合となり得るのはマッチングサイトです。NHKの記事は次のように指摘しています。

個人が企業買収に関心を高める背景には、インターネット上で企業の売買を仲介する「マッチングサイト」の存在があります。

今や10を超えるサイトに、買い手を募る1,000以上の企業が掲載されています。地域や売上げ規模、業種などから条件にあう会社を絞り込むことができ、中には250万円以下で売られている会社もあります。

Next: 名南M&Aがすべきは、事業の売り手に競争をさせる場を提供すること



体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

マッチングサイトを雇うとする売り手にとって障害となり得るのは、いつ買い手が見つかるか分からないこと。いうなれば、運任せという面があることです。その点、同社が行おうとしている直接アプローチは差別化の要因となり得ます。したがって、この優位性をうまく生かせば、直接相談案件の獲得を増やすことができるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

ジャン・ティロールは、同社のような2面プラットフォームに特徴的な戦略として「売り手を競争させること」「場合によっては価格統制を行うこと」「品質管理を徹底すること」「情報の提供」を指摘しています。では、これらの戦略で直接相談案件の獲得を増やすにはどうすればいいのでしょうか。

たとえば、ある業種・業態の企業の買収を検討している買い手に直接アプローチしたうえで、それと同じ業種・業態の売り手企業を競争させるのもいいでしょう。売り手にしてみれば、買い手の目星がついているのであれば、同社に直接相談してみようという気にもなるというものです。もちろん、買い手には売り手に関する情報の提供は必要です。なお、業績の評価基準は当然のことながらリトル・ハイア「直接相談案件の数」ということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・ジャン・ティロール/著、村井章子/訳『良き社会のための経済学』(日本経済新聞出版社)
後継者不在の名店 外食大手、M&Aで守る‐日本経済新聞社(2019年10月7日公開)
(けいざい+)後継者がいない3:3 「M&Aは縁」、迷い振り切った‐朝日新聞デジタル(2019年5月30日公開)
その会社 買っても大丈夫?‐NHK NEWS WEB(2019年6月7日公開)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月15日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

image by:Billion Photos / Shutterstock.com

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2020年1月15日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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