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新規上場した天気予報サイト運営のALiNKは、成長を加速する新サービスを生み出せるか

ALiNKインターネット<7077>は、2019年12月10日東証マザーズに新規上場しました。同社の株価は、公募価格1,700円に対して初値は+136.47%の4,020円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化

本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月21日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。

初値は公募価格から136.47%上昇し、4,020円でスタート

ALiNKインターネットをジョブ理論の視点からみる

株式会社ALiNKインターネット<7077>(以下、同社)は、2019年12月10日東証マザーズに新規上場しました。業務内容は、天気予報専門サイトの運営です。

同社の株価は、公募価格1,700円に対して初値は4,020円をつけました。差異率は+136.47%と2倍以上になりました。なお、1月20日時点の株価は4,335円です。

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。

では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社の主な事業は、日本気象協会との共同事業である天気予報専門メディア「tenki.jp」と「tenki.jp 登山天気」の運営です。これら天気予報専門メディアを通して得られる広告収入は、一旦、日本気象協会に入金されます。その後、同社は定められた配分率に応じて日本気象協会から広告収入の一部を受け取ります。

なお、気象産業の構造は次の通りです。まず気象庁から、一般財団法人気象業務支援センターを通して、気象データ等が民間気象事業者へ配信されます。そして、民間気象事業者はこの気象データ等を天気予報等に活用します。ただし、気象庁以外の事業者が天気などの予報業務を独自に行う場合は、予め気象庁から予報業務許可を受ける必要があります。

ビジネスモデル的にみれば、同社のそれは、基本的に未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品「天気予報サービス等」へと変換する価値付加プロセス型事業です。

同社は、対処すべき課題の一つとして「新規ソリューションの提供」を、事業等のリスクとして「一般財団法人日本気象協会について」「気象状況が経営成績に与える影響について」「インターネット広告市場について」等をあげています。

Next: ALiNKが今後、成長するために取り組むべき課題とは?



思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。

2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。

3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。

4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。

5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社が課題とする「新規ソリューションの提供」を取り上げます。同社はそれを次のように認識しています。なお、「上述の課題」とは、サービスの認知度向上、技術革新への対応、人材採用及び組織体制の整備、内部統制及びコンプライアンス強化のことを指します。

当社は、上述の課題に対し気象情報の一般消費者への提供だけでなく、気象情報と現実社会の連携を深めるための新規ソリューションの提供を検討しております。

ここで着目したいのは「気象情報と現実社会の連携」、具体的には、イベント当日の天気とイベントとの関係です。米山公啓氏は次のように指摘しています。

<イベント>
2週間前から天気を気にするオトコ
当日になって天気予報を見るオンナ

<先読みし過ぎる脳と先読みしない脳>
何かを計画し立案、実行するのは脳の中にある前頭前野と呼ばれるところで行われます。これは、人間の脳でもっとも進化した場所です。男性は常にここを目一杯に使おうとして先読みをします。2週間先のイベントであっても「当日の天気はどうかな?」と気になったりするのです。

こういった状況でイベントに参加しようする男女がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「イベント会場に移動する」ということ。感情的側面として、男性はまず「不安の軽減」がきます。続いて、男女とも「娯楽」「非日常」、社会的側面として「人とのつながり」といったことを重視するでしょう。いずれにしても、先読みする男性の脳は、広告収入を主な収益源とする同社に収益拡大の機会をもたらしてくれる可能性があります。

なお、同社は「競合サービス」を次のように認識しています。

当社は、インターネット市場の中の、気象や生活情報を用いたBtoC向けメディアを主たる事業領域としておりますが、昨今、気象情報を用いたソリューションやビックデータ解析は世界的に注目されており、参入企業が増加する傾向にあります。天気予報専門サイトという特殊な分野ではあるものの、今後当社サービスが十分な差別化や機能向上等ができなかった場合や、さらなる新規参入により競争が激化した場合には、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

Next: ALiNKインターネットがすべきは、顧客が求めるサービスの企画



体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

先読みし過ぎる脳をもつ男性が天気予報を雇うとする際に障害となり得るのは、10日先の天気予報はあっても2週間先の天気予報がないことです。そうだからといって、そのためだけのために同社が「2週間天気」というサービスを提供するのは得策だとはいえません。なぜなら、需要が少ないだけでなくコストに見合った精度が期待できないからです。

いずれにしても、こうした障害が取り除かれれば、顧客である男性は「先回りすることがなくなり、心配事が減る」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

先に述べたように、2週間天気というサービスを提供するのは得策ではありません。したがって、社内プロセスの統合という意味で同社の課題となるのは、先読みする脳をもつ男性の不安を減らすためのコンテンツを開発することです。

では、同社がそうしたコンテンツを開発するのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社はリトル・ハイア「コンテンツが閲覧された回数」を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・米山公啓『オトコとオンナの説明書』(成美堂出版)
・>10日間天気
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月21日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

image by:Michael Courtney / Shutterstock.com

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2020年1月21日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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