長時間労働が原因で従業員が自殺するに至った「肥後銀行事件」を紐解くと、企業側にとっては、総合的な観点でのリスクマネジメントが不可欠だとわかります。(『奥田雅也の「無料メルマガでは書けない法人保険営業ネタ」』奥田雅也)
※本記事は有料メルマガ『奥田雅也の「無料メルマガでは書けない法人保険営業ネタ」』2020年1月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
事業(医業)経営に関する生命保険・損害保険活用術に精通し、過去20数年間で保険提案した法人数は2,500社以上。現在は大阪を拠点として保険代理店経営・保険営業を行うかたわら、年間60回程度の講演や、業界紙・本などの執筆、コンサルティング業務を展開中。著書に『ここから始めるドクターマーケット入門』(新日本保険新聞社)『法人保険販売の基礎』(電子版・保険社)など。
総合的なリスクマネジメントが必須?1つのトラブルが危機に直結
肥後銀行で起きた過労自殺
先日、非常に怖い事例を聞きました。ご存じ方も多いかも知れませんが、いわゆる「肥後銀行事件」です。いろいろと報道されている内容をつなぎ合わせて、事実関係を確認します。
2012年10月、当時40歳だった男性行員が本店から飛び降り自殺をしました。
自殺をする直前4か月の残業時間は200時間程度になっており、遺族は、長時間労働が原因で精神疾患を発症して自殺に至ったとして損害賠償を求めて提訴します。
自殺から5か月後には、熊本労基署は労災認定を行い、同行役員や部長ら3名を労基法違反として
熊本地検に書類送検しています。
その後、2014年10月に熊本地裁は、長時間労働の末にうつ病を発症して自殺したと認め、銀行側が「注意義務を怠った」として、約1億3,000万円の支払いを命じる判決を出しました。
これを受けて銀行側は控訴せずに、遺族へ賠償金を支払いました。
ここで終われば、普通の労災事故・労務裁判で終わるところなんですが、この事件はここでは終わりません。
株主代表訴訟に発展
亡くなった元行員が持っていた肥後銀行の株式を相続した遺族が、2016年6月に役員11名の経営責任を問う提訴請求を銀行の監査役に行います。
これを受けて、銀行側の監査役は、提訴請求を却下します。
それに対して遺族は、2016年10月に、銀行の役員へ株主代表訴訟を提訴します。
銀行側が支払った賠償金等や社会的信用を失墜させた責任として、約2億6,000万円の損害を与えたとして、株主代表訴訟を起こしました。
遺族側は、男性の自殺は役員が社員の労働時間を適正に管理する義務を怠った結果だと主張しており、同様な事件が再発しないよう、社内体制をつくることが訴訟の目的だと言っているそうです。
※参考:肥後銀の役員側、請求棄却求める 過労自殺遺族の株主代表訴訟 – 産経WEST(2016年10月17日配信)
※参考:過労自殺で株主訴訟 肥後銀元行員の妻 – 日本経済新聞(2016年9月8日配信)
いろいろな記事を合わせて、事実関係をまとめてみました。
長時間労働が原因で社員が精神疾患を発症したり、不幸にも自ら命を絶つ事件は、それなりに多くあります。
ですが、それが株主代表訴訟へ発展したのは、この事案が初めてだそうです。
Next: 役員の責任を問う株主代表訴訟、今後も増えていく?
役員に対する懲罰的な意味合いが強い制度
「株主代表訴訟」について確認しておくと、ウィキペディアに以下の記載があります。
株主代表訴訟(かぶぬしだいひょうそしょう)とは、日本の株式会社において、株主が会社を代表して取締役・監査役等の役員等に対して法的責任を追及するために提起する訴訟のことである。会社法では、責任追及等の訴えという。
簡単に言えば、役員等が業務執行において会社へ損害を与えたことにより、棄損した株価(財産)を株主として損害賠償を求める制度です。
株主代表訴訟では、役員が会社へ賠償をするので、株主は直接的に金銭が手に入る訳ではありません…。
株主代表訴訟は上場会社ではたまに起こされており、有名な事件もいくつかありますので、ご興味のある方は、「大和銀行事件」「オリンパス事件」「東芝事件」などを検索してみて下さい。
今回、冒頭にご紹介した「肥後銀行事件」では、第1段階で遺族は銀行へ過重労働として訴え、第2段階として株主として役員が銀行へ与えた損害の賠償を訴えています。
第1段階目の賠償金は遺族に支払われますが、第2段階目の賠償金は銀行へ支払われます。
株主代表訴訟は、役員に対する懲罰的な意味合いが強い制度と言えるでしょう。
企業側も対策が必要になる
この事例を聞いて怖いと思ったのは、株式公開企業や複数株主がいる企業では、今後、起こりうる事例だと思ったからです。
さらに言えば、事業承継対策として従業員持株会(以下、従持会)を作った場合、規約によっては簡単に従業員が株主代表訴訟を起こすことが可能です。
もちろん、従持会がなくても資産形成やオーナー一族の自社株対策として社員に自社株を持たせた瞬間に、株主代表訴訟リスクが発生します。
冒頭の肥後銀行事件の様に、労務トラブルから株主代表訴訟へ発展するリスクは十分にはらんでいますので、総合的な観点でのリスクマネジメントは不可欠ですね…。
Next: 総合的なリスクマネジメントが必須?1つのトラブルが危機に直結する
総合的なリスクマネジメントが必須
単に使用者賠償責任保険や会社役員賠償責任保険に加入すれば良いという話ではなく、そして自社株対策として従業員持株会を作るとリスクが増えるという話だけではありません。
1つのリスクや事象に対処するだけでなく、企業全体を見渡した上で、リスクマネジメントを検討する重要性を肥後銀行事件は示唆していると思います。
法人経営において、複合的にリスクが合わさっている事例であり、トラブルが思わぬ方向へ飛び火する事例だと思いましたので紹介しました。
ご参考になれば幸いです。
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- 肥後銀行事件が教えること(1/22)
- 医療法人における契約者変更プランのリスク(1/15)
- 2つの特例(2)(1/8)
- 法人保険業界の2020年を予想!(1/1)
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