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中国はどうやって新型コロナを抑えた?日本では報道されないアリババほかIT企業の底力=牧野武文

中国の新型コロナ肺炎の感染は徐々に鎮静化しているとの報道があります。鵜呑みにはできませんが、SARSを乗り越えた過去と、アリババなどのテック企業の活躍を見ると、終息は近いかもしれません。今回は、中国のテック企業が新型コロナウイルスに対してどのように対応しているかをご紹介します。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2020年3月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

新型コロナに最新テクノロジーで対抗する中国

日本もそうですが、発生地である中国も、新型コロナウイルスの影響で、社会活動が大きな影響を受けています。

しかし、驚くのは、中国では、この難事に対して次々と新しいテクノロジー、新しい考え方が次々と生まれてきていることです。なにかをやめてやりすごすのではなく、なにかをやって戦おうとしています。

2003年のSARSの時もそうでした。多くの人が、外出を控えた代わりに、インターネットを使うようになり、ECを利用するようになりました。中国がテクノロジーを使って、生活を一変させていくIT革命の起点はSARSにあったと言っても間違いではないぐらい、SARS後に中国は急速に変わっていきます。

今回の新型コロナでも、テック企業は先頭に立って戦っています。そこから「無接触配送」「シェアリングスタッフ」など新しいものが生まれてきています。すでに運用が始まっていたドローンや自動運転車による「無人配送」も大きく拡大することになるでしょう。

そして、生鮮食料品を宅配してれる新小売スーパー、生鮮ECには注文が殺到し、今後、生活に中に根づいていくのは確実です。

今回は、アリババなどのテック企業が、新型コロナウイルスに対してどのように対応しているかをご紹介します。

アリババは2002年「SARS」をきっかけに大躍進

中国で起きている新型コロナウイルスのアウトブレイク。状況は日本のメディアも報道されているので、みなさんよくご存知のことかと思います。

このメルマガでは、各テック企業が、この新型コロナに対して、どのような動きをしているかをご紹介したいと思います。

最も敏感に反応したのは、アリババでした。

なぜなら、アリババは2003年のSARSのアウトブレイクにも大きな関係があったからです。この頃のアリババは、ECサイト「淘宝(タオバオ)」を始めたばかりのスタートアップ企業にすぎませんでした。多くの中国人がアリババという名前をまだ知らなかった頃です。

SARSは2002年11月中旬に中国広東省で発生しました。最終的には、8,098名の患者と774名の死亡が確認されています。日本では感染可能性のある患者が68例報告されただけで、結果として患者は発生しませんでした。

アリババの本拠地、杭州市でも感染が広がりましたが、最初に確認されたのは3名でした。そのうちの1人がアリババの社員だったのです。広州市のビジネスイベントに出席して感染したものと考えられています。この当時のアリババは全社員が400名程度でしたが、全員を1週間在宅勤務にしました。

この400名の「隔離措置」は、人民日報を始めとする各メディアから猛烈に批判されます。「騒ぎすぎだ」というのです。「経済を止めてしまう代償の方が大きい」「人々に心理的な不安を与える」というのです。しかし、今振り返れば、ジャック・マーの素早い判断は正しかったことがわかります。

Next: アリババ創業者の英断がSARS対策で奏功。今回も即座にマスク転売禁止へ



ジャック・マーの英断がSARS対策で奏功

アリババは必要な物資の確保に走ります。

今の新型コロナと同じように、マスクが不足し、食糧が不足していました。人々は外出を控え、人混みを避けるようになったため、小売店の店舗からは人がいなくなります。

そこで、多くの人がECを使うようになり、アリババのタオバオが急速に知られるようになったのです。これはアリババの成長の大きなきっかけになりました。

もちろん、ジャック・マーは、この時にビジネスも忘れていません。経済活動が停滞気味の中で、タオバオのテレビ広告を全国に流しました。この時は、多くの人が外出を控え、しかもイラク戦争が起きている最中だったので、多くの人がテレビを見て過ごしていました。アリババとタオバオの名前が全国で一気に知られるようになりました。

つまり、アリババは、SARSにより直接的な被害を受け、なおかつ、SARSにより会社が成長することになりました。アリババがこの新型コロナに無関心であるわけがありません。

即座にマスク転売禁止へ

新型コロナが武漢市で感染拡大をしているという一報が入ってすぐ、アリババがやったことは、自分たちにもすぐできること――タオバオでのマスクの高値販売禁止でした。

春節を明日に控えた旧暦の大晦日の日、武漢市で原因不明の肺炎が拡大しているというニュースが報じられます。この時報告された患者数は、中国全体で443人、死亡者数9人というものでした。

その日のうちに、アリババのECサイト「Tmall」「タオバオ」では、マスクの値上げ禁止の通達が全出品業者に送られました。多くの出品業者はそれを受けて、マスクの商品写真に「値上げ禁止を承諾」「在庫充分」「春節期間も発送」といった文字を付け加えて販売するようになりました。

また、消費者に対しては、マスクに関する補助金制度を発表します。万が一、高値で販売している業者から購入してしまった場合、標準価格との差額をアリババが補填をするというものです。

タオバオには無数の業者が出品をしているため、タオバオ運営だけでは値上げ禁止に違反する業者を監視しきれません。そこで、消費者が発見した場合、差額を補填し、その出品業者のアカウントを即刻凍結することで、悪質な業者を徹底的に排除しようというものです。

また、医薬品を当日配送をしてくれる阿里健康では、春節期間中休みなく営業し、マスクや消毒用アルコールなどの宅配を続けることを表明しました。

それでも、感染拡大があまりに大きく、マスクは品薄となりましたが、少なくとも高値で転売をする目的で大量に買い占める業者、個人はかなり排除できたと思われます。

Next: アリババを筆頭にテック企業が次々と寄付。日本では報道されない中国の底力



日本では報道されない中国の底力

また、すぐにテック企業が次々と寄付金を拠出することを表明しました。

アリババの10億元を筆頭に、主だったテック企業、そしてその他の企業350社が120億元(約1850億円)を超える寄付を行っています。現在でも、追加の寄付があり、まだまだ増えている最中です。

テック企業の寄付の仕方で興味深いのは、ただ寄付金を武漢市や感染地に送るのではなく、どのような使われ方をするのかを限定したお金の出し方をしていることです。

例えば、アリババは「医療物資供給基金」として、テンセントは「新型コロナ予防対策基金」として、百度は「公共衛生安全対策基金」として、京東は寄付金ではなく、「100万枚の医療用マスクと6万個の医療物資」を寄付しました。

用途を限定した寄付をするだけでなく、各テック企業は自社の強みを活かして、オペレーションも実行します。

アリババの「医療物資供給基金」10億元というのは、ただお金を出すだけでなく、自分たちで物資を購入し、必要な場所に届けることまでやるということです。京東の「100万枚の医療用マスク」も、どこかの宅配業者に委託をして終わりではなく、自分たちの手で武漢市まで届け、必要な医療機関への配送までやるということです。

武漢市のようなホットエリアでは、あらゆる対策が混乱状態になっていることは想像に難くありません。そこにお金だけを送ってもほとんど意味はないのです。足りていないのは、お金ではなく、物と人と知恵なのです。

もちろん、各テック企業が自分たちが正しいと思うことをそれぞれに行えば、かえって混乱することもあるかもしれません。しかし、それはやりながら調整をしていけばいい。中規模企業では、自分たちでオペレーションまでするのは厳しいので、巨大テック企業が設立した基金に、乗っかって寄付をし、さらに人や知恵を投じるようになっています。

こうして、次第に各テック企業の基金が整理されていき、オペレーションも調整されていき、無駄や混乱が排除されていくようになります。

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アリババの先端技術研究機関「ダモ・アカデミー」が肺炎治療に貢献できたワケ

混乱を最小限に。テンセントほかニュースサイトが最新データを共有・公開

生鮮ECの利用者3倍増で感染予防を強力にアシスト。コロナ収束後も定着していく

労働者の生活を守る「シェアリングスタッフ」という新しい仕組み

新型コロナで中国社会はさらに強くなる

<連載>アリババ物語

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知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』(2020年3月9日号)より一部抜粋
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