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実は中国格安スマホが最先端?注目企業「OPPO」「VIVO」創業者を育てた段永平の才覚=牧野武文

「安かろう、悪かろう」の先入観を持たれることが多い中国製のスマートフォン。しかし、その感覚はもう古いかもしれません。今回はいま要注目の企業「OPPO」「vivo」と両社の創業者を育てあげた段永平氏の半生を紹介します。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2020年6月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

中国製品「安かろう、悪かろう」は昔の話

今回は、日本でも利用者が増えてきているスマートフォンブランド「OPPO(オッポ)」「vivo(ビーボ)」に解説します。

10年ぐらい前まで、中国製品と言えば、安いだけですぐに故障する、作りが粗雑というのが常識でした。しかし、そのイメージは、もはやまったく違ってきています。

そもそも、アップル製品や任天堂製品も、製造は中国の富士康(フォクスコン)などの中国企業だったわけですから、一方でアップルや任天堂の製品の精巧ぶりを褒め、一方でその他の中国製品を批判するというのは矛盾したことだったのです。

OPPO、vivoについても、「安かろう、悪かろう」の先入観を持たれている方は多いかもしれません。しかし、この2つのメーカーは、「歩歩高」(ブーブーガオ)系と呼ばれ、トガった技術的挑戦をすることで業績を伸ばしてきました。

例えば、実質5,000万画素の写真が撮影できるカメラ、従来の急速充電を超える超急速充電、画面内指紋認証、ノッチレス、ベゼルレス。こういうことを先駆けて挑戦するのがOPPO、vivoです。

もちろん、技術力の高いアップル、サムスン、ファーウェイといったメーカーは、使いやすさ、扱いやすさなどの点では、OPPO、vivoと比べて一日の長があります。

そのため、OPPO、vivoのスマホを初心者の方におすすめしようとは思いません。

しかし、リテラシーの高い中級者以上であれば、トガった挑戦をし続けるOPPO、vivoの製品は興味を惹かれるものがあるはずです。

頭角を現す「歩歩高(ブーブーガオ)マフィア」とは?

ところで、「歩歩高」という企業名、そしてその創業者である段永平(ドアン・ヨンピン)の名前を知っている方は多くないでしょう。段永平は中国では珍しい「利益をみんなでシェアする」という経営思想を持ち、倒産しかけた町工場を大手メーカーに育てた人物です。

段永平は、多くの人を育て、ソーシャルEC「ピンドードー」の創業者もその一人です。そして、OPPO、vivoの創業者も段永平に育てられた人で、中国のテック業界の中で「歩歩高マフィア」と呼べる独特の集団を形成しています。

今回は、この歩歩高についてご紹介します。歩歩高の歴史や段永平の考え方を理解することで、OPPO、vivoがどのようなブランドであるか、理解の助けになると思います。

Next: 「世界市場と言っても、大半は中国向けの販売なのではないか」とおっしゃ――



OPPO製品の45%は海外市場で売れている

中国のスマホメーカー「OPPO」は、日本法人があり、さまざまなルートでスマートフォンを発売しています。

しかし、中国のメーカーであることや、耳慣れないブランドであることから、なんとなく手を出しづらい人も多いのではないでしょうか。一昔前の「中国製品は安かろう、悪かろう」のイメージのまま、「価格は手頃だけど、性能や品質が心配」と考えている人もいらっしゃると思います。

しかし、その感覚は少し遅れているかもしれません。

Canalysの調査による2019年の世界でのスマートフォン出荷台数を見ると、1位はサムスン、2位がファーウェイ、3位がアップル。ここまでは多くの人の想像通りです。

しかし、第4位は小米(シャオミ)、第5位はOPPOとなります。OPPOはもはや世界市場で認知されているスマホブランドになっているのです。

とはいえ「世界市場と言っても、大半は中国向けの販売なのではないか」とおっしゃる方もいるかと思います。

OPPOの世界市場のでの出荷台数は1億2,020万台。中国での出荷台数は6,570万台です。つまり、45%は海外市場で売れているのです。すでに欧米、日本、東南アジア、インドなどで販売されています。

中国格安ブランドは試す価値あり?

中国市場では、ファーウェイの1位は揺るがないものの、第2位以降はOPPO、vivo、小米、アップルと続きます。

日本で人気のアップルは、中国市場ではもはや第5位、市場シェアは7.5%にすぎません(ただし、この統計は2019年の出荷台数であり、中国ではiPhoneの旧機種、中古機種が人気です。なので、保有率の統計をとると、iPhoneが30%から40%程度になり、人気ブランドであることに変わりありません。iPhoneは旧機種でも十分使える性能であるために、現行機種の売れ行きが落ちるという皮肉なことになっています)。

OPPO、vivoは日本では格安スマホに分類されることが多いことから、「安かろう、悪かろう」と見られることも多いかと思います。しかし、実際は違います。

中国では「トガったテクノロジーを投入してくる」ブランドとして認知されています。確かに、アップルやファーウェイのように、成熟した製造技術、使いやすさを考えたデザインという点ではまだまだ追いつけていない部分もあるので、初心者におすすめしづらい点があるのは事実です。

でも、ある程度のリテラシーがある上級者であれば、OPPO、vvio、シャオミといったブランドのスマホは、トライしてみる価値があります。

Next: 例えば、OPPOのFind 7では、実質5,000万画素で撮影できるカメラが搭載――



「トガッたテクノロジー」を投入してくるブランド

例えば、OPPOのFind 7では、実質5,000万画素で撮影できるカメラが搭載されています。カメラ自身は1,700万画素なのですが、シャッターを押すと自動的に10枚の写真が撮影され、これを人工知能で合成して5,000万画素の写真を生成します。

さらにOPPOでは、「5分の充電で2時間通話ができる」超急速充電技術を開発しています。

vivoも画面内指紋認証を搭載、小米は世界に先駆けてベゼルレス(フチなし)を実現するなど、中国のスマホメーカーは攻めに攻めてきました。「世界初」と呼ばれるスマホテクノロジーは大体OPPO、vivo、小米という中国の中堅メーカーが始め、それをファーウェイやアップルがより洗練された形で追従するという構造になっています。

日本では、いまだに「iPhoneに○○という新テクノロジーが搭載」と大きな話題になりますが、同様のものは数年前にこのような中国メーカーがすでに搭載していることも多くなってきました。

逆に言えば、このような中国メーカーは、ブランド力が強くないので、常にトガったテクノロジーを搭載していかないと、生き残っていけません。

事実、この2年ほどは、どのメーカーも5G対応以外のトガったテクノロジーに欠けるところがありました。すると2019年の中国市場シェアは、OPPO、vivo、小米、アップルとも20%前後落とし、ファーウェの一人勝ち状態になっています。文字通り、厳しいサバイバル戦を戦っています。

群雄割拠の中国スマホメーカー

中国のスマホメーカーは、この他にもたくさんあります。あまりに数が多すぎて混乱されている方も多いでしょう。

そこで、ここで整理をしておきます。分類の方法はいろいろあると思いますが、ここでは4つの系統に分類してみます。

1)ファーウェイ系
ファーウェイとそのサブブランドである栄耀(honor、オーナー)があります。

2)歩歩高系
OPPO、vivoに加え、一加(OnePlus)があります。「歩歩高」については、後ほど解説します。

3)小米系
小米の他に紅米(Redmi)のサブブランドがあります。

4)外資系
中国市場での外資系ブランドはアップルのみになりました。サムスンはほとんど売れていません。

ここで登場した「歩歩高」(ブーブーガオ)という社名と、その創業者である段永平(ドアン・ヨンピン)の名前をご存知の方は少ないと思います。

しかし、段永平はアリババのジャック・マーとほぼ同世代の起業家で、しかも、非常にユニークな成長手法をとってきた人です。

多くの中国人経営者が、自分の利益を重要視し独占しようとするのに対し、段永平は利益の多くを人に分かち与えてしまいます。やる気のある人、成果を出す人には可能な限りの利益と環境を与えることに腐心をし、多くの成功者を育ててきた中国テック業界のメンター的存在です。

OPPO、vivoもこのような段永平の支援の元に生まれてきたメーカーです。では、なぜそのような素晴らしい人物が今ひとつ有名ではないのでしょうか。

それは段永平は40歳の時に早々と経営者を引退して、現在はゴルフと投資三昧の日々を送っているからです。段永平にとって、事業で成功することは目的ではなく、あくまでも楽しい日々を送るための手段にすぎないのです。

今回は、この段永平という人物と、その後に続くいわゆる歩歩高系の企業をご紹介します。その来歴を知れば、「OPPOが安かろう悪かろうの格安中国スマホ」というイメージが違っていることがわかってくるはずです。

Next: 時々投資の仕事をし、時々慈善活動をするぐらいで、電話もほとんど使いま――



「最も神秘的な富豪」段永平の半生

段永平は、現在米国に家族と暮らし、毎日好きなゴルフをしながら暮らしています。時々投資の仕事をし、時々慈善活動をするぐらいで、電話もほとんど使いません。そのため、「最も神秘的な富豪」と中国では呼ばれています。

しかし、段永平の薫陶を受けた人たちが、現在中国で活躍をしています。OPPO、vivoもそうですし、ソーシャルECで勢いのある「ピンドードー」もそうです。

段永平は、1961年3月生まれの現在59歳です。父親の段錫明は、当時、食べるものにも困るほど困窮をしていました。その最中、妻が妊娠をし、生まれたのが段永平です。この男の子が永遠に平安な人生を送れるようにと「永平」という名前をつけました。

段永平が生まれると、両親は2人とも江西水利電力学院(現在の江西省南昌工程学院)の教師の職を得ることができました。これにより、決して豊かとまでは言えないものの、安定した生活が送れるようになります。

しかし、段永平が5歳の時、この短い幸せが終わります。両親が下放にあってしまったのです。

1966年から中国では文化大革命が起こります。文化大革命は、建前上は「封建主義と資本主義を打倒し、理想的な社会主義を創生する」という運動でしたが、実態は、権力を失った毛沢東の復権運動でした。毛沢東は国民に人気があることを利用して、紅衛兵と呼ばれる学生親衛隊を扇動し、政敵である劉少奇などを攻撃させたのです。

生活や経済に大きな不満を抱いていた学生たちは暴走しました。「封建主義と資本主義を打倒する」建前は、あっという間に偉い地位にいる人とお金持ちへの攻撃に変わりました。大勢で自宅に押しかけ、侵入し、伝統美術品を破壊し、財産を奪っていきました。中国は世界でも稀に見る長い歴史を持つ国なのに、伝統美術品や伝統建築物が少ないのは、この時に破壊し尽くされたからです。

物だけでなく、人も破壊されました。反革命的と認定された人には、公然とリンチが行われました。諸説ありますが、数十万人から2,000万人に及ぶ人が死亡したと言われています。今から考えると、ちょっと信じられない狂気の時代です。

毛沢東も、学生たちの暴走を持て余してしまったようです。そこで、下放という制度が奨励されました。より理想的な社会主義を築くために、学生たちは農村に行き、農村に学び、農村に毛沢東思想を伝える必要があると、農村にいくことを奨励したのです。要は、学生たちが都市を闊歩し、暴動ばかりを起こしているので、農村に追いやって、なんとか収拾しようとしたのです。

この下放によって、多くのインテリの若者が農村に向かいました。そこは地獄でした。都会の若者が農作業をうまくできるわけがありません。食べるものにもすぐ困りました。農村も疲弊しきっていて、学生たちを助けてあげたくても、農民にもその余裕はありません。餓死をしてしまった学生も多かったと言います。

Next: 段永平の両親は教師であったため、インテリの若者と認定され、江西省の――



段永平の家族も地方の農村へ

段永平の両親は教師であったため、インテリの若者と認定され、江西省の井岡山に下放となりました。その子供である段永平もついて行くしかありません。井岡山は、毛沢東の紅軍が最初に根拠地とした場所で、中国では最も重要な聖地になっています。しかし、段永平親子にとって決して暮らしやすい場所ではありませんでした。

両親はやったこともない農作業をせざるを得ません。インテリ家庭に育ち、勉強好きだった段永平にはまともな教育が与えられませんでした。段永平が割り当てられた小学校は、1年生から3年生までが一緒の複式学級で、校舎はボロボロだったと言います。しかも、授業は国語と数学の他は、民間医療、農機具、気象など農業に役立つ内容ばかりでした。学校が終わると、寝るまで農作業を手伝わされます。小学校の間は、ずっとそのような生活を送ることになりました。

そのような生活の中で、段永平は暴れん坊に育っていきました。石を投げるのが得意で、飛んでいる鳥に石を当てて落とすことができました。もちろん、食べるためです。それだけではなく、他人が飼っているハトも石で落として食べました。さらには、当時農村では珍しいガラス窓を見つけると、遠くから石を投げて割り、逃げるということを繰り返していました。いたずらであるのか、怒りをぶつけているのか、おそらくその両方だったのでしょう。

1977年、段永平16歳の時、中国政府は全国統一入試である「高考」を復活させました。これは、全国で統一された大学入学試験を行い、成績順で希望の大学に入学できるという制度です。出身高校のランクは関係ありません。高校までの成績も関係ありません。試験で高得点を取りさえすれば、一流校に入学できるという一発勝負です。

段永平は地方の教育水準の高くない学校に通い、高校までは進学したものの、そのままでは大学に進めることはあり得ませんでした。そもそも、大して勉強などしていなかったのです。それが試験で頑張れば一発逆転ができる。

その年、段永平は570万人の受験者に混ざって高考を受けました。しかし、得点は80点。4科目で80点です。どこの大学にも進学できませんでした。大失敗です。

そして、翌年、もう一度受験しました。今度は5科目で400点以上という好成績でした。1年間の受験勉強が功を奏し、現在でも名門校とされている浙江大学に進学することができました。ここから段永平の運命が開けていきます。

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知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』(2020年6月1日号)より一部抜粋
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