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「デジタル円」始動も遅すぎた?トランプが恐れる「デジタル人民元」に日本人も飲まれる=高島康司

ニュースがコロナ一色の中、密かに「デジタル円」の報道が注目されている。デジタル人民元やリブラとどう渡り合うのか。私たちの生活はどう変わるのかを解説したい。(『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』高島康司)

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いよいよ「デジタル円」誕生

ニュースが新型コロナウイルスのパンデミックで実質的に独占されるなか、「デジタル円」の報道が注目されている。

経済活動の規制緩和が徐々に進む、6月3日、「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」を含むデジタル通貨の決済インフラ実現のための検討会が発足した。みずほ銀行や三菱UFJ銀行、三井住友銀行の3メガバンクのほか、JR東日本やNTTグループ、セブン&アイ・ホールディングスが参加し、9月末には報告書を提出するという。

この動きで「デジタル円」に俄然注目が集まっている。ビットコインやイーサリアムのように、中央銀行が発行する法定通貨の円もいよいよデジタルになる時代が到来したとの期待感が高まっている。

「中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)」とは

だが、そもそも「中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)」とは、何なのだろうか?

日本銀行のサイトでは、これを次の3つの条件を満たす決済手段として定義している。

1)デジタル化されていること
2)円などの法定通貨建てであること
3)中央銀行の債務として発行される

現在、デジタル通貨は次の3つの種類に分類されている。

・電子マネー(Suicaなど)
・暗号資産(仮想通貨)
・中央銀行発行デジタル通貨(CDBC)

電子マネーと仮想通貨はすでに我々にも馴染み深いが、「中央銀行発行デジタル通貨(CDBC)」とは、要するに法定通貨である「円」を仮想通貨のようにデジタル化したものである。それは中央銀行のみが発行権限があるということでは電子マネーや仮想通貨とは大きく異なるが、仮想通貨と類似した特徴も持つ。

ビットコインやイーサリアムのような仮想通貨のやり取りは「ウォレット」と呼ばれる個人の電子口座のようなものを介して行われる。個人に割り振られたユニークなアドレスに仮想通貨を送金すると、それはウォレットに直接入金される、送金を仲介する銀行のような金融機関の介入はない。

このため、通常の法定通貨の送金であれば銀行に支払わなければならない手数料のようなものは発生しない。仮想通貨のマイナーに支払われる報酬は若干発生するものの、その額は銀行の手数料に比べるとはるかに安い。

これと同じように「CBDC」である「デジタル円」も導入の運びとなれば、スマホなどにインストールされた個人のウォレットに直接入金できる。日々の支払いも、スマホをレジにかざすだけでウォレットから行われるので、現金のやり取りは一切ない。とても便利である。

これは、決済手段として考案された当初のビットコインやイーサリアムと同じコンセプトだ。

Next: 一方、「デジタル円」には仮想通貨と大きく異なる特徴もある。それは――



デジタル化されても円は円?

一方、「デジタル円」には仮想通貨と大きく異なる特徴もある。それは、価値の安定性だ。

ビットコインのような仮想通貨には価値の前提となるようなものが存在しない。株式には会社の業績や資産という価値の基礎、また法定通貨には流通を中央銀行が保証するという強制通用力が価値の基礎として存在するが、仮想通貨にはそのようなものはない。結局それは、デジタルデータでしかない。そのため、ビットコインのような仮想通貨の価値は、時々の需要と供給だけで変動し、乱高下する。これが原因で、仮想通貨には当初期待されていたような支払い手段としての役割を現在も果たせずにいる。

このような仮想通貨とは異なり、「デジタル円」は中央銀行が価値を保証した法定通貨なので、仮想通貨のような極端な価値の変動は起こりにくい。価値が安定しているので、日々の支払い手段として用いることができる。

このように見ると、「デジタル円」とは現在の円が紙幣からデジタルに変わっただけで、特に大きな変化はないように見える。

入金や送金は手数料なしで行われる。いますでに「Suica」や「PayPay」などそれぞれコンセプトが少し異なるデジタルな決済手段が当たり前のように使われている。店に入って商品を取り、出口のレジの読取機にスマホをかざす光景は日常的に見るようになった。

「デジタル円」が導入されて現金の授受がなくなっても、特にびっくりするようなことでもない。これまでに日常の延長である。

なぜ「デジタル円」に注目が集まっているのか、よく分からないといった声も聞こえそうだ。すでに準備はできているから、導入するなら早くしてほしいと思うかも知れない。たしかにそうである。

「リブラ」の衝撃

たしかに、我々の日常に限ればこのようにいえるかもしれない。「デジタル円」も他のデジタルな決済手段も変わらないという感じだ。

しかし、国際金融システムという視点では、「デジタル円」を導入するかどうかはまさに日本経済の死活問題にもなるのである。国際金融システムが将来激変する予告になったのは、フェイスブックなどがバックアップする「リブラ」と、中国の法定通貨である「デジタル人民元」の立ち上げである。

「リブラ」とはフェイスブックが中心になって結成した「リブラ評議会」が発行元になるデジタル通貨だ。デジタル通貨という点では特に新しい特徴があるわけではないが、注目を集めているのは、その使用範囲の広さである。

現代、フェイスブックには約27億アカウントが存在すると見られている。実に世界人口の3分の1がアカウントを持っていることになる。

「リブラ」は、フェイスブックにアカウントを持つものがメッセージやファイルの送受信に使う「フェイスブック・メッセンジャー」と同レベルの使い勝手のよさで、「リブラ」の送金と入金を可能にする仮想通貨だ。

また「リブラ」の当初の構想では、「リブラ」を安定させるため、「リブラ」の価値は、ドル、ユーロ、円、ポンド、人民元などの国際決済に使われる法定通貨の平均価値に固定され、安定させるとしていた。

約27億のアカウント、安定した価値、極端に安い手数料、そしてメッセンジャーのような使い勝手の良さとすべての条件のそろった「リブラ」が導入されると、これがものやサービスの輸出入の国際決済にも利用される可能性が高くなる。ドルに代わる新たな国際決済通貨になってしまう可能性も否定できなくなる。

これに対して脅威を感じた米議会はパニックのような拒否反応を示した。フェイスブックのCEO、ザッカーバーグを始め、「リブラ協会」の幹部が米議会の公聴会に呼ばれ査問された。そのため、2020年内としていた発行時期は難しいと見られていた。また、「リブラ」の消滅を懸念する声も強かった。

そこで「リブラ協会」は、米議会の圧力と要望を受け入れ、ドルなどの単一通貨を裏付けとする発行に方針転換した。これまでの複数通貨を裏付けとして価値を保証する「通貨バスケット制」は放棄はしないが、当初の方針からは後退し、「リブラ」の価値を保証する上での法定通貨の優位性を受け入れた。

そうした状況なので、これから「リブラ」の開始は加速すると見られている。具体的には、米ドルを担保資産とする「LibraUSD」、ユーロを担保資産とする「LibraEUR」、英ポンドを担保資産とする「LibraGBP」、シンガポールドルを担保資産とする「LibraSGD」となる。

また将来的には、これらすべてをまとめて、従来のコンセプトの「リブラ」を発行できるよう進めていくとしている。

Next: アメリカがパニック的な拒否反応を示したのは「リブラ」だけではない――



米国が警戒する「デジタル人民元」の動向

アメリカがパニック的な拒否反応を示したのは「リブラ」だけではない。かねてから中国が計画している「デジタル人民元」にもアメリカは最大限警戒している。

だが中国は、アメリカの拒否反応と警戒感を気にする様子はない。パンデミックによる社会的接触の制限で進むキャシュレス化も追い風となり、中国政府は中央銀行の発行する「デジタル人民元(DC/EP)」の実用化を急速に加速させている。東南部の蘇州市で、「デジタル人民元」を使った最初の実用化プロジェクトを5月に開始している。

まずは、公務員の受け取る交通費手当を「デジタル人民元」で支給するという。「デジタル人民元」を受け取るには専用のウォレットアプリが必要となり、決済アプリの「アリペイ」を運営する「アリババグループ」も開発に携わっている。利用者は、銀行口座を通して「デジタル人民元」を受け取るとしているが、将来的には決済アプリでも使用できるようになるようだ。

さらにブロックチェーンを国家政策と位置付けている中国政府は、ブロックチェーンの「標準化委員会」の設立を発表した。「工業情報化部」の副大臣や中央銀行のメンバーを中心に、幹部はすべて官僚で構成されるという。

委員会には71人のメンバーが在籍しており、「テンセント」や「ファーウェイ」といった民間企業からも選出されている。

なぜアメリカはパニックするのか?

このように、「リブラ」と「デジタル人民元」が国際決済に使われる基軸通貨となると、これまでのドルを中心とした国際決済システムが変化してしまう恐れが出て来る。これは、便利な支払い手段としてのデジタル通貨が増えたという簡単な話ではない。それは、世界の地政学の配置転換さえ引き起こしかねない大問題なのだ。

もちろんそれには、「デジタル円」の構想も巻き込まれている。

しかし、そもそもなぜアメリカはドルを基軸通貨とした既存の国際決済システムの転換を恐れているのだろうか? その理由を知るためには、そもそも論になるが基軸通貨とはどういうものなのか簡単におさらいしておこう。

これまでのグローバル経済のシステムがその全体像を現したのは意外に最近のことだと考えられている。1990年代前半ではないかというのだ。

アメリカは1990年代のはじめくらいに、国内の製造業を放棄し、金融産業によって成長する新しいモデルに転換したといわれている。これは、新興国である中国にアメリカ国内の製造業の拠点が移動してしまい、もはや製造業によって経済成長をけん引できなくなたことにある。産業の空洞化である。日本も同じ状況に置かれたが、アメリカは国内の製造業をむしろ積極的に放棄することで、この変化に適応しようとした。

アメリカは関税率を徹底して引き下げて自由貿易主義を採用し、その広大な国内市場を世界に対して開放する一方、世界の国々には、自由に投資が行われるように徹底的な規制緩和を強く求めた。この結果、アメリカの旺盛な消費需要を当てにして各国からの輸出は急増して、莫大なドルが各国に代金として支払われた。アメリカの旺盛な消費需要に依存して、各国の成長スピードも加速した。

一方各国は、支払われたドルをそのまま自国通貨に交換することはできなかった。通貨の価値は外国為替市場での通貨に対する需要と供給の関係で決まる。したがって、各国が保有するドルを自国通貨に変換しようとすれば、それはドル売り、自国通貨買いとなるので、自国通貨の価値は上がってしまう。自国通貨の上昇は輸出に対する大きなブレーキとなる。そのため各国は、ドルと自国通貨の交換は制限しなければならなくなる。この必要から生まれたのが、ドルの再投資である。

自国通貨の価値上昇を嫌う各国は、手持ちのドルの多くを自国通貨に交換することはできないので、ドルのままアメリカへと再投資してやるほかなくなる。すると、輸入代金として支払った莫大なドルがそのままアメリカへと還流してくる流れが作られた。

各国はドルを、
1)米国債の購入
2)アメリカのあらゆる金融商品の投資
3)ローン
4)企業買収
などの投資に使った。

こうして再投資されたドルの一部は、アメリカの投資銀行やヘッジファンドの手を経て、中国やインドなどの新興国市場へとさらに投資され、これらの国々の経済成長を支えたのである。新興国はさらにアメリカ市場へと輸出し、そして支払ったドルを再度アメリカに還流させ同じ循環を繰り返した。

これは、アメリカにとっては実に好都合なシステムだ。消費を拡大して輸入を続けるだけで、ドルが還流して米国債や金融商品が飛ぶように売れるのだ。米政府の財政状況がどれほど悪くても、結局は米国債が売れ、財政は補填される。アメリカ政府の財政は税収をはるかに越える規模に拡大することが可能となり、それが軍事力を中心とした世界覇権維持の基礎となった。

このようなドル循環のシステムは、アメリカの国力の重要な基盤になったのだ。

もし万が一、「リブラ」や「デジタル人民元」のような通貨が国際決済に使われる基軸通貨になってしまうと、アメリカのこのドル循環システムは崩壊するか、または弱体化する。これはアメリカにとっては死活問題だ。

アメリカには「リブラ」や「人民元」の出現を恐れ、これを抑圧する十分な理由があるのである。

Next: だが、アメリカのこのような抵抗にもかかわらず、国際決済に使えるデジタ――



それでも進む国際決済通貨のデジタル化

だが、アメリカのこのような抵抗にもかかわらず、国際決済に使えるデジタル通貨の需要は高い。その理由は比較的に単純だ。ドルを基軸通貨とする既存の決済システムでは送金と決済のシステムは複雑で、なおかつ送金や決済にかかるコストが高いのだ。

輸出入の国際決済がドルのような外国為替で行う場合、企業は海外の銀行に預金口座を開設することが必要になる。その口座に代金の入金や出金を行うことで決済する。国際決済においては、すべての決済を仲介する国家機関は存在しない。国際決済は下のような銀行間の入出金のやり取りとなる。

送金元の日本の銀行 → 海外の中継銀行1 → 海外の中継銀行2 → 受取先の海外の銀行

このとき、海外の銀行間の送金には「SWIFT」という通信システムが使われる。「SWIFT」とは「国際銀行通信協会」の略で、ベルギーに本部がある非上場の株式会社が管理する金融機関専用の通信システムのことだ。

これは、あくまでドルを決済通貨としたシステムである。資金の送金や入金、証券の取り引きなど、国境を越えて行われるあらゆる金融取り引きは「SWIFT」を使っている。国際金融ではなくてはならないシステムだ。

しかしこれは、理想的なシステムといえるようなものではない。「SWIFT」は1970年代にできたシステムで、すでに50年近く経っている。いくつかの問題がある。

その1つは、多くの銀行が決済過程に関わるため、入金と出金に時間がかかることだ。送金銀行、中継銀行、受取銀行のそれぞれが手続きや処理を個別に行うので、着金までに少なくとも3日から5日もかかってしまう。さらにこの間に土日や祝日などが入ると、1週間以上かかることもある。製品の製造に世界中に分散する生産拠点を結ぶ複雑なサプライチェーンが関与する現代のグローバルな生産体制では、決済にかかるこの遅さは致命的な欠陥だ。

もうひとつは、手数料がかなり高いという点だ。「SWIFT」では、関わる銀行のすべてがそれぞれ手数料を徴収する。送金元では送金手数料、中継銀行ではその手数料、そして受取先では受取手数料が発生する。この結果、決済に必要となる合計コストは必然的に高くなってしまう。

これらの「SWIFT」の欠点は、スムーズで迅速な決済を求める現代のグローバルな企業にとっては、なんとか解決したい問題だ。

これは、ブロックチェーンやAI、さらにビッグデータなどの最先端のAIを駆使して効率的に運営されるサプライチェーンが、決済の過程だけはいまだに70年代のシステムだというのはあまりにアンバランスだ。少しでも製品やサービスの輸出入にかかわる企業であれば、時間がかからず、送金コストが安い決済システムを求めるはずだ。これはしごく当然の要求だ。

Next: こうした要求を充足する理想的な決済方法こそ、デジタル通貨によるものだ――



デジタル通貨であればそれが可能

こうした要求を充足する理想的な決済方法こそ、デジタル通貨によるものだ。いま立ち上がりつつある「リブラ」にしろ「デジタル人民元」にしろ、デジタル通貨による決済には銀行による仲介も、「SWIFT」のような専用の送金システムも不要だ。資金のやり取りは、相互のウォレットを介して直接行われる。そのため、決済に要する時間は一瞬である。

また、銀行や「SWIFT」のようなシステムが介入しないので、手数料は極端に安い。これはグローバル市場で経済活動を行う企業にとっては、願ってもないことだ。こうしたデジタル通貨を、決済手段として導入することへの期待が高まるのは当然だ。

このような事情のため、アメリカが圧力をかけようとも、デジタル決済手段を待望する声は強い。

もちろん、価値が安定して投機的な乱高下がなく、ハッキングなどでウォレットから資金が盗まれるというセキュリティ上のリスクがないことが条件になるが、そうしたデジタル通貨が利用可能となれば、迅速なトランスアクションが求められるグローバル経済では、使用頻度は確実に高まるだろう。

「デジタル人民元」が国際決済通貨に?

こうした状況で将来の国際決済通貨になる可能性がもっとも高いのは、年内にも本格的に導入される可能性が高い「デジタル人民元」である。

もちろん立ち上がった場合、「リブラ」も決済に使われるだろうが、むしろ「リブラ協会」のような民間団体ではなく、中央銀行が価値を保証する正式な法定デジタル通貨である「デジタル人民元」が国際決済通貨になる可能性が高い。銀行の仲介を必要とせず、送金側と受取側のウォレット間で一瞬で決済が完了し、手数料も極端に安い決済方法は、一度導入されると燎原の人のように拡大するかもしれない。

こうした状況で、ドルや円のようなデジタル化していない法定通貨の決済方法と併存した場合、どのようなことが起こるのだろうか?

一方は70年代の時代遅れの「SWIFT」を使い、高い手数料に加え、下手をすると1週間もかかってしまう決済方法と、すべての取引が一瞬で済むデジタルなシステムでは、やはり後者に軍配が上がることは確実だろう。

次第に国際決済通貨としては既存のドルや円は使われなくなる方向に向かうかもしれない。

さらに決済通貨である「デジタル人民元」で決済が行われるも、円がデジタル化してない状況では、企業が輸出代金として得た「デジタル人民元」をデジタルではない既存の円に転換したり、また輸入の際は既存のデジタル化していない円を「デジタル人民元」に転換しなければならない。

このシステムがどのようなものになるのかはまだ見えないが、この過程で銀行のような金融機関が関与し、それが新たな手数料の発生源になる可能性もある。これは銀行には新たな利益をもたらすかもしれないが、輸出入を行う企業にとっては取引コストの増大となる。

できれば、「デジタル人民元」と「デジタル円」は、手持ちのビットコインを取引所でイーサリアムに交換する操作と同じくらいの容易さで転換でき、手数料も限りなく低くなることが望ましい。

トレンドに乗り遅れないための「デジタル円」

このように、「デジタル人民元」のようなデジタル法定通貨が国際決済通貨となる世界的なトレンドのなかで、「デジタルユーロ」や「デジタルポンド」、さらには「デジタルスイスフラン」の構想と研究も進んでいる。

将来は複数の法定デジタル通貨が立ち上がり、「デジタル人民元」を基軸通貨にしながらも、複数のデジタル法定通貨で決済が行われる方向に向かうかもしれない。こうした世界的なトレンドに乗り遅れないためには、円もデジタル化を目指すのは避けられないのだ。

そして、基軸通貨としての地位を失いたくなければ、最終的にはドルもデジタル化しなければならなくなるだろう。

一方この動きは、利益の多くを送金手数料に依存している既存の銀行にとっては大きな損失になる。そのため日銀も「デジタル円」の勉強会を立ち上げてはいるが、早期の導入の予定はないとしている。「デジタル円」の本格的に導入は、既存の金融システムの転換になる。これを実現するためには、銀行を含めた既存の金融機関の了解が必要になるので、日本のメインバンクを巻き込んだ包括的なプロジェクトでなければならないだろう。

6月3日にスタートしたデジタル通貨の「検討会」は、この方向に向かう第一歩であろう。そして検討を重ねながら、「デジタル円」の本格的な導入に向けて動き出すはずだ。

いまのところ時期は確定できないものの、年内にも「デジタル人民元」が本格的に導入されると見られているので、法定通貨のデジタル化は加速するに違いない。その流れの中で、「デジタル円」の導入も時間の問題となってこよう。

Next: では「デジタル円」が導入された場合、我々の生活はどのように変わるのだ――



「デジタル円」の導入で生活はどう変わるのか?

では、「デジタル円」が導入された場合、我々の生活はどのように変わるのだろうか?

冒頭に書いたように、すでにスマホを介したさまざまなタイプのデジタル決済がすでに導入でされているので、「デジタル円」が導入されてもさほど大きな変化は感じないはずだ。「PayPay」や「Line Pay」などの既存のデジタル決済と同じように、日常的な買い物ではスマホをレジにかざすと、ウォレットに入金されている「デジタル円」から支払いが完了するという感じなる。

そして銀行だが、「デジタル円」の導入後も生き残る公算は高い。月々の給与や預金など保有している高額な「デジタル円」全額をスマホのウォレットに入れて持ち歩くのはリスクが高い。発行された「デジタル円」はすべてブロックチェーンに記録されているので、スマホを紛失したり、スマホが壊れたとしても、保有する「デジタル円」を失うことはない。しかし、それでも保有する高額の現金を持ち歩くことには抵抗がある。

そうした状況で、おそらく銀行が口座形態で「デジタル円」の個人用ウォレットで「デジタル円」を保管し、個人はその口座から必要な「デジタル円」をその都度引き出して、スマホのウォレットに入金して使うということになると思う。

さて、長くなるので今回はこの辺にしたいが、実は「デジタル円」でもっとも大きな影響があるのは、中央銀行の金融政策かもしれない。発行された「デジタル円」はすべてブロックチェーンに記録されるので、発行された通貨の正確な流通量と、使用状況が把握できるのである。

これが「デジタル円」ならではの金融政策を可能にするかもしれない。長くなるので、この解説はまた別の機会に譲ることにする。

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ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』2020年6月22日号より一部抜粋
※記事タイトル・リード文・本文見出しはMONEY VOICE編集部による

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