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セブン&アイ、米コンビニ2兆円買収は鬼門?併設のガソリンスタンド経営で苦境へ=児島康孝

セブン&アイ・ホールディングスは3日、米子会社を通じて石油精製会社マラソン・ペドロリアムから210億ドル(約2兆2,000億円)で、ガソリンスタンドと併設のコンビニエンスストアを買収すると発表しました。これは単なるコンビニ買収では終わらず、困難なガソリンスタンド経営もうまくやる必要があります。(『「ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!」連動メルマガ』児島康孝)

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2兆円超のガソリンスタンド・コンビニ買収劇

セブン&アイ・ホールディングスは、米国セブン-イレブンを通じて、米国の石油精製会社マラソン・ペドロリアムから、210億ドル(約2兆2,000億円)で「スピードウェイ」ブランドのガソリンスタンドと、その併設型コンビニエンスストアを買収すると発表しました。

セブン&アイの発表資料によると、アメリカではガソリンスタンド併設型のコンビニが多く、その数は全体の8割前後。

米国セブン-イレブン(本社・テキサス州、全体約9,800店舗)では、2018年1月に、スノコ社からほぼガソリンスタンド併設型のコンビニ1,030店舗を買い取っており、こうした店舗での経営の実績から、今回の大型買収を進める決断を下したものとみられます。

セブン&アイの資料から伺えるのは、そこそこのガソリンスタンド経営を続けて、併設のコンビニで利幅の大きいオリジナル商品の扱いを増やせば(=規模のメリット)、堅調な経営ができるだろうという狙いです。

実際、これまで米国セブン-イレブンは、ちょこちょこ小さめの買収を進めており、その自信も伺えます。

こうした実績のもとで、今回「スピードウェイ」ブランドを主力とする約3,900店舗を一気に手中におさめるという経営判断をしたのでしょう。

日本と異なる米国の「コンビニ」

日本のコンビニエンスストアと、米国の「コンビニ」は、大きく事情が違っています。

日本のコンビニは、アメリカで始まったものを、日本で「開花」「進化」させたものです。現状のアメリカでは、日本のコンビニのように商品が整った店は、ほぼ皆無です。

日本のコンビニ各社のような細かなオペレーションは、アメリカでは実行することができません。アメリカのコンビニは、日本人の感覚では雑貨店とコンビニの間のような感じでしょうか。調理パン・お菓子・ドリンクも、それほど揃っていません。

米国セブン-イレブンは、アメリカのコンビニの中ではがんばっている方で、商品価格も安かったりするのですが、米国のお国柄か、あまり細かな良し悪しを気にしていないところもあり、そこが難しいところです。

日本のように商品の補充や配送を細かく行うことはできず、もしそれを実行するならば、膨大なコストがかかります。

こうした状況もあって、アメリカでは、コンビニが成長産業とは思われていません(実際に成長産業ではない可能性もあります)。

このため、業界トップの米国セブン-イレブンでも、店舗数のシェアは約6%に過ぎません。ダイナミックなM&Aのような大きな資金が入って来ないため、コンビニ業界自体が「小規模乱立」か、「小規模分散」のままという感じなわけです。

Next: セブン&アイ・ホールディングスは今回の買収で、210億ドルのうち130億――



セブン&アイ全体の有利子負債は3兆円へ

セブン&アイ・ホールディングスは今回の買収で、210億ドルのうち、130億ドルをブリッジローン、80億ドルを日本側から米国セブン-イレブンの増資の引き受けで調達します。

計画では、現在の約1兆円規模の有利子負債が、今回の買収直後には約3兆円規模に膨らむ見通しです(資産売却で約2兆6000億円に圧縮予定)。

グループ内には、そごう・西武の経営の難題や、イトーヨーカドーの今後の姿をどうするのかなど、微妙な問題も抱えています。

セブン&アイの株価が、今回の買収の発表に、ネガティブな反応を示したのも、仕方がないでしょう。

セブン&アイ・ホールディングス<3382> 日足(SBI証券提供)

マラソン・ペドロリアムにすれば、210億ドル(約2兆2,000億円)を手に入れることができるため、良い話でしょう。

実は「ガソリンスタンド部門」は伸びていない

今回の買収で、もっとも気になる点があります。それは、ガソリンスタンドの経営についてです。

米国セブン-イレブンは、ガソリンスタンドとコンビニ店舗をスノコ社から買ったあとも、ガソリンの売上数量を買収前後で比較すると、微減だったりして、あまり伸ばせていないのです。

そして、今回の買収対象の「スピードウェイ」は、販売額の割合ではガソリンの販売額が大きく、コンビニ商品の販売額の割合は小さめとなっています。

つまり、薄利多売のガソリンの比率が大きくて、コンビニの方は販売額が小さいが、そのコンビニでかなりの利益を上げている構造です。

これはどういうことかと言いますと、販売額が大きいガソリンの方がもしどうにかなってしまうと、経営が一挙に傾いてしまう可能性もあるということです。

これは、コンビニの経営というよりも、ガソリンスタンドの経営が重要になるということです。

Next: 店舗数が今後も増えていきますと、ますます、そのような「スタンド色」が――



ガソリンスタンド経営に追われる?

店舗数が今後も増えていきますと、ますます、そのような「スタンド色」が強まってくる可能性があります。

現在のアメリカのコンビニのシェアが細かく分かれているのも、もしかしますと、ガソリンスタンドの経営が難しくて、そのようになってきたのかもしれませんね。

ということで、今回の買収の完了後には、セブン&アイ・ホールディングスは、ガソリンスタンドの経営に追われるようになるでしょう。

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image by:Ned Snowman / Shutterstock.com

ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2020年8月3日号)より抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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