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習近平は「世界を敵に回す覚悟」を決めた。賽は転がり戦争が始まる=矢口新

香港国家安全維持法は、習近平にとって「賽は投げられた」ではないか?中国が英米の干渉を恐れる必要がないほど、力をつけたという自信の表れだとも取れる。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2020年8月3日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

後戻りできない習近平

「賽(さい)は投げられた」(古典ラテン語:alea iacta est、アーレア・ヤクタ・エスト)とは、ガイウス・ユリウス・カエサルが紀元前49年1月10日、元老院のグナエウス・ポンペイウスに背き軍を率いて南下し、北イタリアのルビコン川を通過する際に言ったとして知られる言葉である。

意味は「サイコロが振られた(もはや運命に向かって事は進み始めた)のであり、後退はできない」といった意味の表現のことだ。

香港国家安全維持法は、習近平にとって「賽は投げられた」ではないか?

形骸化した「一国二制度」

1984年12月19日に、英中共同声明が発表され、イギリスは1997年7月1日に香港の主権を中華人民共和国に返還し、香港は中華人民共和国の特別行政区となることが明らかにされた。共産党政府は鄧小平が提示した一国二制度(一国両制)をもとに、社会主義政策を将来50年(2047年まで)にわたって香港で実施しないことを約束した。

鄧小平は中国を変えた。「白猫でも黒猫でも鼠を捕るのが良い猫だ」だとして、イデオロギーにとらわれず、経済発展に役立つことを評価しようとした。これは清濁併せ飲むことを意味し、多様性を尊ぶことも意味している。何しろ、鼠さえ捕ればいいのだから。

私は仕事柄、香港人にも知り合いがいたが、彼らはおおむね中国への復帰を歓迎していた。一国二制度なら生活の実態はそれほど変わらない。また、中国が一国二制度を守らなければ英米が許さないだろうから、それなら植民地で居続けるより、同じ民族との国家に帰りたいといったものだ。

ここ20年の中国の台頭を、華僑など国外の中国人たちはおおむね歓迎してきたのではないか?

今は共産党独裁の国家だが、自由主義経済を事実上は受け入れたことで、いずれは政治も自分たちが住んでいる国々と似た体制になることを期待してきたのではないか?そうすれば、同じ民族として協力発展できる可能性も大きくなる。

ところが、香港国家安全維持法は、外国人と共謀して中国中央政府あるいは香港当局への「憎悪」を誘発する行為は犯罪とみなされる可能性があるなど、複数の行為を犯罪とみなし、最高で無期懲役を科すとしている。

そして、中国大陸側の保安担当者が香港で合法的に活動することを認めている。

また同法では、裁判が非公開で行われたり、陪審員なしで行われたりする可能性があるという。裁判官は、中国に対して直接的な責任を負う香港特別行政区行政長官が任命できる。

加えて、容疑者は保釈されない。容疑者の拘束期間についても制限がない、事件は「しかるべきタイミングで」処理されるべきだとだけ記されている。

捜査から判決、処罰に至るまでのすべてを、中国大陸の当局が引き継ぐこともできる。つまり、中国当局の「主観」で誰でもが犯罪者となり、中国本土で懲役刑に科される可能性が出てきたのだ。

このことは「一国二制度」が2047年を待たずに形骸化したことを意味し、中国の制度が西側に近くなるどころか、機会さえあれば1党独裁国家に組み込むことを示したのだ。

Next: 力を付けた中国の暴挙。「米国の敵」を束ねて世界覇権を狙う



「米国の敵」を束ねて世界覇権を狙う

これは、中国が英米の干渉を恐れる必要がないほど、力をつけたという自信の表れだとも取れる。

中国の途上国68カ国への融資状況で、18年末の残高は1,017億ドルと、4年間で約2倍に急増し、世銀の1,037億ドルに迫った。この間、世銀は4割増、IMFは1割増だった。

中国の金利は融資期間が比較的短いにもかかわらず平均3.5%と、IMFの0.6%や世銀の1%を大きく上回る。

途上国は融資の条件として財政規律などを迫られるのを嫌う傾向が強い。金利が高くても中国を頼るのは、こうした制約がIMFなどに比べて少ないためとみられている。

「香港の情勢を批判するのは中国への内政干渉にあたる」。中国が統制強化のために施行した「香港国家安全維持法」を巡り、6月末の国連人権理事会で53カ国が中国を支持した。中国批判の声明に加わったのは日本を含む27カ国にとどまり、ほとんどは先進国だった。

ロシアは長引く米国の経済制裁から中国へ歩み寄り、トルコは米国の中東政策の失敗からロシアに、ひいては中国に歩み寄った。ロシアと中国は軍事同盟を結んで合同演習を繰り返し、ロシアの5G網は中国が請け負うことになった。トルコは米国の反対を押し切って、ロシア製の兵器を購入した。

中東ではイランに続き、サウジアラビアやイラクも中国に近付いている。サウジはジャーナリスト、カショギ氏暗殺を米国から責められたためと、米国がいつまでたってもイスラエル優先を捨てないからだ。

イスラエルには核兵器があるが、アラブ諸国にはどこもない。サウジの核開発には中国が協力している。一方、イラクはフセイン政権が潰されただけで、事実上の無政府状態に置かれている。アラブのプライドが傷つけられたのだ。

端的に言えば、米国にいじめられてきた国々が、最近になっていじめられるようになった中国と組んでいるのだ。

経済的に疲弊しているこれらの国々にとって、中国の資金力と購買力は大きな魅力だ。技術力も高い。中国とすれば、ロシアの核とサウジの石油があれば、米国と戦える。途上国の票があれば国連など国際機関でも戦える。

あるいは、香港を含め国内で高まってきていた抵抗運動をこのままでは制御できなくなるとの危機感の表れだとも受け取れる。

いずれにせよ、英米政府だけでなく、グローバルな中国民族を敵に回してでも守りたいもの(体制)があったということなのだろう。

賽は投げられた、と思う。

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image by:Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2020年8月3日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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