例年夏にはオークションで盛り上がるアンティークコインの世界。いくつかはコロナでキャンセルされましたが、今年は象徴的な変化がありました。1つは希少コインの高騰です。(『一緒に歩もう!小富豪への道』田中徹郎)
株式会社銀座なみきFP事務所代表、ファイナンシャルプランナー、認定テクニカルアナリスト。1961年神戸生まれ。神戸大学経営学部卒業後、三洋電機入社。本社財務部勤務を経て、1990年ソニー入社。主にマーケティング畑を歩む。2004年に同社退社後、ソニー生命を経て独立。
希少コインは暴騰
例年7月から8月にかけて、コインの世界はオークションで盛り上がります。コロナの影響でいくつかのオークションはキャンセルされましたが、それでも今年の夏は例年以上に熱い夏でした。
この夏場のオークションを振り返ると、いくつかの象徴的な変化がありました。
1つは、希少なコインの暴騰です。
たとえばヘラクレスが描かれた、フランスのピエフォー(※)50フラン金貨です。
(※:通常のコインの倍の厚さのコインです。フランスでは16世紀以降、伝統的にピエフォー貨が造られてきました。)
このコインは春先まで110万円ほども出せば買えたものですが、今夏のオークションでは160万円以上が当たり前になりました。
同時に発行されたプラチナ貨はさらに希少品ですが、こちらも200万円以上が新相場です。
あと参加者を驚かせたのは、イギリス領インドで発行されたウィリアム4世の2モハール金貨です。
たしかに状態は素晴らしくPR66と2番目の高鑑定でしたが、落札価格はビックリの17万ドル!落札者の総支払額は約2,400万円です。
このように希少性の高いコインや状態の良いコインについては、私たちは過去の相場を忘れなければなりません。
過去の相場は当てにならない
コインの世界では、現在進行形で新しい相場が形成されつつあるといえるでしょう。
この動きは、上記のような高額コインだけのものではありません。たとえば、「古代のコイン」です。
昨年あたりまでは1枚4万円から5万円ほどで落札できた、ビザンツ帝国(東ローマ帝国)のソリダスと呼ばれる金貨群。4グラムほどの小さなコインですし、デザインも工夫がなく、さして面白いコインではありません。それでも、5万円はいかにも安すぎました。安すぎるものはいずれ水準が訂正されるものです。夏場のオークションでは、鑑定会社ケース入り、グレードAU程度の欠点のない個体なら、総支払額ベースで12万円から17万円が新しい相場です。
クシャン朝インドも相場訂正の過程にあります。あいかわらずVF程度の並状態のコインなら10万円以下で買えますが、EFやAUなどの好状態のコインなら、オークションで100万円以上の値を付ける個体も出てきました。
先日の国内オークションでカニシカ1世のEF+は60万円で始まりましたが、なんとハンマープライスは145万円です。落札者の総支払額ベースでは160万円になりました。
昨年までなら、ちょっと考えられない相場です。
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コイン相場全体で「水準訂正」が起きている
以前から僕は古代インドのディナールは安すぎると申し上げてきましたが、これでやっと適正相場に近づいたと思います。
古代アケメネス朝ペルシャのダリックと呼ばれる金貨も、ここ数か月で急騰した印象です。昨年あたりまではAUクラスが20万円代で落札できたのですが、この夏の新相場は50万円代に突入です。「走る王」が描かれたこの金貨もデザイン通りの快走をみせています。このコインなども過去の相場は異常に安すぎました。今から2400年前に造られた歴史遺産が20万円で手に入るなど、よく考えれば変です。
このように夏場に入ってのコイン相場上昇は、一部の希少コインだけの高騰にとどまらず、相場全体の水準訂正という色彩が濃いのではないかと僕は思います。
一過性のブームではない?
このような相場水準の訂正は、どのような背景で起きているのでしょうか。
僕は単なる一過性のブームだとは思いません。コイン相場全体に見られる水準の訂正は、以下のような世界経済の変化を反映したもので、ある意味で自然なものではないかと思います。
1)コロナによる世界経済の収縮
↓
2)各国政府による過去最大の財政出動と、中銀による巨額のマネー供給
↓
3)相対的な実物資産への信頼感の高まり
コロナは近々終息が予想されますが、新たな感染症の流行は、今後もあるとみておくべきではないでしょうか。
西暦2000年以降のわずか20年ですら、SarsにMers、そして今回の新型コロナです。人と動物の居住圏の重なりや人間の行動範囲の拡大は、新しい感染症の発生を予想させます。
そればかりではありません。
市場に供給された巨額のマネーは経済の振幅を拡大し、それがまた経済危機のきっかけになるでしょう。ひとたび危機が起きると、政府は財政出動とマネー供給を拡大し、危機を抑え込むことになります。
このように各国政府の財政の規模拡大は止まるところを知らず、それと呼応する形で市場には未曽有のマネーが供給され続けることになるでしょう。
巨額のマネーは相場の振幅を拡大し、現預金ですらその難から逃れることは難しいでしょう。
その場合、富裕層ほど被る被害は大きくなり、彼らが資産の一部を実物に移動させる流れは止めようがないと僕は思います、
言い換えれば現在と近未来を覆う私たちの不安感の台頭が、コインはじめ実物資産の相場を押し上げているのではないでしょうか。
以上が、僕が考える「コイン新相場」の解釈です。
『一緒に歩もう!小富豪への道』(2020年8月20日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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