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個人投資家にとって忌まわしき「ストップロス狩り」の罪=櫻井英明

大口によるストップロス狩りは、まじめな個人投資家にとっては忌まわしい取引としか思えない。こういう手法があるなかで経済指標をアレコレ論じることにむなしさを感じる。(『「兜町カタリスト」』櫻井英明)

高速取引よりも厄介な「ストップロス狩り」のしくみ

ヘッジファンドが使う3つの投資手法

いつも悪役にされるのがヘッジファンド。かといってすべてのヘッジファンドが人でなしである訳もない。彼らの代表的な投資手法は3つとされる。

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1.ロングショート戦略

伝統的な投資手法である。割高になっている株の売りと同時に割安な株を買い。価格が適正な価格になるのを待って利益を上げようとする戦略だ。買いと売りを同時に持つことで、どちらかの損失をどちらかがヘッジする役割。だからヘッジファンドというし、もっとも運用されている戦略。昔の兜町では「ツーショット商い」なんて表現もされていた。

2.グローバルマクロ

世界全体の経済状況を把握しそこから将来の金融市場の動向を予測。そのうえでさまざまな金融商品に投資をする手法。経済の流れをつかんでの投だから先物・為替・株式と様々な金融商品を複雑に組み合わせる。そして利益を狙う手法は多種多様。大きな資金を使用した攻撃的な運用が特徴。時に、通貨危機のような歴史的な金融危機を起こす引き金になってしまうこともある。

3.マーケットタイミング

株価が上昇基調の時には、買うタイミングを選んで買いを選択。下落相場の時には、安全な金融資産を持つことで資産を守るという戦略。タイミングを計るという点では個人投資家の戦略によく似ている。ただ、決定的に異なるのは、その資産規模の違い。規模の大きなものになると、自ら流れを作り出すことも可能となるからややこしい。この特殊なものが「ストップ狩り」と言われるという。

こうしてストップロスは狩られる

株でも為替でも、価格が下落して割安感が醸し出されると、相場観的安値認識から買い注文を入れる。ところが、ここでさらに価格の下落を狙って大量の売り注文を入れれば、相場観的安値認識は崩壊。

売りが売りを呼ぶ商いは昨年からのWTI原油先物で見た通り。あるいは直近のドル円の円高でも一緒だろう。つまり「抜けるときには一気に抜きさらなければならない」のは個人もヘッジファンドも一緒。強制決済や追い証を巻き込んでの「唯一の勝者」となる。池におぼれた犬を叩いた後に、自らが買い戻しに入って一件落着。不当に売りたたかれた価格を買い戻すのだから、当然ドテン買いでも儲かることになる。

正確には「ストップロス狩り」と言った方が正しいのだろう。まじめな個人投資家にとっては忌まわしい取引としか思えない。しかしこの手法、あちこちに見られる気がするからややこしい。というか、こういう手法があるなかで正直に経済指標などをアレコレ論じるむなしさを感じる。

結局、最初にシナリオがあるのだから、コマゴマとした指標など所詮スケジュール的目印。そこを忘れてまともに経済指標などを論じるから、相場が誤解と錯覚に陥ることになる。ハナから牢屋入りを目論んでいる奉行に、何を言っても詮無いことと一緒のような気がする。これは高速取引云々の問題ではない。

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相場参加者にとって市場は社会との接点?

ところで、相場参加者の心理の一つは「金銭欲」であることは間違いない。一言でいえば「儲けたい」。

それで何をしたいかというと「欲しいものを買いたい」あるいは「良い生活をしたい=贅沢をしたい」。これが充足されているかというと、長い間相場や投資家さんを見てきたがどうも違う。願いとは裏腹に「充たされない投資成果」に右往左往という印象の方が多い。

それでも市場から離脱しない人が多い。その理由は、おそらく投資の現場において「主人公」の気分になれるからだろうか。

極論すれば…。自分が社会と直結しているという満足感が、投資行動によって再認識されるのだろう。だからこそ、持ち株は常に相場の主流でなくてはならないことになる。騒がれない銘柄を持っていても社会の最前線にいる気はしない。下げでも上げでも商いが多く、活字や映像になる銘柄こそ自己の存在証明なのだから当然。こういう心理がどうもあるような気がしてならない。

一方で、仮儒の創造にもつながるのが株式投資だろう。日常必需品を株の利益で充当する人は少ない。新しいもの・贅沢品・嗜好品・高額品を買うのは、額に汗したマネーではたぶんないはず。濡れ手にアワとは言わないまでも、株式投資から生じる利益こそ大きな消費拡大の源泉。

しかし、株価の上昇がほとんどない世界では、これらの商品も売れなくなる。3万円の商品券では、消費行動の拡大にはならない。なかったはずのお金があってこそ消費は拡大する。だから株高は必要なのだが、霞が関も永田町もココを顧みない。だから消費が覚束ないような気がする。

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「兜町カタリスト」』(2016年4月11日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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