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巷に流れるヘッジファンド売買動向が「ガセネタ」ばかりになる理由=近藤駿介

今回は20年以上主に「ファンドマネージャー」として資産運用業務に携わってきた立場から、少しお話しをさせて頂きます。

「ファンドマネージャーをしている」と言うと、多くの方から「相場はどうなるのか」「儲け方を教えてください」というような質問を頂きます。当然のように感じられるかもしれませんが、こうした質問を頂くのは、ファンドマネージャーが多くの方から誤解されている証拠でもあります。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

個人投資家の「ヘッジファンド幻想」をぶち殺す

ヘッジファンドは「株価予想」に基づいて運用しない

私が運用をしてきたファンドの多くは、「相場環境に関らず1年間で顧客の求めるリターンを確保する」ことを求められるものでした。今風に言えば「広義のヘッジファンド」の運用ということになります。

ベンチマーク運用でなく、「広義のヘッジファンド」の運用をしているとなると、多くの方は「株価予想」に基づいて運用しているのだろうと思われるかもしれません。

しかし、「株価予想」に基づいて運用することはありません

おそらくこれは私が特殊なのでなく、「広義のヘッジファンド」の運用をされている多くのプロの投資家に共通するものではないかと思います。

こうした誤解が生じるのは、メディアに登場する「専門家」「市場関係者」が、「株価予想」「私の相場観」を繰り返しているからかもしれません。簡単に言えば、メディアに登場する「専門家」と称される方々は、資産運用の専門家ではなく、外部に「株価予想」をする専門家。一般的な言葉で言えば、「広報担当」ということです。

「目標収益」と「期間」が明確さがプロの条件である

資産運用ビジネスに必須なのは「目標収益」と「期間」です。例えば「1年間で8%のリターン」といった感じです。

換言すれば、「目標収益」と「期間」が存在しない運用は、ビジネスでなく趣味だということです。

皆さんはこの「目標収益」と「期間」を設けているでしょうか。おそらくほとんどの方が設けていないと思います。なぜなら、ほとんどの方はビジネスとして投資をしているわけではないからです。

一般投資家がビジネスではなく趣味(あるいはその延長)として投資をしているということは、ビジネスとして投資をしている投資家の手法は、直接的に役に立たない可能性が高いということでもあります。

しかし、ビジネスとして投資をしている投資家も、趣味として投資をしている投資家も、同じ市場に参加しています。つまり、趣味として投資をしている投資家であっても、ビジネスとして投資をしている投資家の考え方や投資手法を知っていなければ、市場で生き抜いていくことが難しいということです。

彼を知り己を知れば百戦危うからず」。これは皆さんがよくご存知の孫子の兵法で指摘されていることです。

株価予想やテクニカル分析で投資戦略を決めることはない

「広義のヘッジファンド」の運用をしてきた私は、「株価予想」に基づいて運用をしたことはありません。しかし、「相場想定」はかなり神経質に行っていました。なぜなら1年間という限られた「期間」内で、顧客から求められた「収益」を確保していくためには、「相場想定」を間違えてしまうと、目標を達成できる可能性が急激に低下してしまうからです。

そうはいっても、実際に投資をするわけですから、最終的には「株価」に落し込まなければなりません。ですから、「株価」を全く語らないわけではありません。しかし、その「株価」は、「実際に売買可能な株価」であり、実際に売買できるか定かでない「理論株価」など無用の長物でしかありません。

一般の投資家やベンチマーク運用をしているファンドマネージャーとの違いは、「株価予想やテクニカル分析で戦略を決めることはない」というところです。

私の場合は、金融・経済や金融市場の分析に基づいた戦略(大まかに3カ月程度)を立て、そのうえで「株価」に落し込んでいっていました。つまり、一般的なテクニカル分析は「投資効率を上げるための一つのツール」でしかなく、「戦略を立てる上で使用するツール」ではありません

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巷のヘッジファンド動向は「ガセネタ」か「意図的な流布」ばかり

株式市場が低迷してくると、「ヘッジファンド」や「裁定取引」の動向が大きく取り上げられます。奇異に感じるのは、多くの投資家が「ヘッジファンドがどのように動くか」という類の「カンニング情報」を求めることです。

世の中には1万本近いヘッジファンドが存在します。そして、それらはそれぞれのスタイルで運用されているものです。ですから1万本のうちの1本の動きを知ったところで、ほとんど価値はありません。

1990年前後から、市場関係者の間ではヘッジファンドの売買動向に関する噂は流れ続けています。しかし、ヘッジファンドからの売買注文を受ける業者には本来守秘義務が課せられていますし、その業者に発注すると情報が漏れることが分かってしまえば、発注を受けることはできなくなってしまいます。

要するに、巷でまことしやかなに流れているヘッジファンド動向のほとんどは、ガセネタか、始めから流す目的で流された情報だということです。こうした情報が一般投資家の投資に役立つ可能性は極めて低いと考えた方が賢明です。

市場にはいろいろな目的と価値観を持った投資家が参加している

重要なことは、様々な価値観を持った投資家が、様々な目的を持って皆さんが参加している市場に参加して来ていることを認識することです。

逆説的にいえば、皆さんが参加しているから、ヘッジファンドや裁定取引業者が参入して来るということです。

認識しておかなければならないことは、「広義のヘッジファンド」の運用を運用している投資家は、情報に敏感だということです。それに対して、日本で主流になっているベンチマーク運用を行っている投資家や実際に運用を行ったことのない有識者などは、最も情報に鈍感な投資家だといえます。

私が皆さまにお伝えしたいと思っているのは、情報に敏感な「広義のヘッジファンド」の運用を行っている投資家が、情報をどのように受け取る可能性があるかということです。メディアに登場する情報に鈍感な有識者などとは全く違ったことをお伝えすることで、皆さんが生き馬の目を抜くような市場で生き抜いていく確率が上がると思うからです。

「カンニング」は優秀な人間の近くに座らなければなりません。しかし、皆さんが様々な価値観を持った投資家が参戦して来ていることを認識し、流れる情報をどのように受け取るかを想像できるようになれば、優秀な人間の近くに座る必要はなくなります。

さらに、「ヘッジファンド」の運用を行う投資家は、ベンチマークをなぞる運用を行う投資家とは異なり、運用の効率性を上げるために先物やオプションといったデリバティブ取引など運用技術も駆使するものです。

今月4/23(土)に開催する講座で詳しくお伝えする予定ですが、デリバティブ市場と現物株式市場がどのように影響し合ってくるのかというメカニズムを知っておくことも、市場で生き残って行くためには重要なことです。

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年4月12日号)より
※タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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