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「パナマ文書」が政局の火種に 7月参院選を前に国民世論はどう動く=斎藤満

いわゆる「パナマ文書」の流出によって、アイスランドのグンロイグソン首相が辞任に追い込まれるなど、世界の政治リーダーやエリート層の間に衝撃が広がっています。日本政府は現状静観していますが、国民世論が「不公正」を感じ、企業や富裕層の尻拭いをさせられていると感じれば、当然反発は強まり、選挙でも不利になります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

トラック1000台分の「極秘文書」は日本政局の火種となるか

「パナマ文書」スキャンダルの基本とよくある誤解

そもそもこの「パナマ文書」とは、タックス・ヘイブン(租税回避地)への法人設立を代行するパナマの法律事務所「モサック・フォンテカ」の、金融取引に関する過去40年分の内部文書のことで、これが今月4日に大量流出しました。

この情報を得た各国政府は、それぞれの指導者や著名人による脱税など、不正行為がなかったか調査を開始しました。

この40年分の機密文書を公表したのは、「国際調査情報ジャーナリスト連合(ICIJ)」という組織で、これらの文書は、世界の100以上の報道機関に流出しました。

その量が膨大で、「パナマ文書」のデータ量は2.6テラバイトと言われ、ペーパーにすると、トラック1000台分にもなるといわれます。この膨大な情報が今後続々と出てくることになります。

誤解されがちなのですが、企業がタックス・ヘイブンの地に拠点を置いたり、そうしたオフショア企業に資金を置いておくこと自体は、違法でもなんでもありません

元来、タックス・ヘイブンとは、国際金融を活発にするために、意図して税を極端に低くしたり、全く免税にしたりする国や地域を設けたもので、発端はロンドンのシティ、つまりロンドンの金融特区にあります。

それが英国領のケイマン諸島やバージン諸島などの島国を、税の優遇によって国際金融の中継点として使うことになったものです。税金の安いところに本社を置くのは半ば常識になっています。

ではこの「パナマ文書」は何が問題になるのでしょうか。次の2つの問題が指摘されます。

Next: 1. 脱税や資金洗浄などの犯罪行為が明るみに出る可能性



1. 脱税や資金洗浄などの犯罪行為が明るみに出る可能性

まず、タックス・ヘイブンに移した資金が、しばしば脱税マネー・ロンダリング(資金洗浄)麻薬取引などの犯罪とかかわることがあり、また経済制裁などに対する抜け道として使われるケースがあります。

今回流出した文書は、これら犯罪に使われる隠し財産の「証拠」となり得るものです。

最近、スイスの銀行がその匿名性や秘密主義から、脱税や資産隠しに使われているとして、米国から情報開示を求められた経緯がありますが、本件もこれに通じます。

犯罪まで行かなくとも、所得格差問題や不公正の問題も指摘されます。1%の富裕層が税逃れをするために、99%の庶民に税負担がかかることも問題視されます。主要国では財政危機が広がる分、脱税を許さない流れになっているのは事実です。

本件では、日本企業の名前も出始めました。その点、日本ではすでに昨年から、日本に居住しながら海外に隠し資産をもつ富裕層の租税回避行動を監視するようになりました。このため、夏に選挙を控えていることもあって、政府は表立って「パナマ文書」へ対応することには慎重になっています。

2. 為政者の「資産隠し」に対し道義的責任が追求される可能性

もう一つの側面は、日頃脱税や不正の取り締まりに積極的な為政者が自ら、あるいはその親族が、これらタックス・ヘイブン地域で資産運用や資産隠しをしていることに対し、道義的な責任や矛盾を問われることです。

例えば、イギリスのキャメロン首相は就任後、脱税や不正の取り締まりに注力してきましたが、その亡父がここで資産運用していたことが指摘されました。

そしてキャメロン首相は、自らその投資ファンドを首相就任直前まで保有していたことを認めています。その道義的な問題を問われ、首相は苦しい立場に立たされています。

同様の問題は、中国の習近平国家主席にも向けられています。これまで共産党幹部も含めて、徹底的に不正をあばき、処罰してきた本人の家族が、これら地域に資産を移していたことが指摘されました。

中国では習主席以外でも、党の序列第5位、並びに第7位の幹部の名前も挙がっています。「ハエもトラも不正は許さない」と厳しく規律を求めてきた張本人が、いくら家族とはいえ租税回避地を利用していたとあっては、国民に示しがつかなくなります。

もっとも、中国では国営メディアが一切報道せず、ネットのサイトもブロックかがかかっています。

Next: ゴシップでは済まされない大問題/ターゲットは米国と対立する地域?



「ゴシップ」では済まされない大問題。ロシア、北朝鮮でも

今回の問題が衝撃的なのは、世界の多くのリーダーやその親族の名前があがり、世界中に問題が広がったことです。

その点では以前、ウィキリークスで内部情報がばら撒かれ、世界中の指導者の言動が暴かれたことと通じますが、今回はそれに加えて「お金」がからみ、犯罪とも関わる可能性があるだけに、「ゴシップ」では済まされない面があります。

ロシアではプーチン大統領の友人であるチェロ奏者が、タックス・ヘイブンで資産運用し、そこで得た資金がプーチン大統領への支援に使われた、との情報があり、ロシアの大統領報道官はこれを強く否定。これは来たるべきロシア大統領選挙でプーチン大統領を不利にしようと意図した陰謀だと、厳しく非難しています。

また北朝鮮の銀行が制裁逃れのために、タックス・ヘイブンに設立した銀行から資金を調達して、核実験や軍事資金に回していたとの疑いもかけられています。

また紛争が続いたウクライナのポロシェンコ大統領は、税金逃れのために租税回避地の企業を使ったと報道され、イランやシリアのリーダーもやり玉に挙げられています。

いずれにしても、租税優遇地の設定は経済合理性を持ち、これを活用すること自体は問題ありません。実際、今回の文書のように、世界のリーダーや富裕層が利用しています。租税優遇地を犯罪に使えば別ですが、それが明るみに出るかどうかは今後の各国の調査にかかっています。

この問題をあえて今暴こうとする動きには、所得格差への不満や、何がしかの政治的意図があるかもしれません。
「パナマ文書」をリークした米国の狙い~資金源に共和党、ソロスも

ターゲットは政治的に米国と対立する地域?

パナマは言うまでもなく米国の裏庭的存在です。

今回の文書流失は大量なものですが、そのターゲットとされたのは、米国やその同盟国よりも、ロシア、中国、北朝鮮、ウクライナ、シリア、パキスタンなど、政治的に米国と対立する地域や、ドイツ、フランス、スウェーデン、オーストリアなど欧州に集中している面があります。

この情報に基づく調査について、各国政府のみならず、経済制裁の抜け道利用も含めて違法なものがないか、米国が自ら調査に乗り出す姿勢を見せている点は注目に値します。

米国は本件を利用して米国に有利な状況に進める可能性があります。そして膨大な量の情報ゆえに、今後数ヶ月にわたって、様々な案件が露呈する可能性があります。

Next: 日本の7月参院選に影響も。国民世論はどう動くか?



日本の7月参院選に影響も。国民世論はどう動くか?

前述のように、日本政府はこの問題に対しては現状静観していますが、背景には米国との「信頼関係」に頼る姿勢があり、米国が問題視しなければ、ことさら騒ぎ立てるのは政治的に得策ではないとみている節があります。

しかし、米国は許しても、日本の国民世論が「不公正」を感じ、企業や富裕層の尻拭いを税負担させられていると感じれば、当然反発は強まり、選挙でも不利になります。

「バナマ文書」の流出で世界のリーダー層には衝撃が広がりましたが、市場への影響は欧州の株やユーロにやや負担となっている節は見られるものの、ここまではまだ目立った混乱は見られません。また中国や北朝鮮、ロシアでは自らの調査が進展したり、浄化が進むことに期待はできません。

それでも西側ではアイスランドのように、これがきっかけになって、政変が広がる可能性もあります。世界全体の流れとして財政危機による国民の負担が増えていること、所得、資産格差に敏感になっていること、既存の政治に不満を募らせていること、などを考えると、今回の文書が、日本も含めて、政治的に大きな波紋を広げる可能性を見ておく必要がありそうです。

「パナマ文書」ツイッターの反応は?

だいたい、貧乏な人から鬼のごとく税金を取り、金持ちは脱税しても見て見ぬフリって、一体、どんな国なんだ。パナマ文書が流出して、世界は大騒ぎしているけれど、安倍晋三は颯爽と「調査はしない!」と言い切った。これで「アベノミクスで景気回復」とか言っているんだぜ? 茶番すぎる。
@chidaisan

EU各国は「パナマ文書」に名前の出た自国の企業を脱税容疑で捜査し始めたのに、なぜだか日本政府だけはスルーを続けている。消費税を引き上げてまで法人税を引き下げたのだから、安倍政権は国民に対して名前の出た企業を捜査する義務があるはずだ。それをしないということは安倍政権もグルなのか?
@kikko_no_blog

名無し:04/08 04:05
財源がないから消費増税します!

富裕層はパナマ使って脱税してました!

菅官房長官:パナマ文書は調査しない!!

安倍首相:かならず消費増税します!!!

なめとんのか
@2ch_NPP_info

2007年安倍は年金に関し「不安を煽る結果になる」と調査を拒否した。
2013年米国の携帯電話盗聴問題に対し、菅は事実確認はしないと述べた。
2016年租税回避者を記したパナマ文書に対し、菅は調査しないと述べた。
そして自民は東日本大震災での民主党政権の対応の調査だけ開始した。
@Japanese_Joke

個人の税金逃れを許さないようにマイナンバー制度を導入したくせに、企業や機関投資家の租税回避は黙認しますと宣言しちゃうのか。なんて政府だ。安倍政権。→ 租税回避の実態を明かした「パナマ文書」日本政府がまさかの調査しない方針 http://bit.ly/1MdMvs5
@reservologic

Next: 「まあプーチン狙いだろうな」マネーボイス関連記事へのご感想



マネーボイス関連記事へのご感想

「パナマ文書」問題に関しては、マネーボイスの関連記事(「パナマ文書」をリークした米国の狙い~資金源に共和党、ソロスも)にもたくさんのご感想をいただきました。ここでその一部をご紹介します(マネーボイス編集部)

アメリカの政治家の名前は皆無だそうで、アメリカがなんらかの目的でリークした可能性が高い。何が目的か?
@aritatakeo

アメリカの政治家の名前がパナマ文書にないのは不自然という指摘は分かるけど、実際のところ、どうなんだろうね…。
仮にアメリカの意図的なリークだとしても、世界の大富豪や大企業がタックスヘイブンを行なうことは問題であるのは事実なのでは?
@satokaneko

租税回避とか抜け穴なんていっぱいあるだろうしいいんだけど、前にロックフェラーの方が「俺らからもっと税金とりなよー」って発言してたのが非常に気になりますね(笑
@Haruka_1005

プーチン大統領がアメリカの陰謀だと言うのにも一理ありそうです。
@hoshimasahide

まあプーチン狙いだろうな。
@hurati

ジョージソロスの財団も関わってるのか。この記事は興味深いわ
@rikachan67

【関連】「パナマ文書」の目的と国内マスコミが報じない国際金融の闇=吉田繁治

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年4月12日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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