菅首相のブレーンは改革派揃いだ。安倍政権を継承するというのは自民党内における「挨拶」であって、本当は改革こそ菅政権の本命だ。「日本経済を変える」これを打ち出してほしいと思う。そうすれば、すでに20兆円を売り越してしまった海外資金は日本株式市場に流入する。(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)
※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2020年10月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
海外投資家、菅政権に期待せず
菅首相は就任に当たって安倍政策の継承を謳った。これは自民党内を丸く収めるための当然の仕儀であろうが、海外投資家から見れば「菅政権は『改革』よりも『継続』だ」と捉えているに違いない。
これではアベノミクス相場の初期から壮年期相場の大天井(2015年夏場)まで買い越した20兆円を2020年9月までに全部売り越した、あるいはそれ以上に売り越した。
その売った分が日本に流れ込んでくるようにしなければならないところを「改革よりも継続に過ぎない」と解釈されたのでは、売買の7割を占めた海外投資家筋を日本に呼び込むことは難しい。
菅政権はスローガンをぶち上げるべき
菅政権は構造改革と成長戦略に関して、信念を持ってスローガンをぶち上げることだ。元内閣官房参与でリフレ派の代表とされる浜田宏一氏(※)は週刊Newsweek誌・日本語版10月27日号への寄稿でこう述べている(※筆者注:内閣府経済社会総合研究所長〈2001年省庁改革前で言えば経済企画庁長官で国務大臣であった〉、前内閣官房参与も務めたことがある)。
以下、浜田宏一氏の意見を引用する。
1つ目のアドバイスは、引き続き金融緩和を推進することだ。<中略>
2つ目のアドバイスは「健全財政」なる時代遅れの概念を売り込む専門家を過信しないこと。<中略>
3つ目のアドバイスを提供したい。構造改革と成長戦略に関してはぶれずに信念を貫くこと。
出典:スガノミクスは構造改革を目玉にせよ――安倍政権ブレーンが贈る3つのアドバイス – ニューズウィーク日本版(2020年10月23日配信)
以上、原文のまま拾い出した。次からは私見である。
インフレ率がごくわずかで金利がGDP成長よりも低い日本では、財政赤字は気にする必要はない。だいたいこれをGDPと比較することがナンセンスだと筆者は思っているし、本稿でも述べてきた。個人と違って国家は永続する。個人の場合でさえも、年収の何倍もの住宅ローンを借りて平気である。国民経済にとっての年収とはGDPだ。それと比較すること自体ナンセンスである。健全財政派の雑音を織り込む専門家に左右されてはならないと思う。
また、自民党のどの派閥にも属していない菅首相は抵抗勢力には耳は貸さないだろうし、菅首相のブレーンは改革派揃いだ。安倍政権を継承するというのは自民党内における「挨拶」であって本当は改革こそ菅政権の本命なのだ。
「日本経済を変える」、これを打ち出してほしいと思う。そうすれば、すでに20兆円を売り越してしまった海外資金は日本株式市場に流入する。そうでなければ大相場はない。
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スローガン倒れだった安倍政権。菅政権には期待できる?
安倍政権の成長戦略はスローガン倒れだった。「一億総活躍・働き方改革・生産性革命」などのスローガンが実効性のある具体策にまで絞り込まれなかった。
「安倍政権の成長戦略は、良く言えばビジョン重視、悪く言えばスローガン倒れだった」(カギカッコ内は元日銀調査統計局長・早坂英男氏の引用。週刊東洋経済誌10月24日号)。
菅政権の経済政策は、アベノミクスが結果を出せなかった成長戦略の強化を重視するのではないかと筆者は思っているし、大方の人々はそう思っているに違いない。
安倍政権の成長戦略が中途半端だったのは、デフレ脱却が実現すればすべてがうまく行くというリフレ派学者の言葉をぜんぶ信用して、構造改革を無視または軽視したからである。
これに対して菅首相は個別的具体的な実例を挙げて順次やり遂げていくという姿勢を見せた。こうした姿勢が国民から好感されているのだと思う。
しかし、これでは改革のビジョンやスローガンに集まる海外資金が寄ってこない。
なぜ柿崎明二氏を首相補佐官にした?
柿崎氏はリベラルに近い毎日新聞社に入社し、その後リベラル派共同通信社の記者に転じ、それなりの取材力と舌鋒鋭い政権批判で活躍してきた記者だ。
当然、安倍政権を8年間批判し続けてきた。それが菅政権の首相補佐官に起用されるということは永田町を驚かせたと同時にマスコミ界でも「転びバテレン」の衝撃を与えたと思う。
気骨ある政治記者は政治家の懐に飛び込んでも取り込まれることはなく、一線を画して客観的に観察し、すべてを書き語るはずだ。
しかし、凡庸な記者は「転びバテレン」として取り込まれ、政権の代弁者になるだけだが、どういうつもりか、彼はあっさりと首相補佐官に転じた。
安倍政権を正当に継承すると言っている菅政権に対して、今まで安倍政権を批判し続けてきた男があっさりと登用されるのは実に不思議であるし、誘われたとしても断るのが当然の筋道だから、永田町もマスコミ界もこれには驚いた。
当の菅氏はいかなるハラなのだろうか。
Next: 安倍政権批判の先鋭を取り込んだ菅首相の思惑は?
柿崎氏を通じてリベラル派の意見を把握する狙いか
柿崎氏は共同通信社の論説副委員長を長く務め、リベラルな論客であるが、極端に言えば左翼の人であった。菅首相はこの人を事実上の首席補佐官に決めた。柿崎氏は9月30日付で共同通信社を退社して首相補佐官に就任した。
彼は8年間、安倍政権の批判の先頭に立っていた。柿崎が「転向」したというならば潔いが、ジャーナリストからは「転びバテレン」として蔑視され、安倍元首相陣からは安倍政権批判の先頭だった者を主席補佐官にするとはどういう腹だろうと反感を持たれているに違いない。
ところで筆者が20年前から一目も二目も置いてきた元外務省主任分析官の佐藤優氏は、こう言っている。佐藤氏は外交官時代に柿崎氏の取材を何度も受けたことがあるが、「事実を知るために徹底的な取材を行い、それを報道するという姿勢を崩さないジャーナリストだった」「オフレコの約束を彼が破ったことは一度もない」。
嗅覚の良い柿崎氏を通してリベラル派が、何を知り、何を考えているかを菅首相が知りたいのかもしれない。
ちなみに筆者は今でも「しんぶん赤旗」をとっている。それは1つには懐古趣味であるが、1つには筆者が推測する菅首相の心底と共通するものがある。
第1部:当面の市況
(1)当面の市況
(2)マザーズ市場、高値警戒感で大幅急落
(3)25日線からも騰落レシオから見ても過熱のエリアではないが、マザーズ市場は「竿先の曲芸師的な妙味」
(4)ゴールデンクロスが21日に示現、景気敏感株に買いが入った
(5)トランプ対バイデン獲得選挙人数のシミュレーション
(6)欧州市場の流れ
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第2部:中長期の見方
(1)長い間続いた膠着レンジ相場を上抜ける可能性はあるか
(2)菅政権の経済政策への期待;1
(3)菅政権への期待;2
(4)柿崎明二氏を首相補佐官にしたことについての疑問
(5)柿崎明二氏を事実上の首席補佐官に当てるという人事を決定した菅首相の心底は奈辺にあるのか
(6)菅政権も対中国での傍観は許されないと前週号で述べた、その続き
(7)景気と株式相場との関係は「トレンド」見るか「レベル」で見るか、つまり「角度」で見るか「水準」で見るか
(8)菅政権の政策に期待‐デジタル庁の設置と農水産物の輸出拡大
(9)これはバブルだ
(10)バブルの後始末はどうなるか
(11)菅政権と日本株の相場
(12)米国長期金利の下げ止まり傾向
(13)21年度成長率の見通し(IMFが13日公表)
(14)「新・財テク」が日本を救うか?
(15)我々は「世紀の因縁場」に居るのだ
(16)歴代政権に「政策を売り歩く商売人・竹中平蔵」
(17)スウェーデンの失敗
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来週号の予定
・過剰流動性問題
・これはもうバブルだ(銀行の法定準備額の34倍の資金供給をした日銀。1990年来のマネタリーベースは16倍)
・「熱狂する市場、いつ醒める? 異形のバブル、変調の兆しはどこに?」
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- 長い間続いた膠着レンジ相場を上抜ける可能性はあるか(10/25)
- 菅政権の「デジタル庁の創設」や「規制改革」を(10/18)
- 日本株売買の7割前後を占めてきた海外投資家の動向(10/11)
- 勝者のいない大統領候補者討論会の1回目(10/4)
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『山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2020年10月25日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。